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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第5章 陰謀
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第103話 幽閉 その1


 志乃は人格が変わっても記憶だけは共有していた。だから、今の人格が青塚と初対面でも、記憶があるので彼のことはわかっている。

 それよりも、青塚は今、静歌の言ったことが本当だと言った。と言うことは、青塚は静歌が何故こうなっているかを知っているはずだ。


「お姉ちゃんに何したの?」


 志乃は青塚に近付き、キッと強く睨みつける。下手なことを言えば攻撃する構えだ。それでも、青塚はニヤニヤした態度をやめない。


「"俺は"何もしてねぇぜ?まぁまぁ…、せっかく来たんだ。座って茶でも飲めよ」


 青塚はぼやかした返事しかせず、ソファーに座るように勧めた。志乃は素直に従う気がまったくない。青塚への睨みをやめず、無言の圧力で適切な答えを求めた。


「そうね志乃。少し休んだ方がいいわ」

「え…?」


 志乃は耳を疑った。そして思わず静歌の顔を見た。姉の顔はまたしても真面目に言っている感じだった。…やはりおかしい。姉が青塚に同調するなんて…ありえない。


「ほら、お姉さんもそう言ってることだし。姉の言うことには素直に従わないとな…妹は」


「………」


 志乃はそれでも座ろうとしない。ただじっと青塚を睨み続ける。……と、静歌が先にソファーに座ってしまった。


「さ、志乃。お菓子もあるわよ。甘いの大好きでしょ?」


 静歌はテーブルの隅に置かれた、クッキーやチョコ菓子の入ったバスケットを真ん中に持ってくる。


「飲み物を持って来よう。お嬢は何が良いんだ?」


「わたしは紅茶でお願い。志乃は?」


 静歌は自分の分を頼むと、志乃に目を向けた。志乃は呆然と立ち尽くしていたが、姉の問いかけに意識を戻した。


「あっ…、私もそれで…」


 志乃は半ば反射的に紅茶を頼んだ。頼まれた青塚は踵を返して紅茶を取りに部屋を出ていった。

 2人になって静かな時間が流れていく。立っていても仕方ないと思った志乃はソファーのところに行き、静歌の隣に腰かけた。


「こうして2人でいられるなんて幸せだわ」


「……うん」


 静歌は言葉通り嬉しそうな表情を浮かべるが、片や志乃の表情は曇っていた。


「どうしたの?顔が浮かないわ」


 静歌が心配そうに目を向ける。志乃の様子が先程から暗いままだ。せっかく再会できて、2人の時間が流れているのに、志乃は少しも嬉しくなさそうだ。


「…お姉ちゃん、何かされたの?」


 志乃が疑念の目を向けて尋ねてきた。


「いいえ。何も。志乃ったら心配し過ぎよ。わたしはいつも通りよ」


 静歌は至って普通だと主張する。すると、志乃がガバッと勢いよく立ち上がった。


「いつも通りじゃないよ!お姉ちゃんおかしい!だって青塚の言うことすんなり聞いてるし、何よりここを出たら死んじゃう…って、いつものお姉ちゃんならそんなこと絶対言わないよ!だって、お姉ちゃんは最強の魔術師だもん!」


 志乃は声を荒げ、感情を押し出して言い放つ。自分は姉を強く尊敬している。だからこそ、こんな弱々しい姉は見たくないのだ。


「その気になれば、あんな青塚なんてすぐに殺せるんだよ!?こんな息苦しいところなんかぶっ壊しちゃってさ、一緒に館に戻ろうよ!お姉ちゃんができないなら、私がやる!」


 志乃はそう告げると、掌をかざして光を凝縮し始めた。姉ができないなら、自分がこのアジトを破壊する。ここがなくなれば、館に戻るしかないと思うはずだ。

 ――だが、突然静歌が立ち上がって、両手で志乃の体を押さえたのだ。


「だめよ志乃!早まらないで!ここがなくなったらわたしは死ぬしかないの!」


 静歌が懸命に制止をかける。そのあまりの必死さに、志乃は思わず光の凝縮をやめてしまった。そして、唖然と静歌を見つめた。まるで人格が変わってしまったかのようだ。

 ――その時、急に志乃の目の前に紅茶の入ったティーカップが現れたのだ。驚く暇もなく、湯気がモクモクと上がっているティーカップを口元に付けられ、中の紅茶が流れてきた。


「あつっ…!!」


 熱湯のような紅茶を無理矢理飲まされ、志乃は口と舌に火傷を負ってしまった。ビチャビチャとこぼれた紅茶が下のテーブルに落ちていく。


「お行儀が悪いな~~。きちんと教育されてねぇんじゃねぇか?」


 ティーカップを2つ持つ青塚が突如目の前に現れ、志乃に文句を言った。そして、2つのティーカップを志乃と静歌の前にそれぞれ置いた。

 次の瞬間、我慢の限界を超えた志乃が青塚の胸ぐらに掴みかかった。


「ざけんなてめぇ!!ザコのくせに調子のんな!!お姉ちゃんに何したんだよ!?早く言えこのクソ!!」


「口が悪いぞ。言葉遣いの教育もされてねぇのか?」


 怒りの感情に身をゆだねる志乃に対し、青塚は至って冷静だった。


「あぁ!?能力者ごときが魔女に説教すんな!!いいから言えよ!!ここを火の海にされてぇのか!?」


 志乃は怒号を飛ばし、再び掌をかざして光を凝縮し始めた。


 ピキッ…


「!?」


 志乃は驚愕した。掌の先にある光の球に突然ひびが入ったのだ。そして


 パリン…!


 まるでガラスのように粉々に砕けてしまった。


 ピシッ…!


「うぐっ…!」

「志乃…!」


 さらに、掌にもひびが入り、血が噴き出した。激痛が志乃に襲い掛かり、彼女はよろめいてしまう。それを静歌が心配そうに受け止めた。だが、愛する妹が攻撃されたというのに、静歌は青塚に攻撃しようとしない。


「こんなところで光線ぶっ放すなよ。お行儀が悪いって言ってんだろ?」


 青塚はせせら笑いを浮かべながら志乃に顔を近づけた。志乃は屈辱的な気分を味わわされ、歯を食いしばって青塚を睨み付ける。


「志乃を攻撃しないで!」


 一方、静歌は弱気な態度で青塚に訴えかけた。


「俺は攻撃してないぜ?なぁ赤渕」


 青塚がへらへらと笑って答えると、突如、隣に赤渕が姿を現したのだ。今のひびはこの赤渕の能力によるものだ。

 赤渕は氷のような冷え切った目つきで志乃を見ていた。その、微動だにしない瞳から発せられる殺気に志乃は恐怖を感じ、汗を滲ませる。


「あまりいきがるなよ魔女。次はおまえの目にひびを入れてやる」

「…!」


 志乃はビクッとして本能的に一歩引き下がった。ここで引き下がらなければやばいと、頭が即座に判断を下した。


「まぁまぁやめとけ。大事な"お姉ちゃん"と再会できたのに、目が見えなくなるのは酷だろ?」


 青塚が赤渕をなだめ、赤渕は攻撃せずに引き下がった。しかしそれでも、今の志乃の人格にさえ恐怖を与えるには十分すぎた。


「如月志乃。おまえはもうここから出ることはできない。愛しの"お姉ちゃん"と最後の時間を楽しんでろよ。…それから、助けは来ないぜ。なぜならここは絶対に見つからないからな」


 青塚は面白そうににやけながらそう告げると、赤渕と共に部屋を出ていった。


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