第116話 動き出す時間
どれくらい時間が経ったのだろうか。…そもそもこの世界に時間という概念があるのだろうか。勇真もこの世界にずっといたから、過ごした時間がわからなくなっているのかもしれない。
「亮司、時間は決して戻らない。無情に進んでいくだけ。過去を引きずったって、君が得られるのは過ぎた時間だけさ」
勇真はもう一度座り込み、亮司に目を向けて諭すように告げる。
「…過ぎた時間か。俺は今、どのくらいの時間を過ごしているんだろうな…。俺が今、こうしている間にも…あいつらは……」
亮司は遠くを見つめながら、脳裏に志乃や美雨たちのことを思い浮かべる。美雨たちは無事に志乃と鬼怒を救出できたのだろうか…。志乃の人格は…元に戻ってくれたのだろうか…。
「…なぁ、おまえはまだ14歳なんだろ?俺は今17歳だ。別に俺の方が年上になったから従えとか言うんじゃねぇ。俺がいた世界とこの世界とじゃ時間の流れが違うんだろ?」
亮司が尋ねると、勇真は首を横に振った。
「左腕についている腕時計を見てごらん」
「…?」
唐突に時計を見るように言われ、亮司は不思議そうに袖をまくって腕時計に目を向ける。――と、時計の針が止まっていた。
「あれ?電池切れか?」
「いいや、そうじゃない。ほら、俺の腕には時計がない」
勇真は袖をまくって、自分には腕時計がないことを見せる。亮司は怪訝な表情を浮かべた。どうして自分にはあって勇真にはないのだろうか。
「なんでおまえは時計ないんだよ?」
「必要ないからさ。この世界には過去も未来も無い。だから時間というものも無い」
亮司は納得がいかずに首を傾げる。
「よくわかんねぇな…。じゃあ、逆に俺はなんで時計があるんだ?」
「それは……、亮司にはまだ時間があるからだ」
亮司はハッとする。そして、もう一度腕時計を見た。針はまだ動いていないが、秒針が動こうと僅かに震えている。すると、亮司の目が何故か潤んできた。
「勇真……、これを見て確信した…!やっぱり……俺はおまえと一緒にいられない…!俺はおまえと会った時、もしかしたらもう一度同じ世界で生きられるのかと思った…!だけど、それは間違いだ…!この世界こそ……俺の過去への後悔そのものだったんだ…!勇真…、おまえはそれを教えるために…!」
わかってくれた亮司に、勇真は笑みを浮かべ、ゆっくりと目を閉じた。
「そこまでわかれば、俺はもう…いらないな…」
そう告げると、勇真の体がだんだんと消えていく。
「勇真…!」
亮司は目を見開き、勇真に向かって腕を伸ばそうとするが―――
「おっと亮司、男らしくないな。別れは潔くないと」
勇真はそれを止めて、最後は微笑みを向けて消えていった。
カチッ…!
そして、時計の針が動いた。




