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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第1章 小さな芽吹き
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第7話 物体軟化


 平日の午後、志乃はクラスメイト2人と帰宅途中だった。


「志乃~、ヘアゴム変えたよね~。なんで?」


 友人の一人、高森由香がそう指摘する。志乃は髪をサイドで結わいており、花柄のヘアゴムを付けているが、これまで青色であったのに対し、今は赤色のものを付けている。ちょっとした変化に過ぎないが、今までずっと同じものを付けていたので、由香は気になったようだ。


「別に~、ちょっと変えてみたかっただけ」


「おっ、これなんじゃないの~?」


 由香はそう言って親指を立てる。すると、もう一人の友人、佐倉小蜜さくら こみつが口に手を当ててハッとした表情になり


「えっ?志乃ちゃん彼氏できたの?」


 かなり驚いているようである。志乃は慌てふためき


「こらこらこら!二人とも!話が飛躍しすぎでしょ!ただ変えただけなのに!」


 変な噂話ができないように全力否定。だが、友人二人はちょっとばかり期待していたようで、片方はつまらなそうな表情をし、もう片方はがっかりした表情になる。


「その顔やめーい!」




「あっーーー!!またかゆくなってきたぁーー!!」


 小部屋の中で男が体中を掻きむしる。せっかくかゆみが収まったというのに、そうそう時間が経たないうちに再び蕁麻疹が発症したのだ。当然男の気分は著しく悪くなる。男は座っていた椅子を乱暴に蹴り飛ばし、手を机に勢いよく当てて、前のめりになって窓の外を覗いた。


「今度はどいつだぁーー!?ハエみてぇにチョロチョロしやがってよぉー!!……!」


 男が大声で文句を垂れていると、女子高生が3人組で歩いているのが見えた。別にそれ自体は何も不思議ではないのだが……。


「見つけたぜぇ~~!あいつだぁ~~」


 男はとびきり不気味な笑顔でターゲットを見つめる。男の視線は3人のうち一人……志乃に向いていた。



 ゾクッ…!


 突如、志乃の背中に悪寒が走る。志乃はすぐさま顔を振り向かせた。その方向は雑居ビルの中にひっそりと建つ古びたマンションの一室。そこの窓から、遠くてよく見えないが……男がこちらをじろりと見ているのがわかった。


「どうしたの志乃ちゃん?」


 志乃が足を止めたのが気になり、小蜜が声をかける。


「あっ、私、学校にノート置いてきちゃった!」


「えーっ、今日の宿題で使うやつ?」


「そうそう!二人ともごめん!今日はここでおさらばするよ!」


 そう言いながら、手を上げて体を元来た方向へ向ける。


「志乃のドジー。宿題諦めちゃえば?」


「それは無理!私優等生だから!」


「うそつけー」


 由香はジト目でそう指摘するが、志乃は既に学校の方へ小走りで戻っていっていた。



 志乃は二人と別れると、表情が一変し、緊迫したものとなった。


『さっき見えた男…、明らかに私のことを見てた…。それに殺気も感じた…。もしかして…もしかしなくても魔女狩り…?』


 走りながら考えを巡らせる。男は自分を狙っていた。恐らくもう間もなく襲ってくるのではないか…。先日戦った魔女狩りも…そして亮司も特別な能力を持っていた。それは魔術と似て非なるもの…。亮司がいたから辛くも勝つことができたが、今は一人だ。迎撃体制はできているが……不安感は消えない。


 ズブズブ…!


「えっ…!?」


 突然のことだった。自分の足がぬかるみにでもはまったかのように沈んだのだ。志乃は反射的に足元を見た。…すると、なんでもない筈のアスファルト舗装された道が、自分の足元のところだけ柔らかくなっているのだ。


「足がっ…!」


 志乃は慌てて足を抜き出そうとしたが……


 ピキーン


 柔らかくなっていた地面がもとの固さに戻ったのだ。志乃の足はあっという間に地面とくっ付いてしまった。


「そんな…!うそ…!?」


 ほんの数秒間の内にとんでもないことになってしまった。予想なんか当然していなかったが、こんなことになってしまうとは……。志乃は冷や汗を垂らす。


「ハロォ~~!魔女のお嬢ちゃ~ん!どぅ~~?俺の能力は~~?」


 志乃の前に不快な声を発する気味の悪い風貌をした男が現れた。先程窓から自分を見ていた男だ。嫌な予感が的中したわけだが……最初っから不利な状況下に置かれてしまうとは…。志乃は歯を噛みしめる。


「やっぱり私を狙ってたんだね。こんないきなり攻撃仕掛けてくるなんて…」


「ぐあぁぁぁ!!かいいぃぃぃ!!」


 突然、男が大声を上げて体中を掻きむしり始めた。志乃はビクッとして呆気に取られるが、男はお構いなしに掻き続ける。


「か、かゆい…?」


 攻撃を仕掛けてきたと思えば、今度は自分の体を必死にかきむしる……、男の奇怪な行動は不気味そのものだった。

 …と、男は手をピタリと止め、ゆっくりと顔をこちらに向けてきて、ジロリと血走った目で志乃を睨み付けた。


「…おまえ、今俺のこと…変な奴…とか思っただろ」

「えっ…?」


「てめぇぇぇ!!俺のこと"変な奴"とか思いやがったなぁぁ!!俺は魔力アレルギーで苦しんでるっつーのに!体中に蕁麻疹ができてんだぞ!!てめぇのせいなのに…俺を変な奴だとぉぉ!?ぶっ殺す!!」


 突如、男は唾が飛び出す勢いで怒鳴り散らした。その目は狂ったような殺意で満ちている。……やばい。志乃は急に怖くなった。体が震える。


「俺をこんなに怒らせたやつはボコボコに殴りまくって殺してやる!!おらぁぁ!!」


 男は拳を振り上げて志乃に殴りかかった。


 バチッ!


「ぐえっ!?」


 …が、志乃の目の前で男の拳は何かに弾かれた。


『今がチャンス…!』


 男が怯んだ隙を志乃は見逃さなかった。手のひらを男に向け、光弾を放った。

 光弾は男に命中し、そのまま男を勢いよく壁に叩きつけ、爆発を起こした。


 ドォォーーン!!


 辺りが土煙で覆われる中、志乃の足が動けるようになった。


「やった…!」


 攻撃を受けた際に、男が能力を解除したのだ。これで、志乃は自由に動けるようになり、不利な状況から抜け出すことができた。


「女の子の顔を殴ろうなんて、サイテーな男ね!」


 志乃は仁王立ちして、煙の先の男を睨み付ける。―――と、


「ふ~~ん…。お説教か~い?」

「!?」


 志乃はハッとする。生身の人間が光弾を喰らったらかなりのダメージを受けるはず…そう思っていたが…。

 煙が晴れると……男は平然と立っていたのだ。


「なっ…!全然ダメージ受けてない!?」


 無傷というわけではないが、志乃が予想していた展開とはかけ離れていた。志乃が驚くのを見て、男は面白そうに彼女を見る。


「グヒヒ!ど~やったと思う~?」


「このっ…!」


 志乃は再び光弾を放った。…だが、男は軌道が読めており、軽々と避けてしまった。


 ドォォーン!!


 光弾はスカって後方の壁を破壊した。


「ぐひゃひゃ!!攻撃が単純なんだよぉぉ!!」


「そうかな…」


 志乃はフッとにやけた。男がハッとすると、光弾によって破壊された壁の破片が吹っ飛んできたのだ。……が、ありえない光景が志乃の目に映った。


 グニャ…


 なんと、男の顔が変形して破片を避けたのだ。志乃はその光景に唖然とした。男は自分の体をも柔らかくして変形できるのだ。さっき軽傷だったのは、光弾を喰らう直前に体を柔らかくして、吹っ飛ぶふりをしながら光弾のエネルギーを吸収していたのだ。


「ぐひゃひゃひゃ!!どんな奇策を練ろうが俺には通用しねーんだよ!!」


 男は腕を組んで余裕そうな表情を浮かべる。…と、またいきなり体を掻きだして


「あ~~かいぃぃなぁ!!もう我慢の限界だぜ。この前の魔女は地中に埋めて窒息させてやったが、てめぇは一瞬で殺してやる」


 不気味な目つきでそう告げ、男は今いる位置から志乃を軸に直角になるところまで移動した。


「この前の魔女…?あんた……何も罪のない人を殺したんだ…」


 志乃は顔に影を落として、憤りを感じる。この男は魔力アレルギーだからという理由だけで、罪のない魔女たちを殺しているのだ。


「うるせぇクソアマァ!!その腐れ脳みそぺしゃんこにしてやるよぉぉ!!」


 次の瞬間、


 グラッ…


 志乃は目を見開いた。真横の建物がドミノ倒しのように突然倒れだしたのだ。


「ギャーハッハ!!建物の根元を柔らかくしたんだよ!!圧死しちまえよぉ!!」


 間に合わない…!死への恐怖と葛藤する間もなく、建物は既に目前に迫っていた。


 ピタッ…


 音が急に鎮まった。無音の時間が過ぎる…。志乃はゆっくりとまぶたを開ける。


「…!」


 迫っていた建物はオブジェクトの様に静止していた。このありえない現象……可能にできるのは一人だけ。


「渡良瀬!」


 志乃がその名を口にすると、手を握られ、その場から引き連れられた。


 ドォォーーン!!


 轟音と共に崩れる建物を背景に、志乃を救出した亮司が男を睨み付ける。


「うひゃ~~~!!お姫様を助け出す王子様みたぁ~~い!!」


 男は両手を握ってわざとらしい歓声を上げる。


「…ところで、魔女狩りだよなおまえ…」


 かと思えば、表情を一変させてジロリと亮司を睨み付けてきた。


「だったらどうだってんだ」


 亮司がケロッと自分の正体を明かしたのが、男にはおかしく思えた。


「おいおいおいおい!魔女狩りが魔女を助けるなんてよぉー!地球の重力が逆転するくらいありえないことだぜー?てめぇはその"ありえないこと"を平然とやったんだ」


「そいつはてめぇにとっての"ありえないこと"だろ?俺にとっての"ありえない"は、自分勝手な理由で罪のない人間を殺すことだ」


「ギャハハーー!!くっせぇセリフ吐いてんじゃねーー!!てめぇも隣の魔女と一緒に地中に埋めてやるよぉぉーー!!」


「させない!!」


 志乃は素早く魔術を発動し、男の上空に無数の光の矢を発現させた。その数、軽く20は超える。


 ヒュンヒュンヒュン…!!


 光の矢が一斉に男に向かって降り注ぐ。男はどうやって身を守るか…。


「無駄だ無駄!!俺の体は変幻自在だってこと忘れたのか……って」


 男は自分の体をスライムの様に柔らかくして攻撃を避けようとしたが、体が何故か動かない。


「馬鹿が。俺の能力を忘れたのか」


 亮司がけなすようにそう告げる。彼が男の体ごと固定したのだ。


「こうなりゃ地面を柔らかくして避難だ…!」


 男は地面に潜って攻撃を避ける策をとった。…が、やはり体は動かない。


「なにぃぃーー!!動かねぇ!!まったく動かねぇ!!」


 ドォォーーン!!


 次の瞬間、光の矢が降り注ぎ、激しい爆発を起こした。

 吹き荒ぶ爆風ともうもうと立ちこめる煙を見て


「…たく、魔術ってのはこうも派手なのが多いな…」


「うるさいなー。大きなお世話!」


 亮司がボソッと愚痴をこぼすのを耳にし、志乃は不服そうに抗議する。


 ――その後ろで、黒こげになって倒れている男が手足をピクピクさせているのであった。


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