第83話 魔女の裏切り その2
烏谷明日莉は魔女同盟の館の前に来た。彼女は館を見てフッと口角を上げる。ここに来るのは新しいリーダーを決めた日以来だ。前回は屈辱的な気分を味わったが、今回は違う。小躍りしてしまいそうな良い気分だ。…なにせ今から、あの屈辱を晴らすことができるのだから。
館の庭園では、志乃と瑞葉の2人で花壇に水やりをしていた。
「きれいなペチュニア~。あっ!こっちはマリーゴールド!やっぱりお花は見てて楽しいね~」
志乃は色とりどりの花を見て心を和ませる。
「嫌なことがあっても、この花々を見てれば元気が出てくるのよね~。でも、これだけ広いと手入れも大変なのよ」
「任せて!私こういうの好きだから!」
志乃は拳を前に出して張り切るポーズを見せる。今まで広い館を少人数で管理してきたので、頼もしい助っ人ができて喜ばしい限りだ。――瑞葉がそう思ってると、誰かが敷地内に入ってくるのが見えた。
「…ん?」
瑞葉は眉を寄せてその人物を凝視する。…と、瑞葉はハッとした。
「げっ…!なんであいつが!?」
瑞葉は途端に嫌そうな顔になる。彼女の様子の変化に、志乃は首を傾げた。
「あっ!瑞葉っちみっけー!」
一方、その人物…烏谷明日莉は瑞葉の姿を見つけた途端、かくれんぼで子を見つけた鬼のようにはしゃいで見せた。
瑞葉は志乃のそばに駆け寄り、ひそひそと耳打ちする。
「あいつが例の奴よ…」
「おっ!あたしの知らない子がいるー!…ん?」
花壇越しに志乃達の前に来た明日莉は志乃の顔を見て興味を示すが、何か気付いたのか、すぐに怪訝な顔になった。
「なんか…静歌に似てるね」
「当たり前でしょ。静歌様の妹だもの」
瑞葉が当然の様に答えた。途端、明日莉は手を前に出して驚愕する。
「えぇー!?静歌の妹ぉーー!?…あ、でもそういや聞いたことあるよーな…」
声を出して驚愕するが、よくよく考えれば以前耳にしたことがあったようだ。
変化の激しい明日莉に対し、志乃は立ち上がって満面の笑みを浮かべる。
「初めまして。如月志乃と言います。今日から魔女同盟の一員になりました。よろしくお願いします」
「よ、よろしく…」
丁寧な口調で自己紹介し、頭まで下げる志乃に明日莉は戸惑いを見せる…が、すぐに気をとり直す。
「あたしは烏谷明日莉。今は魔女同盟で一番年上よ」
自己紹介をし、ついでに偉いんだぞアピールをする。それに対し、志乃はニコニコしたままだ。
「そうなんですね。後輩としてよろしくお願いします」
どこまでも丁寧で愛想が良い志乃に、明日莉は心の中でにやけた。
『静歌と違って性格良さそうね~。これはうまくこき使えるかも~~。フフフ…』
いいカモが見つかって、気持ちいい気分がさらに高まる。面には出さないが、面白くて仕方がなかった。
「ところで、今日は何の用で来たの?」
瑞葉が冷めた表情で尋ねる。
「そりゃ瑞葉っちが心配だからに決まってんじゃーん!」
「ぎゃー!!触るなぁ!!」
明日莉が勢いよく抱き着いてきたので、瑞葉は慌てふためき、力一杯引き剥がそうとする。志乃は端から見ていて、素直に微笑ましく思えた。
その後、明日莉は一人館の中に入り、通路を歩いていく。…すると、対面から月音が来るのが見えた。瞬間、明日莉は顔に影を落とす。
月音の方も明日莉に気付き、2人は無言で近づいていく。――そして、目の前に来たとき、月音が立ち止まって声をかけた。
「こんにちは明日莉」
月音は少し頬を緩めて明日莉を見るが、明日莉の方は構わずにすれ違った。そして、少し歩いたところで足を止めた。
「久しぶり…ってわけでもないか。うまくやってるの?」
「うん…。なんとか」
明日莉の声はひどく冷たかった。月音は冷や汗を垂らし、気まずそうに返事をする。
「…そう。なら良かった」
明日莉はそれだけ言って、再び足を前に進める。……彼女の目は据わっていた。
月音はその場に佇んだまま、拳をギュッと握りしめる。――その様子を、陰から美雨がそっと覗いていた。




