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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第1章 小さな芽吹き
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第9話 魔女の勧誘 その2


 昼下がりの公園。街中にありながら広々とした敷地に青々とした木々が植わっているこの公園は、市民の憩いの場として親しまれていた。


「――ということなんだけど」


 志乃はベンチに座って、隣に座っている亮司に学校での出来事を話していた。


 ―――黒薙美雨という魔女の子が転校してきて、魔女同盟ウィッチブレイブという組織に入らないかと誘ってきた―――


 怪しい組織だとは思っていないが、入れば何かしらの制約が生じるのではないか……志乃はそのことを不安がっていた。亮司は魔女の味方だが、建前上は魔女狩りに属している。魔女狩りと共に行動していることが美雨に見つかったら、いろいろと面倒そうだ。


「ほー…。ウィッチブレイブか…。なんつーか、少なめの脳ミソで考えた感じがするネーミングだな」


「ど、毒を吐くね…」


 ネーミングセンスについてバッサリと切り捨てる亮司に、志乃は冷や汗をかく。名前のセンスとかは論点ではないのに、亮司はまずそこが気になったようだ。


「一般社団法人 魔女支援機構ってのはどうだ。引き締まってるだろ?」


「なんか一部分変えたら実在しそうなんだけど!…っていうか、そこは今どうでもいいでしょ!」


 ボケてるのか真面目に言っているのかわからないが、埒が明かないので脱線した軌道を戻さねばならない。

 気を取り直して、志乃は神妙な面持ちで尋ねる。


「味方が増えるっていうのは助かるんだけど……組織っていうのに抵抗感があって…。渡良瀬はどう思う?」


「それは自分で考えるべきだな。自分の未来は自分でじっくり考えればいい」


 亮司はそう告げると、立ち上がって隣の自販機からコーヒーを二つ購入する。


「ほれ」


 二つのうち片方を志乃に渡す。


「あ、ありがと」


 志乃は目を丸くしつつ、せっかく奢ってもらったものなのでありがたくいただく。ブラックコーヒーだ。

 初めて飲むブラックは苦味が先行して味覚を刺激したが、意外と軽やかに飲めた。何より、気分が軽くなったように思えた。


「自分で考える…か。難しいなー…」


 志乃は顔を上げて遠い目で空を見つめる。―――今この瞬間は平和に過ごせているのに、自分が命を狙われているという事実…。そのギャップは未だに慣れない。組織に入るか入らないか……何か重大な決断を迫られているように思えてしまう。重大な決断というものを、自分は今までにしたことがあっただろうか。

 黒薙美雨…。彼女の素性はまだわからない。悪い子には見えないから、多分味方なんだろうけども。何より、味方というのは心強い。


「じゃあさ、そろそろ渡良瀬が魔女狩りに入った理由教えてよ」


「なんでそうなる」


 亮司は鳩が豆鉄砲を食ったかようにキョトンとする。


「参考にさせていただこうかと」


 志乃は妙に改まった口調でそう答える。すると、亮司はガバッと立ち上がり


「参考になんかならねぇよ。俺は俺。おまえはおまえ。他人の理由に首突っ込むのは野暮ってもんだぜ」


「そうかなぁ…。仲間なんだし、もうちょっとオープンにしてもらっても良いと思うんだけど」


 亮司は仲間。仲間内で秘密事をつくるのは良くないというのが志乃の考えだ。自分のことをほとんど話さない亮司だからなおさらだ。

 ……と、亮司がフッと志乃の方を向いた。


「おまえ…、俺が人を殺したって言ったらゾッとするか?」

「えっ…?」


 志乃は体がピタッと固くなった。亮司の口から人を殺した…と。


「予想通りの反応だ。普段何気なく接してるやつは殺人鬼…。もうちょっと気をつけた方がいいかもな」


 亮司がそう突き放すように言うと、志乃は顔に影を落として、拳に力を入れた。


「そんな…そうやって自分を遠ざけようとしないでよ!渡良瀬の過去に何があったのか、私にはまだわからないけど、渡良瀬が良い人だってことはわかってるから!」


 志乃は力強く声を届ける。亮司は志乃の言葉に頭を掻き


「…ったく、調子狂うぜ…」


 ボソッとそうぼやいた。



 ヒラヒラ…


 そこに、一匹の蝶が舞ってきた。一目見ただけで、志乃はその蝶の異様な美しさに見惚れた。蝶は黄色い線模様が付いている以外は黒に覆われていたが、その黒が美しさを際立たせていた。


「わ!すごくきれいな蝶!アゲハ蝶かな?」


 志乃が和んだ表情で蝶の動きを追っている最中、亮司はハッとした表情を浮かべていた。


『この蝶……どこかで見たことあるぞ』


 志乃が試しに人差し指を蝶に近付けると、蝶は志乃から離れある方向へ向かった。


「あ…」


 志乃が残念そうにしながら、離れていく蝶の方に目を向けると、そこに…一人の少女が立っていた。


「黒薙さん!?」


 志乃は驚いた表情を浮かべる。立っていたのは間違いなく黒薙美雨だった。

 だが、美雨の方も少なからず驚いている様子だった。


「如月さんを追ってここまで来たのだけれど……まさか、あなたがここにいるなんて」


 美雨の言葉は志乃ではなく、亮司に向けられたものだった。

 すると、舞っていた蝶が美雨の肩に止まり……なんと、サラサラと砂が舞うように消えてしまったのだ。


「蝶が消えた!?」


 志乃が一人驚いている横で、亮司は冷静な態度で志乃に告げる。


「あれはあいつの魔術でつくった蝶だ」


「あれ…?なんでそんなこと知ってるの?」


 亮司の言動に志乃は違和感を覚える。…と


「それは、以前わたしと会ったことがあるからよ」


 美雨が代わってその理由を述べたのだ。


「えっ……、ええっーー!?」


 志乃は驚きの声を辺りに響かせるのであった。


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