第50話 遭遇 その3
夜になり、魔女同盟の館では、いつも通り夕食の時間を迎えていた。この日の食事当番は瑞葉。テーブルには色彩鮮やかな洋風料理が並んでいた。月音は器に盛り付けされた料理をじーっと見てボソッと言った。
「瑞葉の料理の腕が上がってる…」
「なによ。前からうまかったでしょ」
瑞葉が不満そうに反論する。しかし、暁美も盛り付けを見て、月音と同意見だった。
「でも、盛り付けかなりきれいだよ」
素直に褒められたと思った瑞葉は恥ずかしそうに照れる。
「そりゃ、綺麗に見せるのが料理の基本でしょ!」
「誰かに食べさせるために練習したとか」
月音の鋭い一言にドキッとする瑞葉。図星だったのか、額から冷や汗が垂れてきた。
「そ、そりゃあれよ!静歌様のためよ!静歌様に下手な料理食べさせられないでしょ!」
「なるほど」
何とかごまかそうとする瑞葉。月音もその場は納得したように見せたが、もちろんそうじゃないとわかっていた。
「…でも、静歌様…」
暁美が心配そうな表情で空いている静歌の席を見つめる。二人も同様に静歌の席を見つめる。
「…今日は館にも戻ってないようだし、何もなければいいけど…」
瑞葉がボソッと不安そうに言うと、暁美が不安を払拭しようと言った。
「静歌様は最強の魔術師!魔女狩りなんかにやられるわけないし、何もないよ!」
「そうよね!魔女狩りなんかバーンと一撃よね!」
瑞葉もとりあえず、深く考えないことにした。
暗闇で静まり返った街の中、赤渕はボスに言われたB-12地区のアジト前に到着した。アジトと言っても、周りは雑然とした中低層ビルが並んでおり、知らなければどこがアジトなのかわからない。
赤渕はキョロキョロと見回すこともなく、何かを待っているかのようにじっとその場に佇んだ。…その背後に追ってきた静歌の蝶も飛んでいる。結局ばれずにここまで追跡してこれた。
ピリリリリ…!
突如、携帯の着信音が鳴った。赤渕はポケットから携帯を取り出して応答した。
「もしもし、赤渕です」
今までと打って変わって、淡々とした口調で応答する。
【ついたか。私はおまえのすぐ近くにいるが、落ち合う前に次の指令をこの電話で言おう】
「はい」
二人のやり取りは、蝶を通して静歌にすべて伝わっている。静歌はじっと耳を研ぎ澄ませ、電話の内容を窺う。
ヒラヒラヒラ…
蝶が舞っている―――と
ボゥ!
突然、下からライターで炙られて火がついたのだ。
「おやおやいけねぇなぁ…盗み聞きはよぉ」
火をつけたのはスキンヘッドにサングラスの男…青塚だった。火は瞬く間に蝶を覆いつくし、すぐに燃え尽きてしまった。
―――静歌への情報は、ここで途切れてしまった。
ドォーン!!
苛立った静歌は、光弾を放って近くの壁を破壊した。
「何よ余計なことしやがって!!むかつくわ!……でも、場所はわかったことだし、今から会いに行ってあげるわ~。ふふふ」
怒ったかと思えば、今度は不気味に笑みを浮かべる静歌。彼女の頭は今、魔女狩りのボスを殺害することで満たされていた。
ガバッ!
志乃がベッドから勢い良く起き上がった。額には汗が滲んでいる。彼女は手を額に当ててうつむく。
「まただ…。また嫌な夢を…」
ふと、傍に置いてある目覚まし時計を見る。時計の針は午前1時を指していた。志乃は何か決意したように顔を引き締めると、立ち上がって身支度を始めた。
「こんな時間にどうしたのよ…」
瑞葉が眠い目をこすりながら、館の門の前に立っていた。対面するのは浮かない表情をする志乃。彼女は夜も更けた中、一人で魔女同盟の館までやって来たのだ。
志乃は頭を勢いよく下げて詫びを入れた。
「ごめん!本当にごめん!迷惑なことしちゃって!」
「別にいいわよ…。それより、なんかあったの?」
こんな時間にこんなところに一人で来るとは、余程のことがあるはずだ。それに志乃の浮かない表情が気になる。
「その…、お姉ちゃんに会わせてほしいの!」
「はぁ?志乃正気!?」
瑞葉はひどく驚いた。静歌とはあの件で溝ができているはずだ。迂闊に会えば命の危険すらある。それなのに、会いたいと言って来たのだ。だが、志乃は真剣な顔で頷いた。
「下らないって思うかもしれないけど…。私、お姉ちゃんが魔女狩りのボスに殺される夢を見た。それも一回だけじゃない…。何か嫌な予感がするの…。正直、お姉ちゃんは魔女狩りのボスを狙うと思う。だから、お姉ちゃんに会って話がしたい!」
志乃は真剣だ。だから瑞葉も真剣に話を聞いた。
「あんたの気持ちは分かった。…でも、静歌様はいない。どこかに出かけて以来、今日は一度も帰ってないわ」
「…!」
志乃はハッとする。まさか…もう既に…。
「落ち着いて志乃。あんたが慌てちゃだめよ」
心を乱す志乃を落ち着かせる。
「どうした」
すると、後方から月音がやってきた。
「月音ちゃん!」
志乃は月音の姿を見ると、表情を少し明るくして声をかけた。
「…志乃、何故ここに?」
月音は怪訝そうな表情を向ける。と、瑞葉が代わりに説明した。
「静歌様に会わせてほしいって。ちょっと物騒な夢を見て、嫌な予感がするみたい。月音は静歌様がどこに行ってるか知らないわよね?」
「知らない。志乃、他の二人は?」
月音は志乃が一人だけで来たことが気になるようだ。特に、いつも一緒にいる亮司がいない。すると、志乃は視線を下に向けて表情を曇らせる。
「お姉ちゃんの問題に渡良瀬と美雨ちゃんを巻き込みたくない…。まだ、お姉ちゃんが二人を攻撃しないとも限らないし…。瑞葉ちゃんと月音ちゃんもごめんね!お姉ちゃん居ないし、もういいよ」
志乃は二人を思って一人で来たのだ。二人の安全もあるし、姉との問題は自分で解決すべきだと思ったのだ。もちろん、瑞葉と月音を巻き込むわけにもいかない。しかし、瑞葉も月音もその思いに反対した。
「志乃、あんた今から一人で静歌様を探す気?どうやって探すつもりよ?」
「それは…」
志乃は口籠ってしまう。確かに自分は今から静歌を探そうとしていた。しかし、冷静に考えてそれが無謀であるのは明らかだ。
「美雨の魔術なら見つかるのが早い。やっぱりあの二人はいた方がいい。瑞葉、美雨を連れてきて」
「わかったわ。バカ男は私じゃ無理だから、月音と志乃でよろしく」
瑞葉は月音の指示に頷き、美雨の家に向かっていった。
「志乃、私達も行こう」
「う、うん…」
瑞葉を見届けると、志乃と月音も亮司のところに向かい始めた。




