第63話 自覚のない魔女 その2
小蜜は電車の中でスヤスヤと眠りについていた。電車は次第にスピードを落とし、小蜜の家の最寄り駅に到着した。
【富ヶ丘~富ヶ丘です】
到着のアナウンスが流れると、小蜜はハッと目を覚まし、今止まっている駅が降りる駅だとわかると、慌てて電車から飛び出した。あと少しで乗り過ごすところだったが、間一髪間に合ってホッと安堵する。
小蜜はそのまま駅を出て家に向かうが、少し歩いたところで、あるものがないことに気付いた。
「あっ!スマホがない…!」
慌ててポケットや鞄の中を探すが、スマホは見つからなかった。どこかに落としてきてしまったのか。しかし、どこで落としたのか見当もつかない。学校から駅までの間か、電車の中か、それとも駅からここまでの間か…。小蜜は手を顎に当ててうーんと考え込む。
『電車から慌てて降りたときに落としたのかな…』
「お嬢さん」
不意に後ろから声をかけられた。小蜜は少しビクッとして振り返る――と、スーツ姿の男がスマホを差し出していた。
「これ、君のじゃないかい?電車から降りる時に落ちてたよ」
「あっ!わたしのです!ありがとうございます!わざわざ届けに来てくれたんですね!」
小蜜は頭をぺこりと下げてお礼を言い、スマホを受け取る。この男性は、親切にも他人のためにわざわざここまで届けてくれたのだ。
「それを無くしたら大変だからね。良かった良かった」
「助かりました!ありがとうございます!」
小蜜は笑顔を向ける。男性の方も小蜜が喜んでいるのを見てニコニコしていた―――が
「…ところで、見返りは無いのかい?」
「え…?」
男性がニコニコしたまま、見返りを求めてきた。小蜜はドキッとして冷や汗を垂らす。
「お礼っていうのは、口じゃなくてモノでするのが普通だよね」
ニコニコしているが、不気味な威圧のようなものを感じる。
「…その、わたし、お金はそんなに持ってなくて…」
小蜜は思わず一歩後ずさる。――そして、怖くなってその場から逃げ出そうとするが、後ろから男に肩を掴まれてしまった。
「待ちなよ。逃げることないだろう?」
「助け…!」
小蜜は大声で叫んで助けを呼ぼうとするが、再び眠気が襲ってきて、その場で眠り込んでしまった。
志乃と美雨はおよそ30分遅れて富ヶ丘駅に到着した。志乃のメールを見ていれば、駅の改札を出たところで待っているはずだ。――しかし、改札を出ても小蜜の姿は見当たらなかった。
「あれー…いないなぁー…。小蜜メール見てないのかな」
志乃は辺りをキョロキョロ見回すが、やはり小蜜の姿は無い。志乃のメールに気付いていないのだろうか。
「とりあえず、小蜜ちゃんの家に向かった方がいいわね」
「うん」
二人は駅を出て、小蜜の家へ向かうことにした。
小蜜が次に目を開けると、見知らぬ薄暗い部屋の中にいた。自分は簡素なパイプ椅子に座らされていた。
「ここ…どこ?わたし…なんでこんなとこにいるんだろう…?」
小蜜は自分が何故見知らぬ場所にいるのかわからなかった。記憶にあるのは、駅を出て家に向かうところまでだ。そこから先に何があったのかはわからない。
すると、部屋の扉が開いて、スーツ姿の男が入ってきた。
「やぁ。ここなら君とゆっくりお話しできるね」
男はそう言ってにやける。小蜜は背筋がゾクッとして、怯える目で男を見る。
「だ、誰ですか…?」
「僕かい?僕はねー、魔女狩りっていう組織に入ってる釜無だよ」
釜無はひょうひょうとした態度で名前を答える。
「魔女狩り……ってなんですか?」
魔女狩りという名前から良くない印象を持つが、一体どんな組織なのだろうか。何も知らない小蜜は怯えつつも尋ねてみた。
「名前のとおりさ。この街に蔓延している魔女たちを駆除するのが役目さ」
「魔女…?魔女なんて実在しないですよね…?」
釜無は当たり前の様に魔女というワードを出してきたが、小蜜にとっては違和感しかない。魔女は架空の存在だ。ファンタジーじゃあるまいし、そんなものがいるはずないと思っていた。
すると、釜無は面白そうに笑みを浮かべ、小蜜に顔を近づけた。
「おやおやぁ~?まさか、自覚がないのかい?」
小蜜は怪訝な表情を浮かべる。自覚…?何を言っているのか?
「君から魔力がだだ漏れだよ」
「な、何言ってるんですか!?魔力!?」
小蜜は釜無を頭のおかしい男だと認識した。脳がファンタジーに侵食されて、魔女が実在すると思い込んでいるようだ。しかも、自分を魔女だと思っている。とんだ迷惑な話だ。今すぐ警察を呼ぶべきだろう。
「警察に連絡します」
小蜜はスマホを取り出そうとする――が、ポケットを漁っても見当たらない。
「…あれ?ない?」
小蜜は焦りの表情を見せる。これでは連絡もできない。一人焦る小蜜を、釜無は面白そうに眺めている。
「自覚がない魔女ねー。ははは、素直になれないなんて、かわいいなー」




