第66話 受け入れた魔女
小蜜はチラッと亮司を見ると、志乃にこそっと尋ねた。
「あの人…志乃ちゃんの知り合い?」
「あ…うん」
志乃が頷くと、それに気づいた亮司が小蜜を見る。無愛想で少し怖い印象があるためか、視線を向けられた瞬間、小蜜はビクッとしてしまう。
「俺はジョン・スミスだ」
「え?外人さんなの?」
「違う違う!渡良瀬亮司って言うの!日本人!」
亮司の偽名を真に受けてしまう小蜜。志乃は慌てて誤解を解こうと本名を伝える。そして初対面に平気で嘘を言った亮司にジト目を向ける。
「小蜜は純真なんだから嘘言わないでよ」
志乃は慣れてしまったので問題ないが、素直に信用してしまう人だとそうもいかない。まぁ、見た目はどう見ても日本人なのだが。
「悪かった悪かった」
亮司は素直に詫びを入れる。小蜜の方もつられるように頭をぺこりと下げた。
―――その後、小蜜はこれまでの経緯を3人に話した。しかし、まだ魔女や能力者の存在、そして自分が魔女だと言われたことは信用していなかった。そんな小蜜に対して、志乃も美雨も自分たちがその魔女だということを打ち明ける勇気がなかった。
代わりに、亮司が飲み終わった缶を掲げて見せた。
「じゃあこれを見てろ」
小蜜は言われた通りに空き缶をじっと見つめる。――と、亮司は手をパッと放し、空き缶が自由落下し始めた。小蜜の視線は落ちていく缶を追っていく。
ピタッ!
小蜜は目を疑った。突然、落ちていた空き缶が空中で止まってしまったのだ。まるで時間でも止められたかのようにピクリとも動かない空き缶。手品でも見せられているのだろうか。
「て、手品とかじゃないですよね!?」
「手品じゃないぜ。ほら、糸とか何も付けてないだろ?」
亮司は両手を開いて見せて、タネも仕掛けもないことを証明する。
カランッ
亮司は能力を解除して、再び落下し始めた空き缶が地面に転がった。小蜜は呆然と地面に落ちた空き缶を眺めていた。
「これが俺の能力。いろんなものを固定することができる」
亮司は自分が能力者であることを告げる。小蜜にとって二人目となる能力者。あの変質者だけが言っているのであれば、頭のおかしな人で済んでいたが、この至って真面目そうな人が"現象"まで見せてきてそう言うのだ。小蜜はつばをゴクリと飲み込んだ。
「…本当に能力者なんているんですね」
「そうだ。あの変態野郎が言った魔女狩りってのも、実在する組織だ」
亮司は嘘を言っていない。それは小蜜でもわかった。もうここまで来たら信じるしかない…と、小蜜にそんな心が芽生えた。
「じゃあ…その…魔女っていうのも、実在するってことですよね…?」
小蜜は恐る恐る尋ねてみた。亮司はためらいもなく首を縦に振る。
「おまえが見たっていう突風や竜巻…それはどう考えたって自然現象じゃない。変態野郎の能力でもないだろう。…つまり、おまえの魔術だ」
「…!!」
小蜜は目を見開いて衝撃を受ける。あの凄まじい竜巻…。いとも簡単に建物を壊してしまったあの竜巻は、自分が起こしたものだというのだ。確かに、自分がまったくの無傷だということが何よりも説得力がある。
それにしたって、今まで普通の人間として生きてきた自分が、いきなり超自然的な力を身につけてしまったことは、そんな簡単に受け入れられることではない。別に自分は特別な力を身につけたいと思っていたわけでもない。これからだって普通に生きていきたい。
「志乃ちゃん…わたし…どうしよう…」
小蜜はひどく落ち込んだ様子で志乃に助けを乞う。魔女となってしまった自分を、友達が受け入れてくれるのだろうかと心配なのだ。だが、志乃は対照的に明るい笑顔を振りまけた。
「大丈夫だよ小蜜!そんな暗い顔しないで!実はね、私も美雨ちゃんも…魔女なんだ!」
「えっっ!?」
志乃は自分と美雨が魔女であることを打ち明けた。それはなかなか勇気のいることだし、実際、亮司が話を切り出すまでは言い出せなかった。しかし、落ち込む親友を前にして、自分が黙っていてはいけないと思ったのだ。
「志乃ちゃんも黒薙さんも魔女なの!?」
小蜜は自分が魔女だということと同じくらい驚愕した。今まで普通に接してきた二人が魔女だったのだ。
「そうだよー。こう見えてもねー、結構強いんだよー」
志乃は両腕を腰に当ててエッヘンと威張り顔を見せる。すると、小蜜が尊敬のまなざしを向けてきた。
「ってことは、志乃ちゃんはわたしの師匠ってことだよね!志乃師匠!魔術のイロハを教えてください!」
「えっ!?その………うん!もちろん!」
小蜜の飲み込みが早すぎたのか、まさか弟子入りを志願されるという予想外の展開に。志乃は戸惑いを見せるが、可愛い親友のためならばとすぐに引き受けた。…しかし、それをおちょくろうとする人物が一名。
「やめとけやめとけ。そいつに弟子入りしたら、がさつで乱暴な魔術しか使えなくなるぞ」
亮司は小蜜に考え直した方がいいと告げる。単に志乃の悪口が言いたいだけなのだが。志乃は亮司にジト目を向けるが、言い返すことなく小蜜に告げた。
「最初の目標はね、あいつをボッコボコにすることだから!」
そう言いながら亮司を指差す。小蜜は冷や汗を垂らして戸惑いを見せた。
「だ、だめだよ!志乃ちゃんのお友達さんでしょ!?」
「いいのいいの!あいつ、何かにつけて魔女をバカにするから、痛い目見せてやらないと」
友達だろうが構わないことを告げるが、亮司も負けてはいられない。
「魔女をバカにしてるんじゃない。如月ががさつで乱暴だって言ってるだけだ。おう、佐倉とか言ったか。弟子入りするんだったら黒薙の方が良いぞ」
「えっ!?私!?」
美雨はまさか自分に振られるとは思っていなかったようで、完全ノーマーク状態で動揺する。できれば自分は平和に傍観していたかったので、巻き添えは勘弁願いたい。しかし、その願いもむなしく小蜜の注目は美雨に向いた。
「黒薙さんの魔術も見たい!なんか綺麗そう!」
「そうでもないわ!」
美雨は必死に否定するが、小蜜の尊敬のまなざしは解けない。美雨はただ苦笑いするしかなかった。
一方、志乃はガクッと落ち込んで、一人むなしく人差し指で砂をいじっていた。
「いいよ…。どーせ私なんかがさつで乱暴だよ…」
「し、志乃ちゃん!落ち込まないで!」
いつの間にか、落ち込む側と元気づける側が逆転しているのだった。




