第43話 魔女の仕返し その2
「……とは言ったものの」
志乃は美雨と二人で歩きながら悩んでいた。そしてハァーとため息をつく。
「どう仕返しするかまったく思いつかん…」
考えも浮かんでいない状態で亮司を挑発してしまったようだ。隣で美雨は苦笑いし
「まだ考えてなかったのね…」
「ハハハ…。完全に強がりで言っちゃったんだよね。どうしよう…。渡良瀬のことだし、生半可な仕返しじゃ、『そんなのは仕返しのうちに入らねーよ』とか言われそうだし」
志乃は亮司の顔マネを交えながら彼の言いそうなことを予想する。戦い慣れしている上、強がりな性格の亮司は意地でも仕返しだと認めないかも知れない。
「渡良瀬は強がりだから、意外とびっくりやさんかも」
美雨が人差し指を顎に当ててそう呟く。すると、志乃は何か閃いたのか、目を輝かせて美雨に迫った。
「それだ!びっくりさせる系で行こう!」
美雨は内心、大丈夫かと心配になった。
亮司は喫茶のテラスでコーヒーを飲んでいた。以前この店に来たときは、不幸にも魔女同盟の魔女に連行されてしまったが、今回は邪魔が入らない。亮司は一人でゆっくりする時間が好きだった。
しかし、今回もそうはいかなかった。
「ん…?」
亮司は人影に気付き、飲むのを止めて顔を上げる――と、笑みを浮かべる志乃が立っていた。
「ごめんね邪魔しちゃって」
志乃はそう詫びつつも、顔は笑みを浮かべたままだ。亮司はすぐに不審に思った。
「なんだ?仕返しか?」
志乃は内心ドキッとするが、表情に出ないように堪える。
「違う違う。はいこれ」
志乃はそう言って、赤い紙で包装された20センチほどの箱を差し出した。
「……なんだこれ」
「日頃の感謝の気持ちを込めてプレゼント」
「……風邪でも引いたのか?」
亮司は志乃の目を疑う。だが、志乃は嘘を言っている感じではなさそうだ。亮司はとりあえずプレゼントとやらを受け取ることにした。
"プレゼント"を受け取った亮司は、公園のベンチに座ってジロジロと箱を観察していた。何か仕掛けがあるのではと疑っているのだ。試しに包装を取ってみる。と、白い無地の箱だった。特に違和感はない。
疑い深い亮司の様子を、少し離れた木の陰から志乃が覗いていた。なかなか箱を開けようとしない亮司にもどかしい気持ちになる。
「おいおい、なんだ彼女からのプレゼントかぁ~?」
「…!!」
突如、亮司の後方から男の声が聞こえた。亮司はハッとして反射的にベンチから飛びのける。
「なんだおまえ?」
男は坊主頭にサングラスをかけており、赤い上着の派手な格好をしている。睨み付ける亮司に対し、男は見下すように鼻で笑う。
「"おまえ"はないだろ?魔女狩りの幹部に向かってよ」
「…!」
幹部という言葉に亮司は体を強張らせる。男は亮司の態度が変わったのを見てさらににやける。
「そうかぁ…、俺のこと知らなかったか…。そりゃぁそうか。最小限の情報しか流さないのが俺達の鉄則だからな。だが、俺はおまえのことを知ってるぜ。裏切り君」
亮司は冷や汗を垂らす。男が背後に来ていたことにまったく気が付かなかった。何の能力者かはわからないが、実力者であることは間違いない。
一方、木の陰に隠れている志乃も、男の存在にようやく気付いていた。何気なく目を逸らして視線を戻したら突如現れたのだ。
亮司を助けに行きたいが、足が動かない。無意識のうちに震えているのだ。
「俺の名前は青塚だ。よぉーく覚えとけよ」
ドカッ!!
瞬間、亮司が青塚に蹴り飛ばされた。亮司は構えることすらできずに吹っ飛ばされてしまう。
「渡良瀬!!」
「如月…!?」
志乃は反射的に声を出してしまった。亮司もまさか志乃がいるとは思わなかったらしく、驚いた表情を見せる。すると、青塚が志乃の方に顔を向けた。志乃は目が合ってしまい、金縛りでも受けたかのように動けなくなってしまう。
「おやおや、嬢ちゃんこいつの仲間か?ってことは、魔女ってことだよな?」
志乃の体からは魔力が漏れなくなったため、普通にしていれば魔女狩りにバレなくなったが、この男は亮司が裏切った経緯を知っているため、志乃を魔女と判断したのだ。
魔女と言われて志乃は心臓の鼓動が速くなる。しかし恐れてばかりではだめだ。こういう時こそ冷静にならなければいけない。
すると、青塚が地面に転がっていた白い箱を拾い上げようとした。
「それに触るな」
途端、亮司が威嚇するように言い放った。青塚は拾うのを止め、腰を上げて亮司を見下す。
「…ハハハッ!よっぽどあの魔女のことが気に入ってるみてぇだな。情けねぇ話だ」
「うるせぇ。魔女とかそんなのは関係ねぇ。あいつは目的が一致した仲間だ」
亮司はそう告げながら立ちあがる―――と、青塚を見て目を見張った。
いつの間にか箱を開けていたのだ。中には小さな鏡が入っていた。
「鏡…?これがプレゼントか?」
しめた…!志乃はこの絶好のタイミングを逃さなかった。
ピカッ!
「なっ…!?」
瞬間、鏡から強烈な光が発せられ、青塚は思わず目を逸らした。その隙に志乃は青塚の足元に光の輪を発現させ、両足に巻き付けた。そして、すかさず光弾をお見舞いする。
ドォォォン!!
光弾が青塚に命中し、辺りに土煙が舞う。そしてその間に、志乃は亮司を救出に向かう。
「渡良瀬!」
志乃は素早く亮司のもとへ駆け寄り、彼の手を引っ張った。亮司は自分が助けられる側になるのが新鮮だったのか、ただただ従うままに志乃に連れられた。少し距離を置いたところで立ち止まり、志乃が顔を覗きこんできた。
「大丈夫?」
「あ…あぁ。大丈夫だ。やるじゃねぇか」
「へへ…。渡良瀬に貸でも作っとこうかと思って」
「……その貸はすぐに返してやる」
だいぶ口八丁になったと感心半分、呆れ半分になる亮司。それはさておき、二人は再び青塚に注意を向ける。煙が晴れてその姿を確認しようとした……が
「…いない!?」
志乃は驚く。青塚の姿が消えてしまったのだ。どこかに隠れているかもしれないと思い、辺りを見回すものの見当たらない。
「如月、あいつの能力を考えろ。どんな奴かわからないときは、まずそれを考えるんだ」
「能力……。うん」
志乃は鋭い眼差しになって、必死に考えを巡らせる。――すると、どこからか青塚の声が聞こえてきた。
「裏切り君。その魔女を育てようとしてるな?魔女の最大の弱点である戦闘勘ってやつを」
亮司はフッと口角を上げる。
「さすがは幹部。勘が鋭いな」
「おまえがそれをやるってことはだ…。魔女狩りを潰そうとでも考えているのか?」
「そんな大層なこと、おっかなくてビビりな俺にはできねぇよ。あくまで護身のためだ」
「そうかぁ…。それは残念だ。もし魔女狩りを潰そうと考えているなら、あの組織と繋がりがあるかもと勘ぐっていたんだが…」
突如、亮司の目の前に青塚が現れ、彼の襟元を掴み上げた。
「渡良瀬!」
志乃が身構えるが、青塚は構わず亮司に目を向ける。
「魔女狩りを潰そうと企む野蛮な集団がいると聞いてね…。魔女同盟というらしいんだが、知らないか?」
青塚が鋭い目つきで亮司の様子を窺う。"魔女同盟"という言葉に志乃は一瞬動きが止まった。
「知らねぇな」
「………」
しばらく、青塚は無言で亮司をじっと見続けていた。彼が嘘を言っていないか探っているのだ。しかし、動揺を見せない亮司が嘘をついていないと思ったのか、青塚は彼を解放した。
「嘘をついてないな。裏切り君の顔がそう言っている」
なんとかやり過ごせたと、志乃は内心ホッとする。すると、青塚が志乃の方を向いた。
「…ところで、君の苗字…、如月というんだな」
「……?」
志乃の瞳に青塚の冷たい表情が映り込む。青塚は志乃の反応を見てフッとにやけた。
「魔女同盟の頭は如月静歌というんだが……奇遇だな。同じ苗字だ」
志乃は動揺を露にしてしまった。冷や汗がタラタラと垂れていく。この男、姉の命を狙っているのだ。
「…し、知らない…。私…そんな人、知らない…!」
青塚は不敵な笑みを浮かべながら志乃に顔を近づける。
「嘘はよくないぜ魔女。信用が無くなるのは致命的だ…。教えろ!」
青塚は突如、険しい表情になって志乃に迫るのだった。




