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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第4章 新しい風
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第59話 後任リーダーは誰 その2


 魔女同盟は後任のリーダーを選ぶことになった。選出方法はメンバー全員での話し合いによって決める。館に住む者は瑞葉、月音、暁美の3人のみだが、それ以外に明日莉を含めて10人いる。瑞葉は緊急通達を出し、館外に住むメンバーに召集をかけた。

 メンバーが来るまでの間、明日莉は館の中で待機することになった。瑞葉は極力近づきたくなかったが、明日莉の方から積極的に絡んできた。


「瑞葉っちーー!逃げないでよーー!」

「その呼び方やめろ!」


 瑞葉をあだ名で呼んで親睦を深めようとする明日莉だが、瑞葉の方は"瑞葉っち"という呼び方を嫌がっており、明日莉を睨みながらけん制している。しかし、ポジティブ思考なのか、明日莉はけん制をものともしていない。


「えーっ?いいじゃん別にー!そんなに恥ずかしがるなってー!」


「あーもう!!」


 調子を変えない明日莉に苛立つ瑞葉。そこに月音がやって来た。


「あっ!月音!いいところに!」


「…!」


 月音の姿が見えると、瑞葉は一目散に彼女のもとへ逃げ込んだ。一方、明日莉は足を止めて表情を一転して硬くした。


「明日莉、待機させて済まないけど、もう少し待っててほしい」


 月音は明日莉に詫びを入れるが、明日莉は表情を緩めない。


「別に待つのは良いけど、話し合って決まるの?全員で話し合ったら時間かかるだけだと思うけど」


 確かに、メンバー全員で話し合えば時間がかかるだろう。その上、意見が割れて決まらないリスクもある。しかし、月音はそれがわかっていても意向を変えなかった。


「それでもやっぱりみんなで決めた方がいいと思う。みんなが満足するリーダーを決めたい」


「話し合いだと、自分の意見を言いづらかったりするんだよねー」


 明日莉が言うことにも一理ある。他人と違う意見を言って周りから浮くのが嫌で、本音を言えないこともあり得る。つまり、話し合いでは皆の意見を反映させることが難しい。


「それに、最後はどっちみち多数決で決めないとだめじゃん。それだったらさー、話し合いより、投票で決めた方が良くない?」


「…確かに」


 明日莉は投票による選出方法を提案する。投票は、他人に知られることなく、安心して自分の意見を反映させることができる。そして、時間も比較的かからない。合理的かつ現実的な方法だ。


「明日莉の言う通りだ。投票の方がいいかもしれない」


 月音も明日莉の意見が尤もだと思い、リーダーの選出は投票で決めることになった。…そう決まった途端、明日莉は心の中でにやけた。


『しめしめ…。今から来るメンバーにあたしが根回ししてるとも知らずに…。投票ならちゃんとした意見がなくても、丸を付けるだけでOKなわけだし、楽勝楽勝…』


 明日莉は既に、他のメンバーにリーダーを自分にするよう言ってあるのだ。ただ、話し合いの場合、口八丁な瑞葉が状況を変えてしまいかねない。その危険を取り除けるのが投票というわけだ。



 残りの9人が到着し、大広間にていよいよリーダーの選出が始まった。投票会場には仕切りがつけられた記入スペース、そして投票箱が設置された。各メンバーに瑞葉が掌サイズほどの投票用紙を手渡していく。用紙には全員の名前が記載されており、名前の下に丸を付ける欄がある。希望する人物の欄に丸を付ければ良いのだ。当然名前を書く欄は無い。これでプライバシーは保護される。明日莉も用紙を貰い、細工がないか光に当てたりしてチェックする。何ともないただの紙だ。

 全員に渡し終えると、瑞葉は説明を始めた。


「今日は集まってもらってありがとう。静歌様の件は通達の通りよ。とても悲しいし、救えなかったのが悔しい。でも、悔やんでばかりじゃ魔女狩りの脅威にさらされ続けるだけ。私達魔女同盟のためにも、魔女みんなのためにも、魔女同盟の新しいリーダーを決めなければいけない。…ここまではわかってくれたと思うわ。それで、リーダーを決める方法だけど、みんなの意見を反映できて、時間もかからない投票にしたわ。用紙には全員の名前が記載されていて、希望する名前の欄に丸を付けて投票するだけ。自分に投票することも可能よ。じゃあ、順番に始めて」

「ちょっと待った!」


 投票を始めようとしたら、明日莉が手を上げてストップをかけた。彼女はズカズカと投票箱の前まで行く。


「投票箱に細工がされてないかチェックする」


「別にいいわよ」


 瑞葉は許可を出すものの、どれだけ疑い深いのかと内心呆れてしまう。投票箱に細工する小汚いマネなどする気もない。


「怪しいところは…ないね」


 明日莉は隅々までチェックして普通の投票箱であることを確認した。


「じゃあ投票を始めて」


 そして、瑞葉の号令と共に、投票が開始された。


『あたしはだれに投票するかなー?…もちろんあたし』


 明日莉はにやけながら用紙の自分の欄に丸を付け、投票箱に入れた。


『これであたしは10票。圧倒的大差で勝利確定』


 全員の投票が終わり、開票作業に移る。まずは投票箱から紙を取り出して広げる。たったの13枚なので作業はあっという間だ。畳まれた紙がすべて広げられ、床に並べられた。


「はいはい!集計はあたしにやらせてー!」


「いいわよ…」


 最後の作業である集計は、明日莉が手を上げて希望した。瑞葉は白い目を向けつつも許可する。明日莉はもうルンルン気分だ。何故ならもう結果がわかっているも同然なのだから。明日莉は座り込んで、丸がついている名前を一枚ずつ読み上げていく。


「えーっと…月音に一票、月音に一票、瑞葉に一票、月音に一票…………あれ…?」


「なによ?続けなさいよ」


 明日莉は4枚目を読み上げたところで動作をピタリと止めてしまった。…おかしい。4枚目でまだ自分の名前が来ない。誰か裏切ったのか。


『いや、まだ4枚だけだから大丈夫!一番票数が多ければいいんだから…!』


 予想外だったが、明日莉は冷静に判断し、作業を再開させた。次の紙は―――


「月音に一票…、瑞葉に一票…、月音に一票…、月音に…………」


 明日莉の手が震えだした。8枚目を見たところでまだ明日莉を丸している紙が出てこない。現時点で月音が6票、瑞葉が2票得ている。残りは5枚……。つまり、この時点で明日莉の勝利は消えてしまったのだ。


「どういうこと!?おかしいんじゃないのこれ!!」


 明日莉は用紙を握り潰して立ち上がり、勢いよく叫んだ。しかし、周りの目は至って冷静だ。


「おかしいって何が?何もおかしくないじゃない。最後まで読んでよ」


 瑞葉は冷たい目で威圧的に言う。明日莉はハッとして周りを見た。メンバーが冷ややかな目を自分に向けている。これでは孤立してしまう…。冷や汗を垂らした明日莉は、唇を噛みしめつつもおとなしく作業を続行した。

 結果は、瑞葉が4票、月音が8票、明日莉が1票となった。――よって、新しいリーダーは月音に決定した。不満に思うメンバーはいない……ただ一人を除いて。


「くそ…!くそ…!せっかく根回ししたのに!……でも、ここであたしを裏切った奴らをいたぶるのは得策とは言えない。あのクソガキの信用がなくなれば手っ取り早い…」


 明日莉は通路の壁を怒り任せに蹴り付けながらそう呟くと、いいことを思いついていじわるそうににやけるのだった。


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