第100話 瑞葉の怒り その1
光磨は体中に走る激痛を気力でなんとか堪え、よろよろと立ち上がった。相手は能力者…。確信は持てないが、どうやら地面の中を自由に移動でき、さらに泥を飛ばすことができるようだ。泥と言ってもバカにできない。銃撃のような泥攻撃は、体こそ貫かれないものの、相当な威力がある。…いや、土槍がコントロールしているだけで、本気を出せば体も貫かれるかもしれない。
だが、本当に怖いのはそれではない。土槍は相手を一瞬にして地中に引きずり込むことができるのだ。そうなってしまえば、あっという間に窒息で死んでしまう。
「ただのぬるい小僧だと思ってたが、ちっとは骨があるじゃんよぉ~~!それでよぉ~~、おめぇまだ俺の質問に答えてねぇよなぁ~~?俺まだ納得いってねぇんだよぉ~~。なんでさっき立ち止まったんだよぉ~~?」
土槍は懲りずに、先程光磨が突然立ち止まった理由を尋ねる。しかし、光磨は口を割ろうとしない。ここで自分が能力者で、少し先の未来を予知できる能力を持っていると言ってしまうのはまずいだろう。今は能力を駆使して、この男から逃げることを考えなくてはいけない。
光磨は無言のまま能力を発動した。――すると、土槍が痺れを切らして再び泥を飛ばしてくるのが見えた。
ダッ!!
光磨は突然走り出した。泥の攻撃はそう遠くまでは届かない。まずは土槍の攻撃手段を減らすべきだと考えた。
「あっ!待てや小僧!」
土槍はすぐに地面に潜って姿を消した。地中から光磨を追いかける気だ。…だが、ここで1つの疑問が浮かんだ。あの男はどうやって地中から相手の位置を捕捉するのだろうか。目は使えないはずだ。何か別の手段を使って捕捉しているに違いない。
「はっ…!」
光磨はあと数メートル先で土槍に足を掴まれる未来を見た。その位置が光磨には明確にわかる。……それならば
光磨はその位置を踏まないように大きく跳び越えて見せた。――次の瞬間、土槍の腕が地面から飛び出してきた。…が、光磨の足を掴むことはできなかった。
「な、なにぃ~~!?跳び越えただとぉ~~!?なんでだよぉ~~!なんでなんだよぉ~~!ハードル走でもねぇのによぉ~~!おかしいだろあの小僧~~!」
再びしてやられた土槍は、納得いかずに文句を吐くが、その間にも光磨はどんどん離れていく。
「でもちっとは面白くなってきたぜぇ~~!もっと必死こいて逃げろよぉ~~!うひょひょひょひょ!」
土槍は苦い顔から一転、獲物をじっくりいたぶれる喜びに笑みを浮かべると、地中へと姿を消した。
光磨は走りながら能力を発動する。――だが、おかしい。先程から土槍が襲ってくる未来が見えない。うまく撒けたとも思えないし、どこかに潜んで、様子を窺っているのだろうか。
それでも光磨は足を止めない。攻撃してこないのならそれが一番だ。土槍は地面から出てくるわけだから、人通りが多いところへ向かえばいい。人目につくところは嫌がるはずだ。
だが、光磨は自分の考えの過ちに気付いて足を止めた。
『いや…、もし…人が多くても関係なく攻撃してきたら……、関係ない人たちを巻き込んでしまう…!だめだ!』
その時
ガシッ!!
突然地面から腕が飛び出して、光磨の足を掴んだ。
「しまっ…!」
光磨は焦りの表情を見せる。考えに意識を取られていたせいで、能力を発動していなかった。光磨は慌てて能力を発動させ、未来を読み取る。―――すると、男が名前を告げる未来が見えた。男は魔女狩りの土槍と名乗った。
「やっぱり魔女狩り…!」
光磨が土槍が顔を出す方に目を向けて歯を食いしばると、予知通り顔を出してきた土槍が疑いの目を向けてきた。
「おかしいなぁ~~。やっぱりってなんだよやっぱりってよぉ~~。俺はまだ一言も喋ってねぇんだぜ~~?でもよぉ~~、俺は自己紹介する気でいた。おめぇ未来を予知できるなぁ~~?」
「…!!」
光磨は目を見開いて汗を滲ませた。その様子に、土槍は予想が的中したと満悦な気分になる。
「うひょひょ~~!当たったぜぇ~~!だったらさっきおめぇがいきなり立ち止まったり、跳び越えたのも納得がいく…。そしてぇ~~!今こうやって捕まってるってことはよぉ~~!常に予知し続けることはできねぇってわけだ!」
「うぐっ…!!」
光磨の体が勢いよく引きずり込まれ、あっという間に体の半分が埋まってしまった。そして、入れ替わるように土槍が全身を地面から出してきた。全身をタイツで覆われ、顔にはマスクを付けている…見た目はまさに変質者そのものだ。土槍は光磨の傍にしゃがみ込むと、不敵な笑みを浮かべて見せた。
「ほぅら、予知してみろよぉ~~!どんな惨い未来が見えるんだぁ~~?」
光磨は手を地面について力一杯引っ張り上げようとするが、地中に埋まっている部分はビクともしない。これでは、攻撃を予知してもガードくらいしかできない。
すると、土槍は地面から泥をすくい上げて団子状に丸めた。
「泥団子、小さい頃に作って遊んだりしたよなぁ~~?そんでよぉ~~、こ~~やって……」
土槍は泥団子を持つ手を振りかざした。光磨は奴がどこに向かって投げるのか予知していたので、咄嗟に口を手で隠した。
バシッ!
「うっ…!!」
泥は口ではなく、目にぶち当たった。光磨の目の周りが泥だらけになり、彼は目を開けることも満足にできなくなった。
「ははは~~!バカめ!!予知できるあまり、先にガードしちまったなぁ~~!予知は強みだが、弱みにもなっちまうんだぜ~~?でもよぉ~~、おめぇひ弱な外見のわりに辛抱強いなぁ~~。だいたいのガキはもう既に恐怖でちびっちまってるぜ~~。そこでよぉ…、おめぇ仲良しの魔女を電話して来させろよぉ~~」
土槍は良い悪巧みを思いつき、面白そうににやけながら光磨のスマホを取りだした。対して、光磨は強く睨みつける。
「呼ぶわけがない…!瑞葉は僕の大切な人だ!だから巻き込むわけにはいかない!」
光磨は力強く言い放ち、土槍に反抗した。――――すると
「何よ…。かっこいいこと言うじゃない」
瞬間、横から水が勢いよく土槍に襲い掛かり、直撃を受けた土槍は吹っ飛んでしまった。
光磨はハッとして顔を向ける。
―――そこには、仁王立ちする瑞葉と、もう1人仲間と思われる魔女が立っていた。
「み、瑞葉…!?なんでここに!?」
光磨はここに来るはずの無い瑞葉を見て驚愕する。瑞葉はすぐに答えず、地面に落ちている光磨のスマホを拾い上げた。
「電話、繋がりっぱなしよ」
「えっ!?電話!?」
瑞葉がスマホを光磨に手渡す。光磨が画面を確認すると、確かに通話中になっていた。どうやら気付かぬうちに画面をタップしていたようだ。
「ほんとだ…。僕…、瑞葉を助けるって言ってたのに…、こんな情けない姿見せちゃった…」
光磨は顔を垂らして落ち込んでしまう。地中に体半分埋まっている状態は見られたくなかった。しかし、瑞葉は凛とした目付きで光磨を見た。
「情けなくなんかない。あんたは十分に立派よ」
そう告げて、今度は吹っ飛んで倒れている土槍に目を向けた。その目には、静かだが強い怒りが籠っていた。
「あんた…、土槍ってやつね。話は聞いてるわ。地面の中を自由に移動できるみたいね」
冷たい口調でそう言うと、土槍は体を起こして瑞葉に顔を向けた。
「おめぇが久地瑞葉か。うひょひょひょ~!自分からホイホイ来るなんてよぉ~~!バカ丸出しだぜぇ~~!!」
土槍は瑞葉を指差してバカにしたように笑う。しかし、瑞葉はムカつかずに、蔑むように土槍を見下した。
「バカはどっちかしら。光磨を襲ったこと…後悔させてやるから」




