第57話 別れ
静歌は志乃との再会が嬉しくて仕方がなかった。一方で、志乃はそんなこと思っていない。嬉しく思えるような状況でないからだ。仲間である月音を攻撃し、瑞葉を恐怖に陥れている。二人は静歌を慕っていた。だから自分の無理を聴いて、一緒に来てくれたのだ。
…それなのに、静歌は自分の意向にそぐわないだけで二人を切り捨てようとしている。
「お姉ちゃん。瑞葉ちゃんも月音ちゃんもお姉ちゃんを想ってここまで来たの。なのになんでこんな酷いことするの!?」
志乃はキッと睨み付ける。――しかし、静歌の態度は変わらなかった。
「志乃いいのよ!今はそんなこと考えなくていいわ!魔女狩りのボスを一緒にやっつけましょう!それでこの街の魔女たちは救われるわ!」
「救われない!お姉ちゃんのやろうとしてることは、魔女狩りと何にも変わらない!大切な人達を踏みにじってまでやるべきことなの!?」
志乃は必死に訴えかける。だが、静歌はその言葉を理解するどころか、聞くことすらせずに、一方的に話しかける。
「あっ!そうだったわ!今は"そっち"の人格だったのよね…。本来の志乃なら、私に共感してくれるはずよ!」
静歌は思い出したようにそう言うと、志乃に向けて右手を差し出した。そして、その手が青く光り出す―――が、光の生成が途中で止まってしまった。
「…!」
「二度も同じ手には乗らんぜ」
静歌はハッとして顔を向けた。瞳に亮司と美雨が映り込む。亮司の能力で、光の生成を止められてしまったのだ。これでは、志乃の人格を変えることができない。静歌は青筋を浮かべ、歯を食いしばる。
「どうして私の邪魔をするのよ…!」
「別に邪魔をしようとしてるんじゃねぇ。冷静になれって言ってんだ」
ドォォォン!!
瞬間、静歌が光弾を亮司に放って吹っ飛ばした。
「渡良瀬!」
志乃が心配そうに目を向けると、背後から静歌が顔を近づけてきた。
「志乃…。さ、光を見て」
亮司の能力が解除されたために、光の生成が完了してしまった。あとは志乃がその光を見るだけ…。志乃は目をギュッと瞑り、頑なに光から背く。
ピリリリリリリ…!
突如、場の空気を壊すかのように鳴り響く着信音。皆がハッとして赤渕の方を向いた。対照的に、赤渕は"普段通り"にゆっくりと携帯を取り出して応答した。
「もしもぉ~し」
【私だ】
「ボスゥゥゥゥ!!嬉しいっすよぉー―!!こんな夜中にも電話くださるなんてぇぇーー!!」
赤渕は一変してオーバーリアクションで感激し出す。その異常さに、亮司たちの緊迫感が増した。
一方、静歌はまたとない絶好のチャンスだと踏んだ。
「その携帯よこしなさい!!」
静歌は横から赤渕の携帯をぶんどろうとしたが―――
「おいてめぇ、何すんだ」
瞬間、赤渕が血走った目で静歌を睨み付けてきたのだ。
「てめぇぇぇぇぇぇ!!俺の命より大事な時間を邪魔しやがったなぁぁぁぁぁぁ!!」
ピキピキピキ…!
静歌は顔に違和感を感じた。彼女の顔の皮膚に次々とひびが入っていくのだ。そして、ひび割れた皮膚からは血が噴き出した。
「血が出てる…!?何よ!?何なのよ!?」
静歌は動揺して腕を見る―――と、腕にも次々とひびが入っていくのを目の当たりにした。亮司たちはただただ唖然と見るしかできなかった。
「なっ!何よこれぇーー!!」
静歌が驚き叫んでいる傍らで、赤渕が通話を再開させる。
「すいませんボス!大声出しちゃって…」
「構わない。赤渕…おまえの傍に如月静歌がいるな…。その女のせいで、私は不安で眠れんのだ。…私を安心させてくれないか?】
「…畏まりました。ボス」
会話を終えると赤渕の目つきが据わった。そして、携帯をしまって静歌をジロリと見る。
「私の顔をこんなに傷つけて…!傷が残ったらどうすんのよ…!許せない!」
「お姉ちゃん止めて!!」
志乃が必死に制止をかけるも、静歌は聴く耳持たず、怒りを露にし、掌をかざして光線を放とうとした―――が
ピキピキピキ…
かざした瞬間、掌にも次々とひびが入って血が噴き出した。
「あぐっ…!」
攻撃しようと思っても、激痛がそれを阻害する。そして、ひびは容赦なく体全体に及んでいく…。
「お姉ちゃん!!」
志乃が静歌を助けようと、光の矢を上空に発現させ、赤渕に向かって放った。
ピキピキピキ
しかし、信じられないことが起きた。光の矢にひびが入り、あっという間に砕け散ってしまったのだ。
「そんな…!」
志乃が驚愕していると、目の前に赤渕が立ち塞がった。そして、殺気に溢れた目で志乃を見下ろす。
志乃は恐怖に襲われ、体が震えだした。
「おまえも如月静歌の仲間か。それなら、殺害対象だ」
ピキ…
志乃の顔にひびが走った。
「如月!!」
次の瞬間、亮司が志乃の手を引っ張って赤渕から引き離した。そして、亮司たち5人はその場から退散し出した。
「待って!!お姉ちゃんが…!」
「馬鹿野郎!!お前までやられるぞ!!」
志乃が手を必死に伸ばすが、それも願わず、静歌の体は儚く崩れ落ちてしまった。
「あ……う…お姉…ちゃん」
志乃は涙をボロボロと流して、悲しみに沈んでいった。




