第73話 焦げる心
美雨は驚いた表情を向ける。皆にバレないようにしていたが、月音は違和感に気付いていたのだろうか。
「美雨…、今からどこへ行く気?家とは違う方向だけど」
月音の鋭い問いかけに尻込みする。美雨は別れ際に家に帰ると発言したが、今いる場所は既に家とは逆方向だ。
「私に隠さなきゃならない事だったら話さなくていい。でも、隠さなくてもいい事だったら話した方がいいと思う」
月音はあくまで冷静に自分の意見を述べる。美雨が内密にやらなくてはならないことを邪魔するつもりはない。すると、美雨は観念したような顔になった。
「月音に隠し事は無理ね。…話すわ。今のあなたは魔女同盟のリーダーだから知る必要があるわ。カフェにいた時にかかってきた電話、渡良瀬からだったの」
渡良瀬というワードに月音は反応する。
「渡良瀬は今、魔女狩りの幹部のところに向かってるわ。…そこには、志乃のお姉さんもいる」
「…!!」
月音は目を見開いて驚いた。静歌が生きているというのだ。しかし、素直に喜べない自分がいる。それに、なぜ魔女狩りのところにいるのか?魔女狩りの殲滅に躍起になっていた静歌からは想像できない。
「ただし、これは渡良瀬が魔女狩りの幹部から電話で伝えられただけだから、本当かどうかはわからないわ。このことは志乃には内緒にしてほしいって」
確かに、静歌が生きていることを志乃に告げれば、彼女はまた姉を助けたいと言い出すだろう。しかし、今回は事態がはっきりしないために危険だ。志乃の身を案じて、彼女に内緒にすることは賢明だろう。
「状況はわかった。…けど、あいつ一人だと危ない。私も行く」
亮司も亮司で、一人で危険に飛び込もうとしている。何か作戦があるのかもしれないが、それにしたって仲間は多い方がいい。
「心強いわ。今、私の蝶を一匹、渡良瀬のそばに飛ばしてる。まだ移動中だから間に合うわ」
美雨は頬を緩めて受け入れると、今の状況を説明し、スマホを取り出した。
亮司がB-3に向けて移動していると、スマホに着信が入った。取り出して画面を見ると、電話は美雨からだった。
「もしもし。どうした?」
【渡良瀬。あなた一人だと危ないわ。私と月音も一緒に行く。良いでしょ?】
「おいおい…。なんであの赤髪までいるんだ?」
亮司は汗を垂らす。美雨は良いとして、なぜ月音まで一緒にいるのか疑問だ。
【魔女同盟が関わってることは、リーダーである月音も連れて行くべきよ】
「足手まといになるなってあいつに言っとけ」
【そんなこと言っていいの?】
「もう切るぞ。この先の自販機で待ってる」
美雨がニヤニヤした声でそう訊くと、亮司は不機嫌そうに待ち合わせ場所だけ告げて電話を切った。
道端にある自販機の横で亮司がコーヒーを飲んで待っていると、15分後くらいに美雨と月音が走ってきた。二人は立ち止まって息を整える。
「意外と早かったな。ほらよ」
亮司は二人にそれぞれ缶コーヒーを投げ渡す。
「ありがとう」
美雨は礼を言ってすぐに缶のタブを開けて飲みだすが、月音の方はもらったまま頬を赤らめてボーっとしている。
「おい、どうした」
「あっ…!なんでもない…!」
亮司が怪訝そうな目で月音を見ると、彼女は我に返って慌てて飲みだした。熱くなる心を、冷たいコーヒーでなんとか冷ましていく。
「それ飲んだら行くぞ」
「渡良瀬。私達が行く前に、私の蝶でアジトを下見した方がいいわ」
「…それもそうだな。頼んだ」
美雨の意見に、亮司は尤もだと思い賛成する。そして、亮司は地図を広げて、美雨にB-3アジトの場所を教える。その時、月音はチラッと亮司の顔を見て表情を曇らせた。美雨は場所を把握すると、今飛んでいる蝶をアジトに向かわせる。
蝶の後を追うように歩き出す3人。美雨はふと、月音の方を向いて尋ねた。
「月音。そういえば、私が隠し事してるってどうして気付いたの?」
「美雨がカフェで電話の後に戻ってから、他に意識が向いている感じがしてた」
どうやら月音にはお見通しだったようだ。
「ほぉー、おまえ、人間観察が得意なのか」
亮司が感心しているのかいないのかわからない感じで月音に言う。
「仲間に気配りできる証拠よ。良いリーダーじゃない。渡良瀬は人の名前とかすぐ忘れるけど」
美雨は月音の気配りを褒め、対照的に亮司の忘れっぽさを皮肉る。月音と比較された亮司は、不服そうに対抗心を露にする。
「あ?言っとくけどな、俺だって見てないわけじゃないぜ?例えば、緋崎が髪につけてるリボンは新しくつけたやつだろ?」
「…!」
瞬間、月音の心が急激に熱くなっていく。コーヒーで一旦冷ましたのに、意味がまったくない。顔も赤くなり、頭から湯気がモクモク上がった。美雨は月音の様子を見て、心の中で静かに察した。
『あらら…。これはもしかして…』
美雨は一人、面白そうに月音の様子を窺うのだった。




