第81話 魔女の決断
志乃はベンチに座って缶コーヒーをゴクゴクと調子よく飲む。
「ぷはー!泣いた後のコーヒーはおいしーね!」
志乃は缶から口を離すと、気持ち良さそうに笑顔を向ける。対して、隣に座っている亮司は無愛想な表情でくつろいでいた。
「泣いた後にコーヒー飲んだことねぇからわかんねぇよ」
志乃の感想に亮司が淡白な口調で指摘する。すると、志乃はいじわるそうににやけて見せた。
「渡良瀬はどういう時に泣くの?私と勝負して負けたときとか?」
「あーー、そりゃ泣くだろうな。大泣きだ。如月に負けるなんて屈辱的だからな」
亮司は困り顔になって、わざとらしく抑揚のある口調でそう言う。ベンチの前に立って聞いていた月音は、亮司の言い方に呆れ顔を浮かべた。
「ひどい言いようだな…」
「ひどいよねー。ちょっとか弱い女の子だったら、今の一言で泣いちゃうもん」
志乃も乗っかるように口をだし、やれやれと肩をすくめる。しかし、亮司はそんなことを言われてもお構いなしだ。
「お、如月は泣いてねぇな。おまえはか弱くないってことだ」
「私も元々はか弱かったんだけど、デリカシーの無い渡良瀬といるうちに、いやがおうにもメンタルを鍛えられちゃったからねー」
亮司が皮肉そうに指摘すると、志乃も対抗するように皮肉を込める。皮肉を言われて感情的になったら、もう後は亮司の思う壺である。皮肉を言われたら皮肉返しだ。これが何かにつけて皮肉を入れる亮司との話し方なのである。
「毒をもって毒を制すね」
「アハハ!美雨ちゃんそれいいー!」
月音の隣に立つ美雨の一言に、志乃はおかしそうに膝を叩いて笑う。口数は少ないものの、なかなかクリティカルなことを言う美雨。3人のやり取りに、月音は一人呆気に取られていた。
「いつもこんな感じなのか…?」
「ええ」
月音は美雨に尋ねる。美雨は困り笑いを浮かべて頷いた。
「緋崎も毒に侵される前に帰った方が良いぞ。…あ、あっちはあっちで別の毒がいるか」
亮司は月音を見てそう告げるが、月音は最後の言葉の意味がわからず、首を傾げた。
――同時刻の魔女同盟の館にて。
「ハックション!!……誰か私の噂してるわね」
瑞葉が盛大にくしゃみをした―――
罵り合う亮司と志乃だが、月音はそんな二人を見てなんだか羨ましく思えた。そして、頬を緩めて柔らかい表情になる。
「私も…本当は、こういう気楽な感じの方が好きなのかもしれない」
「月音ちゃん…」
志乃は月音の顔をじっと見る。そして、何か決心したような表情になった。
「私、月音ちゃんがリーダーなら、魔女同盟に入ってもいいかな」
「えっ!?」
志乃の思い切った発言に、月音は驚いて目を丸くする。思ってもいなかったことだ。志乃が自ら魔女同盟に入ってもいいと言うなんて。
「いいでしょ?渡良瀬」
「あ?俺は保護者じゃねぇんだぞ。…まぁ、自分の本心でそう思ったなら、俺は別に良いと思うがな」
いいかどうか尋ねる志乃に、亮司はツッコミを入れつつも、志乃の決断を悪いとは思っていない。自分に正直になって決めたことは、誰が何と言おうと自分にとって最善の決断なのだ。
「じゃあ入る!よろしくねー月音ちゃん!」
志乃はベンチからピョンと飛び上がり、月音の前に立って笑顔を向ける。
「あ…!うん!」
月音は戸惑いを見せていたが、志乃の柔らかな笑顔を見て、こちらも笑顔を返さずにはいられなかった。
「この際、私も戻っちゃおうかしら。いい?」
美雨も顎に人差し指を当てて考える素振りを見せ、月音に尋ねてみる。
「もちろん!美雨が居てくれたら心強い!」
月音は嬉しそうに受け入れた。そして、チラッと一人ベンチに座ったままの亮司を見る。
「渡良瀬も……入る?」
試しに訊いてみるが、途端、亮司は顔をしかめた。
「あぁ?俺は魔女じゃねーんだぞ。入るか」
当然亮司は突っぱねるが、志乃が何か思いついたのか、月音に尋ねる。
「外部顧問みたいな感じにするのはどう?参謀役で入れるとか」
「確かに…」
志乃の提案に月音は納得したような表情になる。
「おい、納得すんなよ…」
亮司は呆れ顔でツッコミを入れた。
こうして、魔女同盟に入ることになった志乃と美雨は、早速月音と共に魔女同盟の館へと向かった。
中に入って通路を歩いていると、向こうから瑞葉が歩いてくるのが見えた。
「あ!瑞葉ちゃーん!」
志乃は瑞葉を見るや、一人駆けだして瑞葉の前に立った。一方、瑞葉は意外な来客にびっくりした表情を向けている。
「志乃!それに美雨まで…。どしたの?」
何故ここに来たのかわからない瑞葉に、志乃は企みの笑みを浮かべる。
「フッフッフ…。なんで来たと思う?」
「何よ?なんか変なこと企んでないでしょうね…?」
にやける志乃に瑞葉は警戒心を抱くが、志乃が笑顔になって告げた。
「私と美雨ちゃんね、今日から魔女同盟に入ることにしたんだー」
「えぇっ!?」
瑞葉は驚いてのけ反る。瑞葉も月音同様、志乃と美雨が魔女同盟に戻ってくるなど思ってもいなかったのだ。
2人とも、かつては魔女同盟に入っていたが、美雨は志乃の強制連行の件で脱退したし、志乃ももう一つの人格の時に入っていたに過ぎない。2人とも魔女同盟に対する印象は良くないと思っていた。
「な、なんで入ろうと思ったの!?」
瑞葉は驚きつつも理由を尋ねてみる。…と、志乃は満面の笑みを浮かべた。
「それはね、月音ちゃんと瑞葉ちゃんがいるからだよ」
志乃の言葉と笑顔に、瑞葉は思わず頬を赤らめてしまうのだった。




