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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第5章 陰謀
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第111話 暗闇の先 その6


 驚異の執念によって、月音の猛火を打ち破った赤渕。体中に火傷を負いながらも、月音の首を掴み上げ、漆黒の殺意を向けていた。


「死なない程度というのは…、生と死の境目を彷徨さまよう状況に陥れることを意味する。生きようとする意志が強ければ強いほど…きさまは苦しむことになるのだ」


「うぐっ…!」


 月音は両手で赤渕の手を解こうとするが、力では敵わない。

 赤渕はカッと両目を大きく開ける。火傷の激痛を感じているはずなのに、そんなこと微塵も感じさせない。凄まじい執念による麻酔が痛みを打ち消しているのだ。


「きさまらは無力だ。いい加減に諦めるがいい」


「…あきら…めない」


 ジュッ…!


「あつっ…!?」


 その時、赤渕の足元が急に高温になり、靴底が溶けだした。赤渕はさすがに驚いて月音を手放してしまう。


「げほっ…!げほっ…!」


 解放された月音は息を整えて立ち上がる。まんまとしてやられた赤渕は怒りに顔を歪めていた。

 赤渕にとって、ここまで屈辱的な気分を味わったのは初めてだ。もうめちゃくちゃに痛めつけなければ、この怒りの炎は到底収まらない。…あとは、そうだ。実験が終わって用済みになったら…惨たらしく殺してやろう。


「実験が楽しみだ…。終わった後もな…」


 月音を惨殺できる未来を楽しみに思いながら、下品な笑いを浮かべる赤渕。―――すると


「弱点は2つある…」


 唐突に、月音が口に出した。赤渕はおかしそうに首を傾げて見せる。


「2つだぁ?おれに弱点なんかねぇってよぉ、さっき言っただろ!記憶力ねぇのかぁ!?ははは!」


 バカにしたように笑う赤渕を気にせず、月音は話を続ける。


「ボスはおまえを強く信頼しているようだ。私達魔女を倒すのに時間なんかかからない…。そう思っているに違いない」


「やっと理解したか!!その通りだ!!殺さないでおくという制約のせいで長引いているに過ぎない!!」


 魔女に劣るなんてありえないことだという絶対的なプライド。それが、自分に弱点があることを頑なに否定する。今までそんなこと考えたこともないし、実際、圧倒的な力でねじ伏せてきたのだから。

 …だが、月音は絶望的な状況を前に強がっているわけではない。彼女は至って冷静だった。そして、自分の言ったことに確信があった。


 ゴオォォォ!!


 月音は再び、赤渕を遮るように炎の壁を発現させた。


「なんだ?またおれの執念を試そうというのか?おめでたいやつだ…。一瞬で砕いてやる!」


 ピキピキピキッ…!


 炎の壁にみるみるひびが入っていく。しかし、壁の内側にさらに炎の壁が現れ、外側が砕かれても2人の間を炎が遮っていた。月音は持久戦に持って行くつもりだ。…それは、赤渕の2つ目の弱点を突くため。


 ピキピキピキッ…!


 新しく燃え上がった炎にもひびが入り始め、月音はさらに内側に炎の壁を発現させようとする。

 ―――その時、ひびの進行がピタッと止まった。


「…やっと時間切れか」


 月音はボソッと呟くと、炎の壁を消失させた。――そして、立っていたのは、気迫と執念に満ちた赤渕……ではなく、垂れた目で場違いなほど呑気に佇む赤渕だった。


「あれぇ~~?おれ、何してたんだぁ~~?…って、なんか体中がすんごく痛い…。なんだこの痛みはぁ~~~?」


 赤渕はようやく、体中にある火傷の痛みを感じたようだ。その痛みはすぐに耐え難い激痛へと変わる。


「いてぇぇぇ!!いてぇぇよぉぉぉ!!体中すんごくいてぇぇぇ!!」


 赤渕は体を崩し、地面を転がり回って悶え苦しむ。

 …なぜ、赤渕の人格が戻ってしまったのか。月音は赤渕と遭遇したときの電話に目を付けていた。まず、赤渕の人格を変えるには、"ボスの声"が必要だと推測する。以前、静歌がやられた時もそうだったからだ。それにしても、もっと早めに人格を変えておけばいいのに、あそこでわざわざ電話をする必要があったのは、別の制約があるからだ。

 それは、赤渕の冷酷な人格には制限時間があるということ。ボスは赤渕を強く信頼しているから、魔女を倒すのは制限時間内で十分だと考えていたのだ。…これこそが2つ目の弱点だ。


「いてぇぇぇ!!」


 赤渕が悶え苦しんでいると、その拍子にポロッと携帯を落とした。月音はそれを拾い上げ、着信履歴を確認する。

 ボスからの電話は――来ていなかった。


「…やはり電話は来ていなかった。ボスの声を録音していたというわけか…。また人格を変えられるのは困るな」


 ボオォォ!!


 月音は再び赤渕がボスの声を聞くことが無いよう、携帯を炎で包み込んだ。…これで、赤渕は人格を変えることができなくなった。


「あぁーーおれの携帯がぁーー!痛くてそれどころじゃあぁーー!!」


 携帯の心配よりも、今襲い掛かっている激痛に対処する方が優先だった。


 ゴォォォオオオ!!


「あぢいぃぃぃぃいい!!」


 次の瞬間、灼熱の猛火が容赦なく赤渕を焼き払った。




 志乃と静歌が寄り添うようにソファーに座って紅茶を飲んでいると、扉が開いて青塚が入ってきた。青塚は不自然なほどにニコニコしながら2人を見つめる。


「やぁやぁ…、会話は存分に楽しめたかな?」


「えぇ。こんなに話したのは初めてかも知れないわ。わたしは今、すごく幸せよ」


「お姉ちゃん、私もだよ」


 志乃はそう言って、甘えるように静歌に寄りかかる。静歌も志乃の頭を優しく撫でてあげる。仲睦まじい姉妹の姿は微笑ましい光景にすら見える。青塚は仮面の笑顔でそれを見ていた。


「再会できて良かったってもんだ。…俺達はね、2人の仲をもっと良くさせようと思うんだよ…」


 青塚はそう告げると、右手に持つ2つの小瓶を掲げて見せた――――瞬間


 グサッ…!


「ぐっ!!」


 青塚の右腕に後方からナイフが突き刺さったのだ。その拍子に2つの小瓶が手から離れて床に落下する。青塚自身も激痛で体を崩してしまう。


「……て、てめぇは…!」


 青塚が苦痛に歪みながら後方に目を向けると、片手にナイフを持って剥き出しの殺意を見せる亮司の姿があった。


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