第71話 魔女の歓談 その2
亮司はコーヒーを飲み終え、カフェから通りに出た。
ピリリリリ…
道路を横断しようと信号待ちしている時、スマホから着信音が鳴りだし、亮司はスマホを取り出して画面を見た。画面には番号ではなく非通知の文字が出ていた。
「もしもし」
亮司はスマホを耳に当てて応答する。すると、電話口から聞き覚えのある男の声が耳に入ってきた。
【よぉ…。久しぶりだな。俺のこと憶えてるか?】
「青塚…!」
亮司は真顔になって声の主の名前を口に出す。すると、歩行者信号が青になり、亮司は足を動かし始めた。
「この間、B-12で如月の姉貴と戦ってたじゃねぇか。あの後そこに行ったらあんたの姿が無かったんで、逃げたと思ってたが、やっぱりそうだったか」
【おいおい…、逃げたなんて言うなよな。俺は名目上、如月静歌に殺害されたことになってんだからな】
亮司は怪訝な表情を浮かべる。青塚は死んだことになっているというのだ。しかし、今の電話の相手は間違いなく青塚だ。間違いなく奴は生きている。死んだことにするメリットなんてあるのだろうか。
「…なんだ?ボスから嫌われたのか?」
亮司は皮肉を込めて尋ねる。しかし、それくらいしか理由が見つからない。仮にも奴は組織の幹部。そんな重要な地位について置きながら、地位を捨ててまで生き延びる必要があるとは思えない。――亮司がそう思っていると、青塚はフンと鼻を鳴らした。
【相変わらず辛口だねぇ~。違うよ。その方が都合が良いからさ。…あと、おまえがびっくりしそうなこと教えてやろうか】
「…なんだよ」
調子よく喋る青塚に亮司はやや不機嫌な顔を浮かべる。用件は短く簡潔に伝えてほしいものだ。
【如月静歌は死んじゃいないぜ。俺のそばにいる。まぁ、体中ボロボロで、かつての面影はないがなぁ】
「…!!」
亮司は目を見開き、足を止めた。…しかし、なんとか冷静になろうと心を落ち着かせ、再び歩き出す。
「どういうことだよ。如月の姉貴が生きていることはわかったが、なんであんたと一緒にいるんだよ?」
一番の疑問はそこなのだ。亮司たちは最後までいなかったので、あの後静歌が死んだかどうかは正確にはわからなかった。ただ、助からないだろうと考えたに過ぎない。だから彼女が生きていることはそこまで不自然な事じゃない。しかし、問題はなぜ青塚が一緒にいるかということだ。
【こいつは生きていた方が都合がいいんだよ。俺にとってはな。どうだ?妹に生きてることを教えるか?教えたら、また姉を救うとか言い出しそうだな。ハハ…!】
青塚は笑い飛ばす。志乃をバカにするような物言いに、亮司はイラッとし、眉間にしわを寄せる。
「てめぇ…何が目的だ?」
【おいおい…熱くなるなよ。らしくないぜ?目的が知りたいなら、B-3のアジトに来い。そこで落ち合おうじゃないか。おまえ一人で来ても、仲間連れてきてもどっちでもいいぜ。じゃあな】
プツ…プーッ…プーッ…プーッ…
電話は一方的に切られてしまった。用件はわかったが、青塚の目的が見えない。…罠かも知れない。姉が生きていると見せかけて、本当はいないのではないか。おびき寄せるための餌に使っている可能性も考えられる。
志乃にこのことを話せば、彼女のことだから間違いなく一緒に行くと言い出すだろう。それで姉が生きていなければ、彼女は再びショックを受けてしまう。…それは避けた方がいい。
志乃に伝えるのは、事実だと判明してからの方がいいだろう。―――亮司はそう考えながら通りを歩いていた。
そこから車線を跨いで反対側の通りを、志乃達5人が歩いていた。
「ここ良さそうじゃない?」
志乃がカフェの前で立ち止まって、ガラス越しに店内を覗く。それほど混んでいなさそうだし、テーブル席も空いている。
「そうね。ここにしましょ」
瑞葉も賛成し、他の3人もそれに続いた。月音は内心、亮司がいたカフェでなくてホッとしていた。
5人はソファーのテーブル席に、志乃、美雨、小蜜の3人組と、瑞葉と月音の2人組に分かれて座り、やって来たウェイトレスに飲み物を注文した。
青塚はとある雑居ビル内の一室で、デスクの前の椅子に座っていた。彼は携帯を懐にしまい、床に視線を下ろす―――と、そこには体中にひびが入った状態で床に伏せている静歌の姿があった。
「信じてくれたかなぁ…。まぁ、どっちでもいいか。また妹に会えるかもしれないぜ?」
青塚はにやけて見せる。対して、静歌は顔中にひびが入っており、感情を表すことができないようだ。
「志乃…!志乃に…会いたいわ…。そして…志乃の人格を…また…!」
"妹"という言葉に反応する静歌。満身創痍だが、志乃への病的な愛情は衰えていないようだ。
「ハハ!諦めの悪い女だ」
そんな静歌を青塚は蔑むように見るのだった。
「おまたせしました」
ウェイトレスがコーヒーや紅茶、カフェラテなどをテーブルに置いていく。
「ごゆっくり」
ウェイトレスは笑顔でお辞儀をして離れていった。
「いいな~。カフェのウェイトレスとかやってみたいな~」
志乃はウェイトレスを憧れるような目で見てそう呟く。
「志乃ちゃん笑顔が良いからお店が人気出ちゃうね」
「も~小蜜ったら~」
小蜜が褒めると、志乃は手を頬に当てて照れる。すると、瑞葉が対抗するように口を開いた。
「じゃあ、私はバリスタやろうかな~。ラテアートできるし」
「えっ!?瑞葉ちゃんラテアートできるの!?すごい!」
志乃は目を輝かせて尊敬のまなざしを向ける。瑞葉は得意そうに腕を組んで鼻を伸ばす。そこへ横から月音が冷静な表情で釘を刺した。
「瑞葉は年齢的にできないから」
「うっ…!」
瑞葉は痛いところを突かれて苦い表情になる。彼女はまだ14歳のため、バイトをすることができない。
「瑞葉さんっておいくつなんですか?」
小蜜は瑞葉の年齢に興味を示す。瑞葉としては、あまり自分が一番年下だとは思われたくないのだ。
「敬語を使うことない。瑞葉はまだ14歳だから。あと、私にもタメ口でいい」
「あっ!そうなんだ!でも瑞葉ちゃん大人っぽいから年上かなって思っちゃった。ごめんね」
「うぐ…」
小蜜は逆に年上だと思ってしまったことを詫びる。しかし、本人は年上だと思われていた方が良かった。




