今此処で終幕
「ヒャハッハハ!!何がコロスだ!所詮、こんなモノカヨ。つまんねー」
(やっぱ、格が違いすぎる・・・・・でも、諦めるか。万事諦めざれば、道見えし・・・・だろ?誠也)
銭湯の崩れた壁から、瓦礫を両手で掻き分けながら、血だらけになった慎二は、立ち上がった。
「んだ?もう、終わりかよ!!」
「ま、だだァあああああああああああああああああああ!!」
皮膚が裂け、血が吹き出ている右手で左手首を握りしめ、右足で地面が砕けるまで踏み込み、数十m先で大鎌を右腕で回し続けて、挑発するシヴの懐へ飛び込んだ。
慎二は解っていた。今の自分は、まだ弱い。シヴの足元にすら及ばない、て事も。
しかし、一寸の揺らぎも感じず、左手首で激しく回転し続ける黒い正方形が複数繋がったブレスレットも慎二の心と同化している様に回転の速度を更に速め、左腕を包む様に存在し続ける影の刀も更に切れ味を高めた。
「ヒャッハ!!遅ェんだよ!!」
左手首を掴んでいる右手をシヴの胸元狙って、力いっぱい振り上げるが、ほんの少し体を後ろに下げただけでシヴは、刀の先端に当たる事すらなかった。
その結果、かすりもしなかった左腕の刀は、ただ大振りをし、大きな隙を作ってしまった。そこをシヴは逃さず、大鎌を持っている手は使えない為、右足で腹を突く様に慎二を蹴り飛ばした。
「ゲア!?」
まるでゴムボールの様に地面を跳ねながら、慎二はもう一度銭湯の壁に突っ込む事で動きが止まった。
「ち、くしょォ・・・・・」
あまりの激痛で上手く体を動かせず、フラフラと体を揺らしながら慎二はもう一度立ちあがった。
「まァだ、やんのかよ。ウザッテェ」
「何度でも立ち上がってやる、ぜ―――――――万事諦めざれば、道見えし、てなぁ!!」
「はァ?何馬鹿みたいな事言ってんだ?―――――――この世は全部が黒なんだよ!!お前はその中の黒。道なんてもうありゃァしねぇよ!!そうじゃねぇと、あの時の様に――――なぁ、六」
慎二がもう一度右手で左手首を掴みながら、飛びこもうとした瞬間、慎二の左頬を激しい金属音を鳴らしながら、何かが通り過ぎた。
その金属音は、そのまま風の様に突き進み、シヴの体を回転させながら、そのまま突き飛ばした。
「居合い・・・・・・嵐―――――――手首にほんの少しスナップを利かせ、ドリルの様に斬撃を飛ばす。切れ味もさほど無いし、出血もそんなにしない――――――けど、中々に効くだろう?」
「不可視の居合い、か―――――――本当ムカつくんだよ。六、お前はよぉ!!」
斬撃の威力が落ち、地面へと落されたシヴは、今までとは違う殺意しか籠っていない眼を六へとぶつけた。
「お前は俺が唯一人を殺す条件を犯した。1つ、俺の仲間を傷つけた。2つ、『あの時』の事を俺に喋った―――――――――お前は此処で殺す事にした、シヴ」
「あァ!?お前は何時でもそうだ!!お前は俺達とは違った!!いつも怨まず、憎まず、殺さず!そうやって綺麗事ばかり並べては、護り続けた―――――――だから、お前は弱いッ!!六ゥウウウウウウウウウウ!!」
叫びながら、右手に握られた大鎌を引き摺る様に地面を這わせると、その動きに沿って巨大な黒い波状の何かが地面を砕きながら六へと突き進んでいった。
「お前は、いつも何かを怨み、憎み、殺し続けてきたッ!!だから!だからァ―――――――だから、お前は弱いッ!!シヴゥうううううううううううううううううううう!!」
腰から見えない刀を引き抜くと、まるで空中を蛇が這い続けている様にゴムが伸びきった時に起きる様な音を鳴らしながら、地面を砕き進む黒い波状の何かにぶつかり、激しい爆音と共に同時に2つとも消え去った。
「力は潜在―――技は創造―――我が見せるは、最響の攻撃」
腰に右手を当てた瞬間、空間が歪む様に亀裂音を響かせながら、淡いピンク色の桜吹雪が描かれた鞘に鍔が無く、それどころか刃と柄が一枚の板の様に真っ直ぐの刀が、出現した。
「殺してやんよぉ!!力は遊戯―――技は道化―――我が見せるは、最恐の攻撃ィ!!」
両手で、大鎌を激しく回転させると、大鎌は粘土で形を変える様に、ゆっくりと大鎌が突きの出来る槍や切り崩す事の出来る矛や様々な使い方が出来る柄が長く湾曲していない刃が付いた棒へと変わった。
「「黒い筐(ブラックボックス―――×××!!」」
最後の言葉が慎二の耳に入る前に、六とシヴの全身から尋常ない程の何かが吹き出た。
じきにその何かは、形を成していき、六の背後には、無数の腕一本一本に刀の握られた赤い武士――シヴの背後には、両手が大鎌の黒い死神が出現し始めた。
しかし、慎二は、勝利の確信も死への恐怖も感じていなかった。ただその胸に秘められた思いは―――何かを失う、それだった。
『また、俺は失うのか――――次は何を失うんだ。傷付くのは俺だけでいい』
6に自分
『そうだよ。殺すとか殺さないとかどうでもいい』
4、5が無くて
『今俺がしなければいけない事は――――』
3が他人で
『今俺がやりたいと思っている事は―――――――』
2が家族
『1が友達!!そうだろ!!誠也ァ!!』
自分の右腕にかぶり付き、垂れてきた血をほんの少しだけ舌に絡め、口に含むと体が熱くなるのを感じた。
ほな、行こか―――――慎二
聞こえたか聞こえなかったかなんて慎二には、どうでもよかった。
『今、俺は―――――俺達は、戦っている!!今、此処で!!!』
何時カラダロウカ・・・・・僕ハ、『アノ子』ヲ護リタカッタ。
タダ、ソレダケナノニ――――――何デ、『アノ子』ガ傷付イテイルンダ。
幾ラ戦友ダカラッテ、僕ハ―――――オ前ヲ許サナイ。
コノ湧キ上ガル怒リヲ、憎シミヲ、悲シミヲ―――――全テ此処ニ!!
セメテコノ姿ヲ見テモ、泣カナイデネ、フェリ。
護ル戦イカラ、壊ス戦イニ―――――
僕ハ、白イ巨人。殺戮ノ王、最凶ノ巨人!!ポルックス!!!
燃え尽きル。この身体は、所詮ハ只の入れ物。
この世に未錬など無イ。だけど―――――『契約』しテしまったかラには、護らなケれば、この身が焼崩されヨうと、死して尚!!奴ノ喉笛に噛みつイてくレる。
私は、全てヲ喰い殺ス―――――人形(パペット
私ハ、拘束さレた人形。壊れた悪魔。最狂の人形!ジラエル!!
光りを失った青い目が鈍い赤色に光り輝き、燃え尽きた肉体が灰の中から蘇る不死鳥の様に再生を始め、腕を失った巨人は立ち上がり、一度は灰になった人形までも立ちあがった。
今まで青く光った目以外何もなかったのっぺらぼうの様なポルックスの顔の下側に亀裂が走り、鉄が砕ける鈍い音と共に、ポルックスは今まで隠していた五角形の牙が剥き出しの口が露わとなった。
「死ネば、死ねバ、シねば、死ネバシねばしねばシネバ―――――――死ねバいいノニ。シヴ」
狂気に満ちたその顔にある歪んだ口から放たれた言葉は、既に言葉と呼べる代物では無かった。
「ハ、ヒャハ?4対1か!?いいねぇ・・・・・サイッコー!!おら、来いよ。そろそろ終幕(フィナーレだ!!」