第79話 見えない企み
亮司たちの前に現れた青塚は、倒れている静歌の前に立って彼女を見下ろす。
「気を失っちまってんのかぁ…。こりゃだめだな」
残念そうにボソッと呟くと、蹴り飛ばされた亮司が上半身を起こして青塚を睨み付けた。
「てめぇ…、今更ノコノコ出てきやがって…、何のつもりだ」
すると、青塚は振り返って亮司に近付いていき、目の前に来ると屈んで亮司の胸ぐらを掴み上げる。
「お嬢の熱を冷ましにきたんだよ。見た目によらず熱くなりやすいタイプだからな」
「てめぇ、あの女をどうしたいんだよ?」
険しい表情の亮司と対照的に、青塚はへらへらと笑っている。この男の目的がわからない。一度戦っているから強さへの恐れはないが、得体の知れない何かを感じる。
「お嬢は魔女狩りのボスを殺そうと思っている。それは俺にとって大事な事なんだ。だから生かしている」
亮司はハッとして目を見開く。
「まさか…!組織を乗っ取るつもりか!」
青塚は口角を上げると、いきなり亮司の顔を横から殴り飛ばした。
「渡良瀬!!よくも…!」
月音は青塚を睨み付け、痛みをこらえて青塚に向かって炎を放った。――しかし、炎の勢いは無く、青塚に到達する前に消えてしまった。青塚は滑稽に思い、ケラケラと笑う。
「ハハハ。お嬢に魔力を奪われたから不足してるんだろ。無茶すると体に悪いぜ?」
「くっ…!」
月音は悔しそうに歯を食いしばる。元々魔力を奪われた上に、先程の戦いでほとんど消費してしまった。今、この男を倒すほどの魔術は発動できない。魔術が発動できなければ、自分は普通の人間に過ぎない。亮司と美雨を助けることができない。
青塚は面白そうに笑っていたが、ふと、体に違和感を感じた。…足が動かないのだ。
亮司の方に目を向けると、彼は立ち上がって不敵な笑みを浮かべていた。
「調子乗るのもいいけどよ…、むやみやたらと暴力振るうのはどうなんだよ」
亮司は青塚に近付いていき、仕返しとばかりに拳を振り上げて殴りかかった。―――その時
バシャアァ!
亮司と青塚の間のアスファルトが局所的に泥のようになり、そこから足が飛び出して亮司の拳を弾いたのだ。
「なっ…!?」
突然のことに亮司は驚愕する。青塚の能力じゃない…。もちろん静歌の魔術でもない。…他に誰かいるのか。
足はまたすぐに引っ込んで地面の中に姿を消した。しかし、入れ替わるように、全身タイツにマスクをつけた男が地面から顔を出してきた。
「!!もう一人居やがったのか…!」
「おぅい小僧、能力を解除しろよぉぉ~~。さもないとよぉ~~、おまえの足も…」
ガシッ!
タイツの男は両腕を出して亮司の足を掴んだ。そして、にやけた顔を亮司に向ける。
「こうやって固定してやるよぉ~~」
間延びした喋り方に反して、男の目は殺気を帯びていた。一体何の能力者なのか?初めて見るタイプだ。抗えば地面の中に引きずり込まれてしまうのではないか……と、亮司は恐れを抱いた。
「おっ!動けるようになったぜ。土槍、お嬢を地下に運べ」
「あいよぉ~!」
青塚の指示を受け、土槍という男は亮司の足から手を放すと、一旦地面に潜って姿を消した。そして、静歌のそばの地面から再び顔を出し、素早く静歌の体を抱えて地面に潜り込んだ。
「おい…!ちょっと待て!!」
亮司は土槍に向かって叫ぶが遅かった。亮司は青塚に顔を向ける――が、既に青塚の姿も無くなっていた。
「待ちやがれ青塚!!」
亮司はポケットから手鏡を取り出して青塚の姿を探す。――と、静歌が倒れていた方向に彼の姿を発見した。
「まだ話は終わってねぇ!」
亮司が呼び止めると、青塚は立ち止まって振り返り、不敵な笑みを浮かべる。
「そんな小さい鏡じゃ不便だろうよ。やっぱり、あの妹がいないとだめだなぁ。今度はちゃんと連れてこいよな。ハハ!」
笑い飛ばす青塚に、亮司は悔しそうに歯を食いしばる。――と、突然、前方の地面から泥が飛んできて、亮司の手鏡にベチャリとこびり付いた。
「…!この野郎…!」
亮司は苛立ちながらすぐに鏡に付いた泥を落とし、再度青塚の姿を探す――が、今度は鏡で見ても姿を見つけることはできなかった。
「渡良瀬…」
月音は心配そうな表情で亮司を見ていた。消化不良な感じだ。何か…この先、不穏なことが起こりそうな気がしてならなかった。




