第55話 遭遇 その8
姿を現さずに攻撃を仕掛けてくる青塚。静歌にとっては汚い戦法以外のなにものでもない。しかし、戦いにおいて汚いうんぬんを言っていても仕方がないことは、静歌もよくわかっていた。
「姿を隠しながら攻撃できれば、それは最大の防御になるし、安心できるわね……でも」
静歌はどこにいるかわからない青塚に対して褒めの言葉を言うと、拘束されたままの赤渕のそばまで行く。
「忘れちゃいけないわ~。私には人質がいるのよ」
静歌は口角を上げる。赤渕という間抜けな人質がいる限り、自分の優勢は変わらない。
「えっ?俺のこと?俺のこと言ってんの?」
対して、赤渕は自分が人質であることがわからなかったようだ。わかったところで、緊張とは程遠いのだが。
「あんた以外にだれが居んのよ?間抜けに磨きがかかると、こうもうざったいとはね~」
本音は赤渕も今すぐ殺したい。この間抜けな男が目障りで仕方がない。だから早く青塚からボスの情報を訊き出して、彼を殺害し、この赤渕も殺すのだ。
「人質…ねぇ。止めといた方が良いぜ。そいつを人質にすんのは」
「…!」
静歌はハッとした。突如、視界に青塚の姿が現れたのだ。彼は余裕そうに腕を組んで壁にもたれかかっている。
「ボスの居場所知りたいんだろ?教えてやるぜ」
「あら、やけに素直なのね」
唐突にボスの居場所を教えると言い出した青塚。別に青塚に不利な状況でもないのに、なぜいきなり教えようと思ったのか。
「そこの4階建ての細長い雑居ビルの最上階にいるぜ」
青塚は静歌の斜め後ろにある古びたビルを見る。静歌も青塚が示したビルを見てにやけた。
「あなたの情報信じるわ。どうもありがとう」
青塚は何かやばい気配を感じ、後ろを振り向く―――と、無数の光の矢が目の前に迫ってきていた。いつの間にか静歌が魔術を発動していたのだ。
それから一秒と経たず、轟音が闇夜を切り裂き、爆風が吹き荒む。風で髪が流される中、静歌は邪悪な笑みを浮かべていた。
「おい、何だ今の音は」
轟音は向かっている亮司たちの耳にも届いた。彼らはB-12地区の近くまで来ていた。
「空が一か所明るくなってた。お姉ちゃんが光の魔術を使ったのかもしれない」
志乃が浮かない表情でそう告げる。自分の魔術だからよくわかる。静歌が使っているとはいえ、自分の魔術を人殺しの手段に使われるのは心が痛い。
すると、瑞葉が志乃の方を向いて言った。
「志乃、ここまで来てなんだけど、あんたが先頭切って静歌様を説得しに行くのは危険だと思う。様子見で私と月音が先に話しに行くわ」
そう告げて、月音にアイコンタクトを取る。月音も同意のようで、首を縦に振った。瑞葉は続いて美雨の方を見る。
「美雨も何があるかわからないから隠れてた方がいいわ。…そこのバカ男はどっちでもいいけど」
最後に捨て台詞のようにシレッと亮司に言う。瑞葉の亮司に対する扱いはすっかり定着しているようだ。
「おまえの幼稚な語彙力で説得できんのかよ」
言われたままは気に食わないので、すかさず仕返しを繰り出す。瑞葉の良い気分は、すぐに亮司のきつい言い返しによって打ち砕かれてしまい、悔しさを露に歯を食いしばる。
「心が籠ってれば語彙力なんか関係ないわ!」
その悔しさを紛らわすように持論を投げた。確かに心が籠っていることは大事だが、語彙力が関係ないことは無い。
そうこうしている間に、5人はB-12地区に入った。
「ここがB-12だ。黒薙が発見した場所はすぐそこだ」
「そこの角を左に曲がれば、いるはずよ」
美雨が10メートルほど先の十字路を指差す。もう静歌との距離はごくわずかだ。
志乃は息をゴクリと飲む。姉に会えるというのに、心から嬉しい気持ちになれない自分がいる。何より、説得はうまくいくのだろうか。姉は今の自分を本当の志乃ではないと否定している。姉とのかい離は大きい。そんな状態で飛び込んで、姉は話を聴いてくれるのだろうか…。
「どうした。心配なのか?」
亮司が志乃の顔を窺うように尋ねる。姉を前にして、一段と表情が冴えないのが気になったようだ。
「私の言うこと聴いてくれるかな…」
志乃は自信を無くしていた。
「おまえのやかましさがあれば、あのわからず屋だって聴くだろ」
「もー。ほんとにそう思ってんのー?」
こんな状況でもいつも通りの亮司に呆れつつも、表情を緩める志乃。これが亮司なりの元気づけなのだ。
「説得する時に一番しちゃいけないことは、自信を無くすことだぜ。姉貴が素直に聴くかどうかは別として、おまえが自信持って話すれば、それが一番効果的だ」
志乃はじっと聴き入っていた。感情の乏しい淡白とした口調だが、不思議と心にしみていく。そして静かに頷いた。
一方、瑞葉と月音は前に出て、亮司たちの方へ振り返る。
「じゃあ、先に様子を見に行くわ。大丈夫なようなら、合図出すから」
瑞葉はそう告げると、気を引き締めて月音と共に十字路の方へと向かった。




