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俺は三カ月前、初めて友達を失った

「―――――言うた通りや。いけるか?」


「あ・・・・ああ。じゃあ、行くぞ、誠也」


「おうよ!」


自分の右手にかぶり付き、血を吸いながら、誠也は六に向かい走り始めた。


「何をするか・・・・分からんが、D。お前も――――――」


先程までDが立っていた所を六は眺めるが、そこには誰もいなかった。


(あんのヤロォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!)


「何処見てますん?ホラ、行くぜ」


余所見をした六の首元に向けて、獣となった右手を突きだした、が次の瞬間、野生の勘が起こさせたのか突きだした右手を止め、一気に後ろへと下がった。


「ホウ・・・・読めたか。中々だ」


(今のまま動いとったら、右手斬り下ろされとったな。アッブネエ)


「慎二。行くで」


「ああ。俺たちは生き残る――――」


「てな訳で、殺らせてもらいまさぁ」


両手、両足を獣と変え誠也は、もう一度六へと走り出した。


「もろた!!」


「・・・・貴様の腕をな!」


誠也の動きを読んでか六はすぐに居合いの構えと入っていた。


「――――読めてんで!」


ニイ、と笑いながら誠也は動きを止めない。


「なら、止めてみろ!!居合い――――桜ァあああああああああああ!!」


しかし、誠也の体には一切の切り傷が出来なかった。


「させ・・・・ねぇよ!」


そう、左手が刃になったままの慎二は、先程太刀を止めれた事実からもう一度止めれると確信していた。


「なるほど・・・・慎二は防御、誠也は攻撃・・・・いい陣営だ。だが、甘いな」


六はかすかな微笑みを見せると、力いっぱい腕を動かし、力づくで慎二を吹き飛ばした。


「!!慎二ィ!!」


「余所見は・・・禁物だろ?」


六は、そのまま誠也へと突きの構えで走り始めた。


「・・・・っせかよ!!」


次の瞬間、慎二の叫びと共に1つの黒い閃が見えたかと、思うと六の体が吹き飛ぶ。


『おおっと!!これまた凄いぞ!なんて事だ!新入りは素晴らしい黒い筐(ブラックボックスを持っている!!』


女性アナウンスの声は、慎二の耳には入っていなかった。


慎二は、体に蓄積する疲労を耐えながら、ただ荒々しい呼吸を繰り返しながら、自分の左手首で回転し続ける黒い正方形の輪を見つめ、膝をついていた。


「し・・・・慎二!凄いやないか」


その凄さに誠也が見とれていると、誠也は想像もしない現実を目にした。


苦笑の表情を見せていた慎二は、一瞬にして青ざめた表情へと変わり、黒い正方形の輪が回転し続けている左手首を腕ごと切り落とされ、胸部や腹部に無数の刃が突き刺さった。


「ガァ!?」


「少し・・・・・調子に乗り過ぎだ。お仕置きタイムだな」


意識を失い、ゆっくりとその場に倒れる慎二の背後には、さっきの慎二の攻撃が効いたのか息を切らし、肩から今にも剥がれ落ちそうな左腕を右手で抑えていた。


「慎二ィ!!」


その現実に一瞬戸惑いを感じたが、すぐに意識を六へと向けた。


僅かだが、生きている血の匂いがする。死臭も匂わない。まだ・・・慎二は死んでない。どうする、どうする。六には勝てへん。慎二の命も持つか分からん。だったら・・・・慎二連れて逃げるしかないやろ。


「浅はかな考えだな」


誠也が気付いた時には、既に自分の左胸にポッカリと複数の穴が開いていた。


「やって・・・・もうたわ」


「せめて、傍で一緒に死んでやれ」


六に蹴り飛ばされ、慎二の傍で誠也は意識を失った。


「あれ?終わっちゃった?」


すると、何処からか血だらけになったDが現れた。


「何処に行ってた・・・こっちは結構キツかったんだぞ」


「ありゃあ、慎二君。やられちゃったか」


「無視か――――もう1組を殺ってたのか?にしては、苦戦だったようだな。血だらけじゃないか」


「あ、これ返り血。本当最悪だよ」


「そうか。さて、さっさとゴールするぞ」


そだね、と返事をし、Dが歩き出すと、すぐ足もとのコンクリートに切り傷が出来た。


「まだ・・・生きてたか」


口に切り落とされた腕を持たせた慎二を咥えながら、血滾った目を向ける獣人――――誠也は、立っていた。


「ありゃあ、よくやるねぇ。あまり動かない方がいんじゃない?多量出血で死んじゃうよ?」


Dの言葉通り誠也が息を吐くたび、左胸の傷跡から血が何度も吹き出た。


「せめて・・・・・慎二だけでも助けてくれんか・・・頼む」


そんな苦しみに耐えながら誠也は、何度も求めた。


「たかが他人の為に―――」


「じゃあ、こうしよっか。君か慎二君どちらか助けてあげる」


「おい、D。人が話してるときに――――」


「どっちがいい?寅くん」


「そんなの――――考える間もない!」


(ほら、見ろ。やっぱり人なんて自分の事しか考えてないんだよ――――何がしたいんだ、D)


「俺より慎二を助けてくれ!!」


「!!―――――何でそこまでする。たかが数十分前に出会った奴だろ」


「せやけど・・・・・慎二は、俺の友達や。友達助けたい、って思って何が悪いんや」


「ふざけんなよ」


六の呟きが、誠也に聞こえたか分からないが、誠也の両腕が切り落とされた。


「ガアアアアアアアアアアアアア!!」


誠也の叫び声が響き渡り、口から吹き出る血が慎二へと飛び散った。


「まだ・・・・言えるのか?」


「あ・・・当たり前や!人間は何もかも失うと、何か1つは支えがいるんや。慎二は何もかも失って、此処に来た。だったら、俺が・・・・支えになってやるんや!!友達を・・・・護りたいと思った人を救いたいと思って何が悪い!1に友達、2に家族、3に他人で4、5無くて6俺や!!」


「馬鹿だな・・・・・どっちみち此処でお前が死ねば―――――」


「だったら、俺がゴールすりゃあええねん。1位とか2位だろうと、慎二が助かるなら俺は何でもするで」


「勝手にやってろ。行くぞ、D」


そう言い立ち去った六の表情は、何処か悲しそうに誠也には見えた。


『おおっと・・・・・ゴール目前に誰か見えるぞ?あれは・・・・・六、Dペアだああああああああああ!!』


女性アナウンスの言う通りゴールには、六とDが真っ先に帰ってきた。


「ほら、司会。ゲームは終わりだ。さっさと――――」


『あ、まだですよ。まだ1組残ってますよ』


「どういう事だよ」


『誠也、慎二ペアがまだ移動を続けてますので、ゲームは続行です』


「な―――――」


その言葉に今まで自分が歩いて来たコースへと目をやると、大量に血を零しながらゴールに着々と向かってくる獣人誠也が見えた。


何度も倒れそうにフラつくが、すぐに体制を整え、また歩き始める、それを何度も繰り返していた。


そして、やっとの思いでゴールに入った瞬間、慎二を口から離し、誠也は倒れた。


『これでゲーム終了おおおおおおおおおおおお!!では、2位の人はどちらか死んでもらいます!』


女性アナウンスが指を鳴らすと、慎二が倒れている所だけ地面が消え、ガクリと慎二が下へと落ちて行った。


しかし、途中で慎二の落下が停止した。


穴に落ちている慎二の服を誠也は、口で掴みながら、踏ん張り続けていた。


「させへんで・・・・殺すんやったら俺を殺せ」


踏ん張る度、左胸から血を噴き出す誠也に女性アナウンスから声が掛かった。


『すぐに離さないと、アナタも一緒に落としますよぉ』


女性アナウンスの声から殺意が込められ、苛立っている様だった。


『あー、もうめんどくさい。落ちちゃいなさい』


すると、誠也が踏ん張っていた場所の地面も消え、誠也の体がガクリと下へと落ちた。


「やるんやったら・・・・俺だけや!!」


その瞬間、口で咥えていた慎二をまだ地面が残っている場所に投げ飛ばした。


そして、誠也の姿が見えなくなると、地面がまた出現し、穴は塞がってしまった。


――それから3か月が経った。


ゲームが終わってからやっと目を覚ました慎二は、すぐに辺りを見渡した。


「おはよう。慎二君。あれか3か月ずっと眠ってたんだよ」


すると、すぐ傍に椅子に座りながら大量の本を机に積み上げたDがいた。


「ゲームは!誠也は!何で俺生きてんだ!切り落とされた左腕もある!何で!!誠也は!!」


「いきなり五月蠅いなぁ。いいよ、君が倒れてからの出来事を全部教えてあげるよ―――」


Dが全ての事情を説明し終えると、慎二はベッドの上で立ち上がった。


「ふざけんな!!じゃあ、何だ?俺が・・・・俺の所為で誠也は死んだのか!何で・・・・何で助けてくれなかったんだD!!」


胸ぐらを掴み、目に涙を溜めながら、慎二は何度も叫び続けた。


俺は、初めて友達を失った。

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