第105話 隠された場所
亮司たち3人は自らの目でビルの中を調べていた。…が、結果は同じ。どの部屋も空っぽで、青塚達が使っている形跡はなかった。
1階の部屋にいた月音は、そばにいる亮司に目を向ける。
「いくら青塚の能力が万能だとしても、ここまで形跡がないのは不自然だ」
「………」
亮司は黙ったまま部屋をじっと見つめていた。もしかしたら、本当はここにいるのに、青塚の能力によって認識できないだけかもしれないと考えていたが、その読みは違ったようだ。ここまで何もないのであれば、場所を変えていると考えた方が良さそうだ。
「3階も全部空っぽだったわ」
そこに、3階を調べてきた美雨が戻ってきた。彼女の報告を受けて、亮司は顎に手を当てて考え込む。
「…空っぽすぎるな。本当にアジトとして使ってたのか疑問だ」
場所を変えたとしても、時間に余裕は無かったはずだ。ここまでご丁寧に空っぽにするだろうか。
「いたいた!やっと辿り着いた」
声が聞こえたかと思うと、瑞葉と暁美が姿を見せた。無事に光磨を助けた後、ここまで急いで来たのだ。見た感じ大きなけがも無いので、亮司たちはホッと一安心する。
「良かった…。けがはない?」
「うん大丈夫。光磨も無事」
月音がいたわりの声をかけると、瑞葉は元気そうに答えた。
「…敵は土槍か」
「え…?どうしてわかったの?」
まだ敵の名を言っていないのに、亮司が先に当ててしまった。瑞葉は何故かわからず、小首を傾げた。すると、亮司が瑞葉の服を指差す。
「服に泥がついてる」
「あ…」
亮司に指摘されて初めて自分の服が汚れていることに気付く。瑞葉は慌てたように手で服についた泥を払い落とした。
一方、月音は敵が土槍だったことに驚いていた。
「じゃあ、2人は土槍を倒したの?」
「もっちろん!私の強力な魔術でいちころよ!」
瑞葉は腰に手を当て、得意げな顔でいばって見せる。亮司たちから厄介な人物だと聞いていたので、その能力者を倒した功績は大きい。
しかし、瑞葉がいい気になると、必然的に毒を入れたくなる者が一名。
「なんだ強力な魔術って?狼みたいに噛みついたのか?そりゃいちころだな」
亮司がバカにしたように言うと、瑞葉はイライラが募り、青筋を浮かべて歯を食いしばる。
「なに…?そんなに噛みつかれたいなら……噛みついてやるわよ!」
瑞葉は怒鳴ると、掌を上に向けて水を生成した。その水は東洋の竜のような形になり、口を大きく開けて勢いよく襲い掛かった。
「おわっ!」
亮司はすぐさま部屋の外へ逃げ出し、通路に出ると体を右へ直角に曲げて水の竜をかわした。
バッシャアアア!!
水が勢いよく壁に当たって飛び散った。瑞葉はその気になれば水を空中で曲げることもできるが、別に本気で攻撃しようとは思ってないのでここまで。ただ、脅しには十分な効果がある。
「あぶねーあぶねー」
亮司は間一髪避けれて安堵の声を漏らすが、どこかわざとらしい。
「ったく…。今度バカにしたら、その減らず口に大量の水を飲ませてやるから」
「瑞葉…こわい…」
脅しをかける瑞葉に、隣の暁美が冷や汗を垂らして苦笑いしていた。
「ん…?」
亮司はふと、地面に飛び散った水に目を向けた。なかなかの水量だったようで、いくつかの水たまりができていたのだが、その一つが、まるでどこかに吸い込まれるようにだんだんと小さくなっているのだ。
不審に思った亮司は、水たまりのところに足を置いた。―――すると
「これは…!」
亮司は目を見開いて驚愕した。その声を聴いた月音たちが何かと思って部屋から出てくる。――途端、彼女らも驚愕の色を示した。
何もないと思っていたところに、忽然と地下に降りる階段が現れたのだ。
「どうやら場所は当たってたみたいだ。ただ、地上じゃなく地下だったってことか」
この階段を青塚が認識させなくしていたのだ。それによって、このビルがあたかも地上に部屋があるだけのビルだと思わせたのだ。
しかし、青塚の能力も意思を持たない水には通用しない。そして、水をきっかけとすることで青塚の能力が強制的に解除されたのだ。
「おい狼女、感謝するぜ」
亮司は瑞葉を見て軽く礼を言う。しかし、怒って攻撃した瑞葉は素直に喜んでいいのか複雑な心境だった。
5人は地下へと続く階段を下りていく。灯りがなく暗いので、月音が人差し指の先に火を灯して明るさを確保する。
階段を下り切ると、その先には通路が続いていた。何やら不穏な雰囲気が漂っていて、怖いものが苦手な瑞葉は不安そうな表情をしていた。




