第61話 後任リーダーは誰 その4
明日莉は高々とスマホを掲げ、親指を画面に近付けていく。
「ばいばーい月音………って」
明日莉は送信ボタンをタッチした―――が、何故か画面が反応しない。メールが送信されないのだ。
「えっ…!?えっ…!?なんで!?壊れた!?」
まさかこのタイミングでスマホが壊れたのかと思い、明日莉は一転して慌てふためく。……が、ハッとして亮司を見た。
「まさかあんたが…!」
すると亮司がにやけた。
「お、よくわかったな。俺が画面を固定したんだよ」
バチッ…!バチッ…!
明日莉の周りに電流が走る。彼女は青筋を浮かべて亮司を睨み付けた。
「このくそガキぃ!能力者ごときが魔女に勝てると思ってんのかぁ!?」
亮司は明日莉の小物臭さに呆れていたが、二人の間に月音が割って入った。月音は顔に影を落とし、明日莉を睨み付ける。
「明日莉…いい加減にして」
月音はそう告げて、フッと口から小さな火を吹いた。月音の威圧に明日莉は怖気づき、一歩二歩と後ずさる。…しかし、まだ負けてられない。
「へん!強気になっちゃってさ!その男が能力を解除すれば、あたしはすぐにでもメールを送れるんだけど!まだ状況はあたしの方が有利………」
パシッ!
明日莉の意識が月音に向いている隙に、後ろから亮司がスマホを取り上げた。
「あっ!」
明日莉はハッとして亮司の方を向く……が
「よしこれで写真消えたぜ」
既に遅し。亮司が素早く写真を消去してしまった。
「何やってんのぉぉ!?」
明日莉は仰天して声を荒げる。
「おい緋崎」
亮司は月音に声をかけた。月音は睨むのを止めて亮司を見る。
「俺は外部の人間だからとやかく言わねぇが、試しにこいつをリーダーにさせたらどうだ?」
「えっ!?」
明日莉は一転して表情を晴れやかにして亮司を見る。月音もまさかの言葉に驚きを見せる。
「そんで、おまえは"自分に歯向かう奴はクビだ"って言ってみろよ。そしたら、みんな"じゃあ辞めます"って言うからよ」
「そんなこと言うわけ…」
「だからやってみろっつってんだ」
亮司がきつい口調で言い放つ。と、明日莉は急に自信が無くなってきた。
「どうせ信頼なんかないだろ?信頼の無いリーダーなんて、勝手に孤立するだけだ」
「うぐっ…!」
明日莉は苦い顔をする。亮司の言うことが心に突き刺さる。自分でも心のどこかでわかっていた。わかっていたからこそ、無理に強がっていた。それが、亮司の言葉によって崩されていく。
「どうだ?やんのか?」
「こ、今回は……やめとく」
明日莉はボソボソとそう告げると、亮司からスマホを奪い返し、そそくさと逃げて行った。
嵐が過ぎ去り、静寂を取り戻した公園。月音はボーっと立ち尽くしていた。一方、亮司はベンチに戻り、飲みかけのコーヒーを口に運ぶ。
月音はチラッと亮司を見て、すぐに目を逸らした。
「…あ、ありがと」
目を向けずに、ぎこちないお礼を言う。静寂の空気に反して、自分の心は落ち着かない。胸の鼓動音が高鳴りする。何とか落ち着かせようと、手で胸を押さえつける。
「気にすんなよ。俺だってデマ流されちゃたまんねぇからな」
亮司はコーヒーを飲み終え、空き缶をゴミ箱に捨てる。ふと、傍に置いてある、飲みかけのミルクコーヒーの缶が目に入った。亮司はそれを手に取って、月音のところまで届けに行く。
「おい、あとちょっとだけど残ってるぞ」
「あ……うん」
月音は目を合わせないようにゆっくりと振り向いて、目を逸らしたまま亮司からコーヒーを受け取ろうと手を伸ばすが、受け取るときに、思わず亮司の手に触れてしまう。
「…!」
瞬間、月音の体温がさらに上昇していく。そして――
「ごめんなさい!!」
耐え切れなくなって、コーヒーを抱えたまま、その場から全速力で逃げ出した。亮司はポカーンとしながら逃げていく姿を眺めていた。
「手あっつ…」
亮司は手をブンブンと振る。月音の手に触れた時、膨大な熱が伝わって火傷しそうになった。




