第82話 魔女の裏切り その1
とある地下室に、青塚の姿があった。青塚はテーブルの前のソファーに腰かけ、札束の枚数をペラペラとめくりながら確認し、封筒に入れる。
「ほら、謝礼金10万だ」
青塚はお札の入った封筒を、ソファーの横に立つ人物に差し出す。
「じゅ、10万!?」
その人物は……魔女同盟の烏谷明日莉だった。明日莉は、差し出された10万という金額に驚愕の色を示す。まさかこんなに貰えるとは思っていなかったようだ。
「どうした。早く受け取れ」
対して、青塚は明日莉をじっと見て、冷淡な態度で催促する。明日莉は手を震わせながら、封筒を受け取った。その瞬間、明日莉は封筒の厚みを感じ、嬉しそうににやけた。
『や、やったぁ…!月音が新リーダーになったことを教えただけでこんなに…!』
明日莉は心の中でガッツポーズする。心躍る気分だ。魔女同盟のリーダーが月音になったという情報だけで10万円もの報酬が手に入ったのだ。バイトで長い時間苦労しなければ手に入らない金額が、"たった一言"で手に入ってしまった。
そんな明日莉を見て、青塚は口角を上げる。
「満足してくれたようで何よりだ。君達にはあまり認識がないと思うが、情報は金だ。この世の中、有益な情報というのは高値で取引されている。だから、君が教えてくれた情報は、それだけの価値があるということだ」
「お役に立てて何よりです!」
明日莉は畏まった口調でそう言って頭を下げる。
「そうだ。君は役に立っている。…もし良ければ、もっと情報を仕入れてきてくれないか?もちろん、その分の報酬は用意するよ」
「は、はい!もちろんですとも!頑張りますっ!」
明日莉は頭を上げてビシッと背筋を伸ばし、情報収集を引き受けたのだった。
その後、明日莉は部屋を後にし、古びた低層ビルから外に出た。
「ん~~~!やったぁーー!」
明日莉は両腕を勢いよく上げて、喜びを全身で表現する。そして、封筒の中に手を入れてお札を取り出し、自分でも枚数を確認する。…確かに諭吉が10枚ある。
「諭吉さーん!大好きだよー!」
明日莉は嬉しそうにお札で頬をさする。しかし、すぐに顔を上げて意欲に燃える表情になった。
「いや、まだまだ…!もっともっと有益な情報を仕入れて、がっぽがっぽ稼いでやるんだ!フッフッフ…!見てろよ~魔女同盟…。あたしをリーダーにしなかったこと…後悔させてやるんだから!」
明日莉は企みの笑みを浮かべて意気込むと、どこかへ去っていった。
一方、部屋に残っていた青塚は、明日莉がいなくなった後にタバコを取り出し、口にくわえて火をつけた。フー…と煙を吐いていると、部屋の床の一部が泥のように茶色く変色し、下から土槍が顔を出してきた。
「いいっすねーあの魔女。俺でもバカだと思いましたよ」
土槍がそう言うと、青塚はフフフと笑い出した。
「ああいう欲深くて単純なやつは使い勝手がいいんだ。最初にそれなりの金を渡しときゃ、結構稼げると思い込み、意欲を掻き立てやすい。しかも、まだ社会人じゃねーから低い金額で済むしな。…んで、用がなくなったらポイさ」
「兄貴ったら悪い人っすねー!」
青塚の説明に土槍はにやける。そして、2人はハハハとおかしそうに笑い飛ばしたのだった。
志乃と美雨は、館内の部屋で月音、瑞葉、暁美の3人と話をしていた。
「美雨が戻ってきてくれて嬉しいよ~。志乃も、こんなに明るい子だったなんて」
暁美は嬉しそうに志乃達を見て話す。彼女は志乃の本来の人格を知らなかったため、今の志乃がイメージと180度違うことに驚いていた。
すると、瑞葉がいじわるそうににやける。
「志乃はもう一つの人格の方がちょっと知的な部分があったけどね~」
「あー!瑞葉ちゃんひどーい!私こう見えて優等生なんだから」
志乃は腰に手を当てて優等生面をアピールする。…が
「嘘つけー」
「嘘だよー」
瑞葉がすかさずツッコミを入れたので、志乃もすぐに嘘だと白状した。その2人のやり取りを見て、他の3人は面白そうに笑う。――そんな和やかな雰囲気が続いていた。
「まだ会ったことない人が結構いるんだよねー。美雨ちゃんはみんな知ってる?」
「ええ。私は以前に全員と顔を合わせているわ」
「じゃあ私だけかー。どんな人たちなのかなー」
志乃はまだ魔女同盟の全員の顔を知らない。楽しい出会いを想像して、期待に胸を膨らませる。…一方、瑞葉は少し表情を曇らせた。
「ほとんどの人は良い魔女よ。…でも、一人だけ嫌な奴がいるわ」
瑞葉の言葉に、月音と暁美も表情を曇らせる。志乃は首を傾げて見せた。
「どんな人なの?」
「年齢は静歌様と同じよ。性格は一言で言うと、自分勝手で欲深くて変にプライド高くてずる賢くて…」
「ちょっとちょっと…、一言で収まってないよ」
その人物の悪口をべらべらと並べる瑞葉に、隣から暁美が苦笑いしながらツッコミを入れる。瑞葉は相当文句を言いたいようだ。
「へぇー…。そんな人がいるんだー」
志乃が意外そうに聴いていると、月音が瑞葉の方を向いた。
「瑞葉、あまり先入観を持たせるのはよくない。もしかしたら、志乃ならうまく付き合えるかもしれないし」
月音の指摘を聴いて、瑞葉は頬杖をつく。
「まぁ…確かに、あいつも魔女同盟の一員だから放っておくわけにもいかないしね。志乃だったら案外うまくいくかも」
そう言って志乃の顔を見る。志乃は拳をグッと握りしめて意気込みの姿勢を見せた。
「大丈夫!頑張ってお友達になる!…あ、でも私より4つ上だから友達というよりは先輩だね」
「先輩ねー…」
瑞葉はボソッと呟くように言う。…と、志乃が瑞葉に向かって前のめりになった。
「瑞葉ちゃんも先輩だからよろしくね!」
「あっ…、そうだったそうだった…。その設定すっかり忘れてた」
瑞葉は志乃と最初に出逢った時に、自分のことを先輩だと豪語していた。…が、今では仲の良い友人。しかも彼女より年下なので、先輩という設定を意識していなかったのだ。瑞葉の反応に4人はおかしそうに笑った。




