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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第4章 新しい風
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第74話 飢える魔女 その1


 美雨の飛ばした蝶が、B-3にあるアジトの近くまで来ていた。

 アジトの中では、青塚が相変わらず椅子に座って新聞を読んでいる。すると、何か気になる記事を見つけたのか、視点を一点に集中させる。


「おっ!栄野神社の御神石おかみいし盗難だとよ。罰当たりなことする奴がいるもんだねぇ」


 床に伏せている静歌に聞こえるように口に出すが、彼女は反応せずにじっと窓の方を見つめている。青塚はハァー…と溜め息をつく。


「…って、興味ねぇか」


「…蝶」


 不意に静歌が窓を見つめたままボソッと呟いた。青塚は声に反応して静歌をじっと見る。


「美雨の…蝶だわ」


 青塚は釣られるように窓の外を見た。…すると、ヒラヒラと一匹の黒い蝶が飛んでいるのが見えた。亮司の仲間の魔女が偵察用に飛ばしてきたのだと理解する。


「ほぉー偉い偉い。ちゃんと仲間を連れてきたんだな」


 青塚は腕を組んでうんうんと頷く。


「志乃……!志乃はいるの…?」


 静歌は砂漠で水を求めるような必死さで志乃の名を呼ぶ。そして、力を振り絞るように、体から一匹の蝶を発した。蝶を飛ばして、志乃が来ているかどうかを確認しようとしているのだ。――しかし、蝶は飛び立つとすぐに煙のように消えてしまった。


「うく…」


 静歌は力無く頭を床に落とす。魔術を持続させることができない。今は生命を維持することで精いっぱいなのだ。


「無茶すると寿命縮めるぜ。妹が来てるかどうかなら、俺が確認してやるよ」


 今はとにかく療養するべきだ。妹に会いたいからと、体にムチを入れるのは、却って回復を遅らせることになる。しかし、静歌はそれでも諦めようとせず、手を床について体を起こした。


「この目で…もう一度見たい…」


 体に痛みが走る。それでも、静歌は上半身を起こして立ち上がろうとする。志乃に会いたいという強い願望が体を麻痺させているのだ。

 遂には立ち上がり、ゆっくりと窓辺に向かって足を進める。一歩歩くたびに激痛が襲いかかるが、それでも止まらない。痛みに屈する気持ちなどすっかりなくなっていた。今はとにかく志乃に会いたい―――それだけなのだ。


「ほほぉ…。気持ちで痛みを殺したか」


 青塚は感心したような目を向ける。こうなれば誰も静歌を止められないだろう。

 静歌は窓のそばまで来ると、手をガラスに当てて、じっと蝶を見つめた。すると、蝶は逃げるようにその場から遠ざかり始めた。――久しぶりに見た外の世界。今いる部屋は3階くらいの高さにあるようだ。窓辺から下を覗く。もちろん誰もいない。

 一方、青塚はタバコをくわえてライターで火をつけた。煙を吐きながら静歌の方に目をやる―――と


 ドサッ…


 静歌が突然倒れ込んだ。しかし、意識を失ったわけではなく、気力を無くしてしまったからのようだ。


「…志乃が来たら起こして」


 彼女はそう言って、再び体を床に伏せてしまう。青塚はやれやれと困り顔を浮かべた。


「なんだよ。お嬢様かてめぇは」


 皮肉交じりにそう言っても、静歌は聞く耳持たなかった。

 タバコを吸い終え、灰皿にこすり付けると、青塚は思い立ったように部屋を出ていく。暗い階段を下りて出口に向かう。外に出ると―――


「よぉ。今回は素直に現れたな」


 亮司、美雨、月音の3人が出迎えるように立っていた。亮司だけは口角を上げて青塚を見ている。


「いちいち能力使ったって、話が進まなくなるだけだろ?」


 青塚も対抗するように口角を上げて亮司を見る。亮司らは、青塚が能力を使ってくるのを多少なりとも警戒しているのだ。


「…それより、妹は連れてこなかったか」


「あんたの話を100%信じてるわけじゃなかったんでな。ただ、シスコン姉貴は確かにいるようだ」


 美雨の蝶が静歌の姿を捉えた。確かに彼女は目の前の建物の中にいる。青塚の話は嘘ではなかった。すると、青塚はやれやれと両手を上げてお手上げの仕草を見せた。


「来てねぇってわかったら、あの姉ちゃん酷くショック受けるだろうな。ずっと妹の事ばっか口に出してるぜ。それ以外は興味ないんだと」


 病的なシスコンぶりは健在のようで、亮司たちは内心、連れてこなくて良かったと安堵した。もし連れてきていたら、静歌がまた志乃のもう一つの人格を呼び起こそうとするに違いない。


「それより、あんたの目的…約束通り話してもらおうか」


 亮司が本題に入ろうと話を切り出す。ここに来たのは、その"目的"を聞くためなのだ。


「おぉ、"そういう約束"だったな。いいぜ。話してやるよ。一言断っとくが、俺はおまえらを攻撃しようとか考えてねぇからな。俺はねぇ、魔女を殲滅するだとか、魔女同盟を潰すだとかどうでもいいのさ。正直、魔女を憎んでいるわけでもないしなぁ」


 青塚は呟くように告げる。意外だった。この男は仮にも魔女狩りの幹部……いや、正確には元幹部だが、そんな立場になった人間が、魔女狩りの根幹をなすと言うべき行動理念を持っていないというのだ。


「意外だって顔してるが、おまえだってそうだろ?渡良瀬亮司。…あと、おまえの親友もそうだったな。確か…鬼怒勇真とか言ったっけな」

「…!」


 瞬間、亮司は目を見開く。青塚は構わず話を続けた。


「あいつは気の毒だったなぁ。組織のタブーを冒したとはいえ、あんな惨めな最期を遂げるとはね」


 途端、亮司が青塚の胸ぐらを掴み上げた。亮司は怒りを露にして青塚を睨み付ける。しかし、青塚は動じた様子を見せず、黙ったまま亮司を見ていた。


「…てめぇ、俺をイラつかせるのが目的か?」


「…らしくねぇぞ?」


 青塚は嘲笑うように口角を上げる。亮司が感情を露にするのは珍しいことだった。しかし、本人はそんなことどうでもいい。目の前の男を殴り飛ばしたい気分に侵されていく。――その時、月音が後ろから亮司の肩に手を置いた。


「渡良瀬、落ち着いて。こいつの作戦かも知れない」


 月音は亮司に冷静になるよう諭す。彼女の一言に、亮司は心を落ち着かせ、青塚を掴んでいる手を放した。


「話が逸れている。目的を話せ」


 月音は亮司の隣に立ち、青塚を睨み付けて冷静な口調で催促する。青塚は月音とは初対面だったが、彼女の鋭い威圧と冷静な態度に感心した。


「悪い悪い。ただよ、ここまで来てもらってなんだが、目的を素直に話したらつまらないだろ?」


「つまらないのはおまえだけだ」


 素直に話したがらない青塚。もどかしい状況に亮司はイライラを募らせるが、月音が代弁してくれた。


「鋭いツッコミだねぇ。裏切り君より冷静な子だ。君、魔女だろ?」


「私のことはどうだっていい」


 すぐに話題を逸らそうと、今度は月音に焦点を当てる青塚だが、月音はあくまで冷静に話を戻させる。


「どうだってよくねぇよ。だって魔女同盟の新リーダーなんだろ?」

「…!」


 月音は遂に冷静さを崩してハッとした。この男とは初対面。自分が魔女同盟の新リーダーになったことなんて知らないはずだ。


「新旧交代式しなきゃいけねぇよな。え?そうだろ?如月静歌さんよ」


 次の瞬間、青塚の隣に静歌が立っていたのだ。


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