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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第5章 陰謀
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第101話 瑞葉の怒り その2


 日がだいぶ傾き、辺りが茜色に染まる中、志乃は古びた低層ビルに囲まれた人気ひとけのない道を走っていた。静歌のいる場所はもうすぐ近くだと直感的にわかる。

 姉に逢ったらまず何を喋ろうかと、心躍らせながら考える。話したいことはいっぱいある。もう、誰にも邪魔させはしない。2人だけの時間をいつまでも過ごすのだ。

 そして、志乃は3階建てのビルの前に来た。ここの地下に静歌がいる。志乃は一呼吸置くと、中に入って地下へ続く階段を下りた。外の光が届かないせいで、階段はだんだん暗くなっていく。――その時


「志乃!!」


 志乃の耳に自分を呼ぶ声が入ってきた。その声は間違いなく姉のものだ。志乃が下に目を向けると、踊り場のところに静歌の姿があった。


「お姉ちゃん!!」

「志乃!!」


 志乃は喜色満面にあふれた。そして、慌ただしく階段を駆け下りて、静歌に抱きついた。


「逢いたかったよーー!」


「わたしもよ。元気そうで良かったわ」


 志乃の心から嬉しそうな笑顔が見れて、静歌は安堵の表情を浮かべる。前回とは違う。今の志乃は自分が求めている志乃そのものだった。


「もう…あなたは誰にも渡さない。いつまでもわたしと一緒よ」


 滑らかな声色だが、決心は岩石のように強固だった。あの憎き渡良瀬亮司には絶対に渡さない。あの男のもとにいれば、志乃の心が腐ってしまうという危機感さえあった。月音や瑞葉などの元仲間は寝返ってしまったが、志乃さえいれば他はどうだっていい。静歌にとっては、志乃の救済こそがすべてなのだ。


「わたし…、以前は強がって志乃を手放してしまったけれど、あれは大きな間違いだったわ。志乃が居なかったら、わたしの心はどうしようもない虚無感に襲われるのよ…。それが、今志乃の顔を見た瞬間に消え去ったわ!やっぱりわたしにはあなたが必要なの!お願いだから、もう離れないで!」


 静歌は涙を零しそうなほど切実に思いを告げた。静歌の言う"離れないで"の意味は、物理的に離れないという意味合いだけでなく、志乃の人格が変わらないでほしいという意味も含んでいる。志乃はそれを理解していた。だからこそ、抱きしめる手を解かなかった。


「うん…!約束する」


 志乃は幸せに浸りながら心に誓った。




 瑞葉は目の前の男に静かなる怒りを向けていた。何もしていない光磨を痛めつける行為は許されないことだ。しかも、この男はそれを楽しそうにやっていた。人を傷つけることに快楽を得ているようなクズには、容赦なく鉄槌を下さなくてはならない。

 対して、土槍は瑞葉の怒りをものともせず、へらへらとバカにしたように笑っていた。


「おめぇは水の魔術を使うようだな~~。泥は水を吸収する…。おめぇの水なんてよぉ~~、俺の前には無力だぜ~~!」


「へぇー。あんたに私の水を吸収し切れるかしら」


 勝ち誇ったように言う土槍に対し、瑞葉は静かな口調で蔑むと、自分の周りの地面から水を噴水のように噴き上がらせた。


「すごい…!何もないところからあんなに大量の水を…!」


 光磨はその光景を見て、瑞葉の魔術の凄さに目を見張る。すると、光磨の傍に暁美が来た。


「光磨くん、じっとしてて。今地面から出してあげるから」


「えっ…?でも、どうやって…?」


「見てて」


 体の半分が地中に埋まっているのに、彼女はどうやって引き出すというのか。光磨が疑問に思っていると、暁美の手から細いワイヤーのような糸が伸びて、光磨を囲むように地面に落ちていった。そして、光磨を中心とする何重かの円になると、暁美は糸に魔力を流し始めた。


 ピシピシッ!


 すると、円の部分の地面に亀裂が入り始めた。光磨は驚きつつもじっと様子を窺う。


 バキバキッ!!


 そして、糸伝いに大量の魔力を送り込まれた地面は粉々に粉砕され、地中に埋まっていた体が外に出た。


「やった…!すごい…!」


 光磨は喜ぶと同時に、暁美の魔術に感服した。


「ありがとう!」


「どういたしまして」


 光磨がお礼を言うと、暁美はニコッと笑みを返した。

 一方、瑞葉は噴き上がる水からムチのように水流を飛ばした。しかし、直前で土槍は素早く地面に潜ってそれを回避する。


「瑞葉!後ろから泥が飛んでくる!」

「!」


 光磨が土槍の攻撃を予知して、瑞葉に向かって叫んだ。瑞葉がハッとして振り向いた直後、地面から無数の泥が銃弾のように発射された。

 しかし、噴き上がる水の勢いが増大して水圧カッターのようになり、飛んできた泥をすべて砕いた。

 瑞葉は水を自在に生み出して操れる。水を生み出すことに多大な魔力を消費するが、一度生成すれば、その水を何度でも利用して攻撃や防御に使える。高圧水で銃弾を弾くことも可能なので、泥攻撃を防ぐのは朝飯前だ。


「瑞葉!今度は反対側から土槍が出てくる!」


 光磨の予知を聞いて、瑞葉は顔を前に戻す…と、土槍本体が地面から姿を現した。―――その時


「がはっ…!」


「光磨くん!!」


 背後で光磨の呻き声が聞こえ、瑞葉は慌てて振り向く―――と、光磨が土槍に殴られ、血を吐いてこちらに吹っ飛んで来るのが映った。瑞葉の前に現れたのは、泥で作られたおとりだったのだ。


「光磨!!」


 瑞葉は水の壁を解除して、倒れ込む光磨に駆け寄る。―――しかし


「魔術を解除したな…」

「…!!」


 今度はおとりだと思っていた方が動き出して、瑞葉の体を掴み上げようとした。――が


 ヒュルヒュル…!


 土槍の手に糸が素早く巻き付き、動かなくなってしまった。土槍が目を向けると、暁美が手から糸を伸ばしていた。彼女は光磨を殴り飛ばした方にも糸を飛ばして体中に巻き付かせ、魔力を送り込んで粉々に粉砕した。


「本体はこっちね…!」


「ちっ!おめぇも厄介者だったかよぉ~~!」


 土槍は暁美を睨み付け、巻き付いた糸を力ずくでちぎろうとするが、糸はビクともしない。


「私の糸ははさみでも切れない!ちぎろうとしたって無駄!」


 暁美は糸に魔力を送り込み、本体にも攻撃しようとした。――すると、土槍が糸を瑞葉の首に回したのだ。瑞葉も道連れにするために。


「なっ…!」


 暁美は慌てて魔力を送り込むのを止め、糸を切断した。同時に、土槍に巻き付いていた糸が消失する。


「うひょひょ~~!」


 自由になった土槍はすぐさま瑞葉を掴み上げようと手を伸ばす。


 バシャァァァ!!


「ぐわっ!?」


 その時、周りの水が土槍を囲むように勢いよくらせん状に噴き上がり、そのまま土槍を高々と押し上げた。

 瑞葉は気を失った光磨の頭を優しく撫でると、拳をギュッと握りしめて立ち上がった。


 バシッ!!


「うぎぎ…!」


 地中に逃げようにも、水に強い力で縛り付けられ、ただただ苦しみもがくしかない。それでも、瑞葉はさらに締め付ける力を容赦なく強めていく。


「このままあんたを押し潰してもいいかもね」


 光磨をここまで傷つけたやつに慈悲などいらない。瑞葉の中で抑えようのない怒りの炎が燃え上がり、それが彼女の魔力を際限なく強くしていく。

 ―――だが、土槍はフッと不気味な笑みを浮かべた。


「押し潰しちゃって……いいのかよぉ~~?」


 瞬間


 バアァァン!!


 空気が破裂したように、土槍の体から勢いよく泥が吹き飛んだのだ。泥は先程の攻撃とは比べ物にならないほどの威力で、至近距離の瑞葉と離れていた暁美にも降り注いだ。


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