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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第4章 新しい風
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第58話 後任リーダーは誰 その1


 あの後、姉がどうなったかはわからない。…というよりも、考えたくなかった。できれば姉に改心してもらいたかったが、それも叶わなかった。


「志乃……大丈夫?」


 瑞葉の声が聞こえてきて、ハッと我に返る。目を向けると、瑞葉が心配そうな顔で様子を窺っていた。志乃はぎこちない笑顔を向ける。


「大丈夫だよ。心配しないで」


 志乃の笑顔が偽りであることは皆わかっていた。それでも無理に笑顔を向ける志乃のために、笑顔を返す。

 志乃は亮司を見て礼を言った。


「ありがとう渡良瀬。もう少しで私も危険な目に遭ってた」


 亮司が退く判断をしなければ、赤渕の能力によって、志乃も静歌と同じ状況に陥るところだった。しかし、亮司は複雑だった。

 自分の判断は、静歌を見捨てるに等しいものだった。それが志乃にとって本当に良かったのだろうか。


「…すまん。俺の力不足だ」


 亮司は視線を下に向け、無念な様を見せる。―――すると、志乃がじーっと亮司を見つめてきた。


「…どうした」


 志乃と目が合い、亮司は困惑して尋ねた。


「いや、渡良瀬が謝るなんて、熱でもあるんじゃないかと」


「…おい」


 亮司にとっては心外だ。まぁ、そう思われても仕方がないのだが。


「でも、渡良瀬の判断は間違ってないよ。確かに、お姉ちゃんを救えなかったのは悔しい。…けど、みんなやられちゃったら元も子もないし、瑞葉ちゃんと月音ちゃんは嫌な目に遭ってる。……お姉ちゃん、ほんとどうしちゃったんだろって…。ほんとバカだよね」


 志乃はそう言いながら、涙を零す。せき止めていたものが決壊し、感情を前面に押し出す。悲しくて悔しい。姉は、自分から遠く離れたところへ行ってしまった。


「ほれ、涙拭け」


 亮司は涙を流す志乃にハンカチを手渡す。


「…うん」


 志乃はそれを受け取って、涙を拭き取る。ほんのり温もりを感じるハンカチだった。




 瑞葉と月音は、亮司たちと別れて館へ戻った。火傷を負った月音の手当てをし終えると、瑞葉は自分の部屋に戻り、ベッドにバタンと倒れ込んだ。


「あ~~…、長い一日…」


 瑞葉は枕に顔を押し付け、目を閉じた。

 一方、月音は館の外に出て、座り込んでじっと夜空を見上げていた。街の灯りで星は見えないが、唯一、満月が煌々と照らしていた。

 そして、満月が消え、夜が明けると一人の魔女が館に訪れた。年齢は20代前半くらい。褐色がかった肌に黒い短髪で、女性としては身長が高く、スラッとした体型をしていた。

 そこに、眠そうな顔をした瑞葉が扉を開けて現れた。


「どちら様……って」


 瑞葉はその女性を見た途端、眉を寄せて嫌そうな顔をする。


「瑞葉ーーっ!久しぶりーー!元気してたーー?」


 その女性は嬉しそうに瑞葉に抱き着く……が、瑞葉の方は嫌そうな顔を解かない。


「元気なわけないでしょ。あんたにも通達が行っているはずよ」


「そうだったそうだった…。静歌が魔女狩りにやられたんでしょ?あたしはそれで様子見に…」

「嘘つけ!どうせリーダーの後任を目論んで来たんでしょ!」


 女性の言い分を瑞葉が即座に否定する。図星だったのか、女性はドキッとして一歩後ずさり、吠える瑞葉を落ち着かせようと、両手を前に出す。


「まーまー落ち着いてよ…!その、なんてゆーか…静歌の件は大変だったと思うし、あたしもショックだったよ…。でも、これで魔女同盟を終わらすわけにもいかないし…」


「リーダーならもう決まってるけど」

「はっ!?」


 きっぱりと瑞葉が告げると、即座に女性は驚愕した表情になり、瑞葉に勢いよく迫った。


「どういうことっ!?誰なの!?まさかあたし!?」


 女性の言葉からは欲望が滲み出ている。欲望に素直すぎる魔女だと、瑞葉は呆れてしまう。


「月音よ」

「はぁ!?あいつ!?なんであいつなの!?あたしの方が5つも年上なのに!普通年功序列でしょ!」


 瑞葉が後任リーダーの名を出した途端、女性は不服で顔を歪めて必死に訴えかける。月音は16歳、この女性は21歳。5歳も年下がリーダーになってしまえば、自分はその年下に従わなければならない。それが嫌で仕方がないのだ。


「魔女同盟は縦社会じゃないから。現に7歳も年下の私が敬語を使ってないでしょ?」


「うっ…!確かに…!こらっ!瑞葉!ちゃんと目上には敬語使いなさい!」


 女性は慌てて敬語を使うよう瑞葉に厳しく言うが、瑞葉は顔を逸らして蔑みの目を向ける。


「嫌よ。静歌様がいなくなった後に都合よく現れて、自分が上に立つことしか考えてない奴になんて」


 そう告げて、瑞葉は女性に目もくれずに館の中に入って扉を閉めた。


「あっ…」


 外に置き去りにされた女性はポカーンとした表情で呆然と立っていた。


 月音はベランダで風に当たってボーっと外の景色を眺めていた。


「月音!」


 そこに瑞葉がやって来た。月音は振り返って瑞葉の顔を見る。何か少し慌てているようだ。


「瑞葉、どうした?」


明日莉あすりが来たわ。静歌様がいなくなったから、リーダーの後任を狙いにきたみたい。それで…私、とりあえず月音に決まったって言っちゃったんだけど…」


「瑞葉、嘘はよくない」


 どうやら、月音がリーダーの後任に決まったというのは、瑞葉がその場で考えた嘘だったようだ。同意もしていないのに勝手にリーダーに仕立て上げられて、当然月音は不服そうに瑞葉を見る。


「ごめん!…でも、明日莉がリーダーになるのは嫌だから…」


 あの欲望魔女がリーダーになるのだけは阻止したいのだ。魔女同盟のためにも。自分のためにも。


「次のリーダーはみんなの意見を聞こう。それで話し合って決める。みんなが思う適した人間を選べばいい」


 しかし、月音はあくまで皆で話し合ってから決めることを貫く。瑞葉以外のメンバーがどう思うかを訊かなければ、適任者を選べないと思ったのだ。


「…わかった。…でも、そういうこと言える月音は間違いなくリーダーに適してると思う」


 瑞葉は月音の考えを聞き入れつつも、自分の思いを伝える。それを月音は静かに聴いていた。―――すると


「おーーい!!」


 ベランダの下から大声で呼ぶのが聞こえた。瑞葉は嫌な顔になってベランダから下を覗きこんだ。


「うわ…」


 真下で明日莉が手を振って笑顔でこちらを見ている。…嫌な笑顔だ。


「瑞葉っちーー!!さっきはごめーーん!!謝るからもう一回ちゃんと話しようよーー!!」


 明日莉はニコニコしながら声をかける。まだ諦める気は無いようだ。


「月音…どうしよ」


 瑞葉は困り果ててしまった。正直、館の中にさえ入れたくない。なぜ、あんな強欲な魔女が魔女同盟のメンバーなのだろうかと疑いたくなるほどだ。しかし、月音は冷静に対応した。


「瑞葉、明日莉を中に入れよう。せっかく来たんだし」


「…月音がそう言うなら」


 瑞葉はイマイチ乗り気にならないが、月音が言うのだから仕方がない。そして、再び明日莉の方を見る。まだ笑顔で手を振っている。そこに、月音も顔を覗かせた。


「げっ…!」


 月音の顔が見えた途端、明日莉は露骨に嫌な顔をした。


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