俺とアイツとあの子とそれから
割りと、軽い口ぶりだったように思う。やれやれだ、と言わんばかりの態度はびっくりするくらい普段と変わりない。教えてくれるにしたって、もう少しなんとかならないのかよ。
「カイト君、正確には一ヶ月ではありません。恐らく一月と……」
「……いや、いやいやいや。今重要なのはそこじゃねーだろ。は? 死ぬ? お前が?」
「らしい。俺も、まだ実感はないけどな。一応事情を説明すると、だな」
海斗は隣になっていた銀髪の女の子の肩を軽く叩くと、促すように俺の方へと視線を向けた。それに応じるように彼女が頷いて、って、おう、もう信頼関係築けてんのかすげーな。……いいなあ。
「私は、」
ぎゅ、と細い指に力が込められる。
「信じがたい話かもしれませんが、私は、こことは異なる場所から来たのです。そこはあなた達が言うところの…ソードアンドソーサリー、剣と魔法の世界、を想像してもらえば、大体良いと思います」
ここまでは、流石に俺も大体想像してた。というか、昔妄想してた。流石に現実になるとなんとも言いがたいし、まだ彼女が精神的になんか病んでるって可能性も捨てきれないが、一応は分かったと頷いておく。
「私はそこで生まれた精霊人形です、正式名称はない、のですが、一応個体判別名としてはユエ、と呼んでいただけたなら嬉しいです」
…なんか、用語が出てきたぞ。
彼女が言うには、精霊人形とは、精巧に作り上げた人形に、精霊を閉じ込めたものを言うそうだ。閉じ込めるとはいっても余程キツい魔法で縛らない限り、精霊も合意しなければ精霊人形にはならないんだとか。お互いに納得して、使い魔になる、そんな感じのものらしい。……あ、俺ちょっとこのあとの展開が読めてきた。
「なかでも火、水、風、土の四大属性に光と闇もを加えた、合計六つの属性には、それぞれを司る精霊王が存在するのですが、精霊王を用いた精霊人形の作成は、世界の魔法秩序を保つため、禁止されているのです。王様がいなくなると、困りますから。……けれど」
「なんか、俺にも想定できるぞ。つまりあれだな、その精霊王……ってので、精霊人形とか言うのを作った馬鹿が、しかも合意の上でなく魔法で縛り上げて作った馬鹿が現れたんだな?」
「……なんだ、勘が良いな」
「はっはっは、この手の展開は俺の十八番だ」
脳内の話だけど。残念なものを見る目で俺を見てるんじゃねーよ海斗。
美少女……ユエちゃんはぎゅっと一度唇を噛み締めると、俺の言葉に頷いて見せた。
「かく言う私も、その精霊人形にされかけた精霊王の、一人なのです」
言葉は、微かに震えていた。
「正確には、もう、人形としては成立してしまっています。ただ製作者に従う呪いを掛けられる前に逃げ出すことに成功した、と言うだけで」
「今、六人の精霊王のうちの四人、四大属性を司る者達の消失が、確認されています。闇を司る精霊王は、元々その所在を明らかにしていないので、なんとも言いがたいですが…恐らく四人は、もう……」
「私は世界の境界線を守る精霊でもあったので、どうにか穴をつくってとりあえず別の世界へと滑り込んだんです。穴から追っ手も来てしまったのは、予想外でしたが。そしてカイト君に会って」
「……ユエを追っていた奴らは、その“製作者”の手下らしい。この世界じゃ魔力ってものが皆無だから、どっちも魔法が使えず追いかけっこになってたんだと」
「……なるほど、まあ王様なんて重要そうなそざ、いじゃなく…重要そうな奴、を使って作った人形に逃げ出されたらそりゃ怒るわな。けどそれと、お前の人生のタイムリミットとはまだ繋がんねーんだけど」
「ああ、それはだな……」
ごほん、と咳払いをひとつすると、海斗は己のほほを指差した。顔を会わせたときから気になってた、黒い妙な模様がそこにはある。ツタとか、薔薇の茎とか、そんな感じの妙なマークだ。頬にあるそれは、下へとその茎を伸ばしていて、…そのまままっすぐに伸びていけば、心臓へとたどり着くような、気がする。
「どうやら俺、呪われたらしいんだ」
「……詳しく頼む。呪うったって、ここじゃ魔法は使えないんだろ?」
そう首をかしげた、その時だった。
「あら坊や……確かに魔力自体が絶えてるここで魔法は使えないけれど、でもあらかじめ魔力をためておいた魔道具なら、……また話は別なのよ?」
頭上から、声が降ってきた。