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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第4章 新しい風
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第62話 自覚のない魔女 その1


 志乃が通う栄野高校は期末テストが終わり、テスト返却期間を迎えていた。これを乗り越えれば、念願の夏休みがやってくるわけだが、志乃にとってはこのテスト返却が最も山場であった。この日は数学が返ってくる。

 返却はあいうえお順なので、頭文字が"き"の志乃は比較的早く受け取れる。しかし、ドキドキはテスト用紙を受け取って、自分の点数がわかった後にも依然として続く。何故なら、テスト見せ合いっこをするためだ。

 授業が終わって休み時間に入ると、志乃の席に由香と小蜜、そして美雨がやって来た。志乃は用紙を裏返した状態でそれを待ち受けていた。


「おやおや~志乃。ポーカーフェイスを貫いてますなぁ」


 喜んでいる様子でもなく、悔しがっている様子でもない志乃の表情を見て、由香がにやける。3人も点数が見えないように裏返していた。


「どうする?誰から見せる?」


「まーまー焦るでない小蜜。前回は志乃から、その前はあたしからだったから…、今回は一斉にする?」


 落ち着かない小蜜を由香がなだめつつ、今回は全員一斉に見せることを提案する。


「いいわよ」

「うん。私もいいよそれで」


 美雨も志乃も承諾し、せーので一斉に用紙を表にした。


「げっ!志乃に負けた!」

「黒薙さんたかーい!」

「小蜜も高いよ!」


 各々、他3人の点数を見て驚いたり焦ったりなどの反応を示す。結果は、志乃が78点、美雨が96点、小蜜が92点、由香が66点だった。

 4人はただ見せ合いっこしているわけではない。総合得点が一番高い人は高級アイスのバーデンバーデン6個入りを、2位は3個入りを奢ってもらえるのだ。それぞれ4位が1位を、3位が2位を奢る。だから是が非でも1位か2位になりたいのだ。志乃も良い成績を取るというよりは、大好物のアイスをタダで食べたいという欲求の方が大きかった。


「くーっ!2位の小蜜との差は18点か…。残る希望は生物と世界史…。絶対逆転する!」


「がんばれー志乃ちゃん」


「小蜜が応援してどうすんの…。3位になったら奢らなきゃいけないのに。あたしとしては是非とも志乃に最下位を取ってもらいたい」


 小蜜が他人事のように笑顔で志乃を応援するので、由香が隣からツッコミを入れる。由香自身も現時点で4位だが、3位の志乃と逆転したいという思惑がある。


「やだよー」


 だが、志乃はいじわるそうに笑みを浮かべて由香に断りを入れる。それを見て、由香は悔しそうに歯を食いしばった。



 放課後、志乃と美雨は途中で由香と小蜜と別れて帰路を目指す―――が、由香たちの姿が見えなくなった途端、美雨の表情が真剣になった。


「志乃…気付いた?」


 美雨が目を向けて尋ねると、志乃も真面目な表情で頷いた。


「うん…。小蜜から魔力を感じた。昨日までは無かったのに…」


 どうやら、今日になっていきなり小蜜から魔力を感じるようになったというのだ。彼女はその事を自覚しているのだろうか。


「小蜜ちゃんは志乃が魔女だってこと知らない?」


「うん。魔女のことは話したことないし、知らないはず」


 小蜜とは高校1年からの仲だが、もちろん自分が魔女であることをバラしていない。それは、信頼がどうとかという話ではなく、普通の人間である小蜜からリスクを遠ざけるためだ。魔術は便利だが、同時にリスクも抱えることになる。例えば―――


「魔女狩りから狙われる前に、話をしておいた方がいいわね」


 美雨の話を聞いて志乃も頷く。小蜜は大切な友人だ。だから、魔女狩りと遭遇する事態はなんとか避けなければならない。

 小蜜は由香と同じく電車通学しているが、方面が別で、この街の北部にある駅が自宅の最寄だ。そこの周辺に魔女狩りがいないという確証はない。

 二人は小蜜たちの後を追い、小蜜が自宅の最寄り駅を出たところで捕まえることにした。




 小蜜は由香と乗る電車が違うため、駅の通路で由香と別れる。


「じゃあねー」

「ばいばーい」


 小蜜は軽く手を振って由香を見送ると、一人エスカレーターを降りて乗り場へと向かった。電車は既に到着しており、小蜜はその電車に乗った。

 志乃と美雨は少し遅れて駅に入ったが、小蜜が乗った電車には間に合わなかった。志乃は電光掲示板を見て、次の電車の時刻を確認する。


「次は5分後か。なんとかいけるよね」


「えぇ。それくらいなら駅を出て走れば間に合うわ」


 小蜜と同じ方面の次の電車は幸いにもすぐに来る。二人は一先ひとまず安堵した―――が、その時、アナウンスが入った。


【お客様にお知らせします。次の北栄野方面の電車は、安全確認を行った影響で、約20分遅れて運行しております】


「20分!?」


 志乃は焦りの表情を見せる。5分であれば問題なかったが、25分のタイムラグは大きい。駅から自宅までに魔女狩りに見つからなければいいが、それでは一本の綱で深い谷を渡るようなものだ。


「とりあえず、駅で待って貰うようにメールしとくよ!」


 志乃はスマホを取り出してメールを打ち始めた。


 その頃、小蜜を乗せた電車は順調に北に向かっていた。車内はそれなりに立ち客がいる程度の混み具合で、小蜜は座席に座って本を読んでいた。――すると、小蜜のスマホにメールが届き、それに気づいた彼女はスマホを取り出して中身を確認する。メールは志乃からだった。

 なんだろうと思い、メールの中身をチェックする……が、ふと、強烈な眠気が襲ってきて、そのまま眠り込んでしまった。小蜜の頭がカクンと傾くと、隣に座っていた、スーツ姿に丸メガネをかけた20代後半くらいの男がフッと口角を上げた。


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