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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第3章 動き出す影
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第53話 遭遇 その6


 ブロックBー12のアジト付近。赤渕は一人壁にもたれかかって、ボーっと暗闇の空を眺めていた。


「あ~~~…空は青……くないなぁ~~」


 何もやることがないのだろうか。ナマケモノのような心で、体一つ動かさずにじーっと闇夜を眺めている。


 ポタッ


「ん…?」


 すると、頬に一粒の雫が落ちてきたのだ。ただの水のようだが…雨だろうか?しかし、空には雲一つない。それは暗闇でもわかる。風も無いに等しいので雨粒が飛んできたのも考えにくい。

 赤渕は首を動かさないまま、指で頬に付いた雫を取り除いた。


「晴れてるのに雨かぁ~?おれ、どんだけ行い悪いんだよぉ~」


 自分が極度の雨男なんじゃないかと勘違いする赤渕。すると、またもや雫が赤渕目掛けて落ちてくるのが見えた―――が


「あちっ…!!」


 雫が顔に触れた瞬間、沸騰した熱湯のような熱さに襲われた。赤渕は驚いた勢いで倒れ込んでしまう。


「な、なんだよぉ~~?お天道様どんだけおれのこと嫌いなんだよぉ~~?」


 こんな不可解な現象が起きても、あくまでお天道様のしわざだと思う赤渕。どれだけ能天気なんだろうか。

 すると、突如地面から光のロープが現れ、赤渕に巻き付いたのだ。


「これは……お天道様のせいじゃねぇなぁ~~」


 さすがに光のロープで縛り付けられたのはお天道様のせいにできない。しかし、赤渕の顔からはまるで危機感を感じない。ロープをなんとか解こうとする気配もない。ただただじっとしているだけだった。


「ごきげんよう」


 不意に声をかけられた。赤渕は声に反応して顔を向ける―――と、静歌がニッコリと不敵な笑みを浮かべていた。


「私、あなた達のボスに用があるの。会わせてくれないかしら?」


 静歌は笑みを浮かべたまま、ボスに会わせるよう依頼する。笑みの裏には無言の圧力がある。依頼を断れば、男を殺す。

 だが、赤渕はボーっとしたまま答えなかった。静歌は忠告の意味でもう一度尋ねる。


「ちょっと聞いてる?魔女狩りのボスに会わせてほしいの。場所知ってるでしょ?」


 次答えなければ殺す……そう思っていると、赤渕の口から予想外の答えが返ってきた。


「ボスの居場所ぉ~?知らねぇなぁ~」


 いや、知らないふりをしているだけだろう。とぼけるのは得意そうな顔をしている。


「何言ってるのよ?あなたボスと連絡取り合ってたじゃない」


 静歌の顔はまだ笑みを保っている。こっちは赤渕をずっと監視していたのだから、嘘を言っても騙されない。


「ボスと連絡~?してたっけなぁ~?憶えてねぇや……おぅ!?」


 瞬間、赤渕を締め付けている力が一段と強くなった。赤渕は思わず声を漏らしてしまう。


「とぼけないでくれる?あなたのことはずっと監視していたの。嘘言ったって無駄よ」


 静歌の顔から笑みが消えた。彼女は顔に影を落とし、威圧的な目を赤渕に向ける。赤渕の対応がふざけているとしかとれないのだ。


「いてて…いて…。いや、ほんとに憶えてないんだってぇ~~。嘘じゃないってぇ~~」


 強く縛りつけられた赤渕は苦しみの表情を浮かべる。端から見れば、彼は嘘をついていないように見える。しかし、この男は確かにボスから指令を受け、ここに来るように言われたのだ。

 このふざけた男を殺すのは容易いが、殺してしまえばボスに出会うための手段が途絶えてしまう。なんとかして訊き出さなければならない。


「そうだ。あなた、どうしてここにいるかわかってる?」


 ここにいるのはボスと落ち合うためだ。理由もなしに場所を移動するとは考えないだろう――――しかし


「そういや…なんでおれ、こんなとこにいるんだぁ~~?」


 赤渕はここにいる理由すら憶えていないらしく、首を傾げたのだ。

 イライライライラ……静歌の苛立ちが募っていく。こんなふざけた男に付き合っていては時間の無駄だ。


 ボゥ…!


 静歌は掌を上に向けて炎を発現して見せた。メラメラと暗闇の中で威圧的に燃える炎。この間抜けな男に恐怖心を与えるには十分だろう。


「知らないって言い張るのは勝手だけど…、そこまでして私に情報を与えないのなら…殺すまでよ」


「うっひゃー!おっかねぇー!」


 静歌はゆっくりと赤渕に近付いていく。死への恐怖から咄嗟とっさに喋るかもしれない―――そういう気持ちもあったが、今は目の前のイラつく男を殺したい気分を優先させた。


 ブゥゥゥン!!


「!?」


 突如、静歌のすぐ後ろからバイクのマフラー音が聞こえたのだ。威嚇するような音に静歌はビクッとして反射的に振り返った―――が、バイクの姿は無い。


「なに…?気のせい…?」


 そう思って顔を前に戻した―――次の瞬間


 ドンッ!!


 静歌の体が宙に投げ出された。何かに後ろからはね飛ばされたようだ。突然のことに、体の感覚がマヒしている。…そして、その状態のまま地面に叩きつけられた。


「いっ…!」


 ようやく体に激痛が走る。どうやら足を骨折したようだ。その感じたことのない強烈な痛みに静歌は顔を歪める。体を動かすことすらできない。


 ブゥゥゥン!!


 またすぐそばでマフラー音が鳴り響く。激痛に耐えつつ顔を横に向けると、いきなりバイクのタイヤが目に入った。顔から10センチほどの至近距離にある。タイヤの次はボディ……そして、バイクに跨っている男の姿を目にした。スキンヘッドにサングラスをかけたいかつい風貌をした男だ。


「こんばんは嬢ちゃん。どうだ?俺の愛車?かっけーだろ?」


 その男…青塚は静歌を見下ろしながらバイクの自慢をすると、バイクから降りてボディをチェックし出した。


「あちゃー。さっきの衝撃でちょっぴし傷入っちまったなぁ。ま、嬢ちゃん体売って弁償してくれや。顔は上等だし、結構いい線いくと思うぜ~~なんてよ!ハハハ!」


 青塚はおかしそうに高笑いする。そして屈みこんで静歌の顔をジロジロと見る。


「ほーほー。よく見たら妹に顔似てんなぁ」

「し、志乃に会ったの…!?」


 どうやら目の前の男は志乃と出くわしたことがあるらしい。


「おぅ会ったぜ。妹によぉ、おまえの情報訊き出そうとしたんだが、頑なに"妹じゃねぇ!"って言うんだよ。ま、結果的に訊けずに終わっちまったが、本人が来てくれんなら、問題なしってわけだ!」


 静歌の体には、絶えることなく激痛が走り続ける。痛みに苦しむ自分を嘲笑うように喋る男……ムカつく。


「そんでよ、俺今月のスローガン考えなきゃいけねぇんだが……如月静歌の殺害―――これでいいか?」


 青塚は威圧感を放つが、逆に静歌はフッとにやけて見せた。


「いいんじゃない…?とっても愉快なスローガンね」


 次の瞬間、青塚のバイクの上空から炎の矢が降り注いだ。


 ドォォォン!!


 炎の矢は燃料タンクに引火して爆発した。青塚は咄嗟にその場から離れたが、大事な愛車が燃えてしまった。青塚は残念そうに燃えるバイクを眺める。


「あ~ぁ…。ひでーことするなぁ…」


 そして、視線を静歌の方へ向ける―――と、煙の向こうに静歌の立つ姿が見えた。激痛を感じているはずなのにどうやって立てるのか疑問に思う。

 煙が晴れるとその疑問も解けた。骨折した部分に無数の蝶がくっ付いているのだ。端から見ると異様な光景だが、どうやら効果的なようで、すぐに蝶が消えて骨折を治してしまったのだ。


「痛かったわ~…。あの痛み、あなたにも感じてもらいたいわね~。ふふ…」


 静歌は不気味に笑みを浮かべながらそう言うのだった。


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