俺は今日初めてゲームに出る
監獄室No980371034553 高隆 慎二と表札が付けられた黒色の扉をゆっくりとDは開いた。
すると、慎二が想像していた部屋とはかけ離れたViPルームにも負けない室備が整った部屋が目に飛びこんだ。
「すげえ・・・・・こんなの俺の家より凄いじゃねぇか!」
「欲しいモノは何でも手に入るよ。あ、後いくら部屋だからってさっきみたいに襲われない、って訳じゃないから」
「え、セキュリティとか・・・・」
「ム所にある訳ないじゃん」
「お、おお。分かった」
「じゃあ、これからどうする?――――っと、言おうと思ったけど。少し待って」
「どういうこ――――」
すると、無駄に広い監獄内に女性の声が響き渡った。
『イヤッホウ~~~!みんな、元気ィ?いつも通り突然だけど、ゲームが始まっるよ~』
「ゲーム?何だよそれ」
『今回の参加者はァ・・・・・おっと、凄いカードだ!じゃあ、発表するね!無響 六、サウファール=D、大寅 誠也、白金、ソーフィ、そして、新人の高隆 慎二だ!』
そして、放送のマイクが切れる音が響き渡ると、監獄内が驚喜の声で響き渡った。
「慎二君。悪いんだけど、今から君に一切教える事が出来なくなる」
「は?どういう事だよ―――――それに、ゲームって」
「ゲーム説明があると、思うよ」
「だから!ゲームって何なんだよ!」
「これだけは覚えておいて。此処では、一度も目をそらさず、辛さに目を瞑らず、諦めない奴が生き残る」
すると、Dの体がフワリと浮いたかと思うと、空を切る音と共に何処かへ消えてしまった。
その数秒後、同様に慎二の体も消えてしまった。
次に意識が戻った時、目に映っていた世界は、今までとは違ったドーム型のガラスで覆った闘技場に立つ慎二達を、興奮し、血走った眼で見つめる観客達だった。
「お前が俺の相方かいな?」
その声に驚き、後ろを振り向くと、黄色いパーカーを着、犬歯を剥き出しにしている少年が笑いながら、慎二に手を振っていた。
「俺、大寅 誠也っつうねん。まァ、寅でええよ。え、と――――」
「あ、高隆 慎二だ。で、これは何なんだ?」
「何って・・・・ゲームやけど?俺らの命を賭けたゲームやねん」
「命を?―――――冗談は嫌いだぜ。俺」
「冗談やないよ。このゲームで負けた者は死ぬるお」
「犯罪者・・・・だからか?」
「なんや飲みこみ早いな。まァ、ゲーム内容はいつも違うんよ。シングルで殺し合いとか今日みたいにタッグで何か、みたいのがようあるで」
「で、俺とアン―――――寅がタッグという訳か」
「そやね。でも、今回はキツイで。何せ、イーターおるさかい」
「イー・・・・ター?」
「黒い筐(ブラックボックスを3つ以上所持し、戦争で英雄と呼ばれる程、人を殺した殺しのプロや」
「ま・・・・まあ、何とかなるだろ」
「やと、ええな。ま、恐怖で足が震える甘ちゃんには生き残れるか分からんかもな」
そう言いながら、笑い顔を見せる誠也に、慎二はつい心を許してしまった。
「お、ゲーム内容が分かるで」
すると、先程アナウンスをしていた女性が、闘技場の中央でチアガールの様なポップな服を着て、マイクをバトンの様に右手で回し続けていた。
そして、ピタリとマイクの回転を止めると、ゆっくりと口元に運んでいく。
「それでは!皆さま!お待たせいたしました!ゲームを始めます!」
その言葉に闘技場の外の観客は、あまりの喜びに騒ぎ立てた。
「では、今回のゲーム説明です。今回は、20㎞二人三脚をしてもらいます!タッグは、六、Dペア・誠也、慎二ペア・白金、ソーフィペアです!勿論、最下位は2人とも、2位はどちらかが死ぬ事になります!」
その説明を理解した慎二は、顔が青ざめ、改めて死への恐怖を感じた。
「何や?怖いんか?安心せえや。俺がおったら勝てるて。というか、本気で勝ちにいく!」
「では、レディ・・・・・・」
アナウンスの女性が、スタートを切る銃を宙に上げると、慎二を含め出場者の6人が一瞬にして、周りにビルや高速道路のあるレース場へと移動した。
「ゴー!!」
そして、スタートの銃音と共に、6人が走り出した。
「六、もう終わらせちゃっていいかい?」
六と呼ばれる男は、走りながら煙草に火を付け、ただ1回首を縦に振った。
「しゃあああああああおらあああああああああああああああ!!ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
次の瞬間、Dの体は、泥の様に一度溶け、大きな鳥へと姿を変えた。
鳥となったDは、背に煙草を吹かす六を乗せ、地を走る他の2組とは違い、一気にショートカットへと向かった。
「おい!あんなのありかよ!」
「黒い筐(ブラックボックスなら何でもありなんよう。ま、俺に任せな」
「お前にどうしろって・・・・」
「ちょいと、右手差し出してくんね?」
そう言われ、慎二は何をするのか分からないまま右手を差し出した。
「じゃ、ちょい頂きます」
すると、手の甲に誠也がかぶり付き、血を吸い始めた。
「・・・・・っと、ゴッソサン」
「おま・・・・何すんだよ」
「発動条件は、一定量の血を吸う事・・・・それが俺の黒い筐(ブラックボックス『野獣(ビースト』なんよ。じゃ、行きまっせ!!」
すると、誠也の姿が、徐々に人から虎へと変わった。
「ほれ、乗れや」
誠也の言われるまま背に乗ると、誠也は大きく飛び上がった。
「おい、D。少し洒落た猫が、来てるぞ」
背に乗っている六が、Dに危険を促した時には、遅かった。
虎の姿で飛び上がった誠也の姿は、虎から虎のボディをそのまま人間にした様な獣人となっていた。
「おら、貰った!!」
そのまま誠也は、獣と化した己の右手の爪を鳥となったDの右翼に突き刺し、そのまま地に落とした。
「―――――ッツウ!やってくれるね」
地に落ちたDは、その衝撃で元の人間へと戻っていた。
「ちょ、六。煙草吸ってないで手伝ってくんない?」
「別にいいが・・・・使うのは最低2つ、だぞ」
「いいよ」
Dからの許可を得た六は、火のついた煙草をその場に吐き捨て、凍てつく様な目で空にいる誠也と慎二を睨んだ。
「来るで・・・・慎二。構えや」
次の瞬間、六の体がブレたかと思うと、一瞬にして姿を消した。
「何処行った!」
「後ろや!慎二」
「良い鼻だ―――――だが、少しお痛が過ぎたな」
六は、ゆっくりと両手を腰に当てた。それはまるで、侍が居合い切りする様な構えだった。
「く・・・・させ―――――――んでッ!?」
誠也が右手を構えた瞬間、強い衝撃が誠也を襲い、慎二と共に地に落とした。
「まず、一匹・・・・・」
何時何をしたのかは分からないが、地に落ちた誠也の体は、左肩から右腰にかけて、大きく斬り傷が出来ていた。
「誠也!」
「何処を見ている、高隆 慎二。次は貴様だぞ?」
声が聞こえた時には既に遅かった。後ろを振り向いたその時、既に六は先程と同じ居合い切りの構えをしていた。
(やばい・・・・死ぬ。死ぬ?・・・・・・俺が死ぬのか)
「さよならだ、少年!」
「・・・・・・ざけんなよ、クソが」
次の瞬間、無意識に六に向けて左手を突きだした慎二の体は、一瞬にして消えた。
「な・・・・・・何処へ」
「貰ったァああああああああああああ!!」
慎二の声は、六の遥か後ろから聞こえた。
(一瞬で・・・・あそこまで。やるね。慎二君。さて、僕は、害虫駆除でもしようかな)
「敵の不意を突いたときに、大声で張り上げるとは・・・・・愚の骨頂!」
敵の座標さえ分かれば、後は何をされようが問題ない。俺の抜刀を舐めるのもいい加減にしろよ。
もう一度、居合い切りの構えをした時、慎二の左手に異変が起きた。
指の一本一本から黒い影の様な物が吹き出し始めていた。
「何を・・・するつもりだ、か分からんが。終わりだ!」
慎二の左手から吹き出る影は、ゆっくりと左腕に纏わり、左腕ごと影で出来た刃へと変えた。
「・・・・っつう、やってくれるやないけい―――――!!慎二!かわせ!」
「もう、遅い!居合い――」
次の瞬間、六は慎二の後ろに立っていた。
「・・・・桜」
そして、慎二も誠也と同じ様に、左肩から右腰にかけて斬り傷が出来、そこから血が噴水の様に吹き出た。
「・・・・生憎だが、相打ちだ」
その言葉の通り、六の右わき腹から、尋常ない程の血が吹き出ていた。
『おおっと!これは凄い!凄いぞ!』
それに合わせる様に空から女性アナウンスの声が響いた。
「・・・・見られてんのかよ、胸糞ワリイ」
「慎二、お前凄いなぁ。あのイーターの六相手にここまでやるなんて」
傷口を抑えながら、人に戻っていた誠也は、ゆっくりと立ち上がった。
「悪いが、D・・・・・・約束は破るぞ」
「まだ・・・・・やる気はあんのかよ」
「久しぶりだ。俺の居合いの速度に合わせるなんてな」
そう言いながら、六は、先程より更に凍てつく様な目を慎二に向けた。
「居合い――――」
そして、体をゆっくり左右に揺らし始めた。
「慎二!かわせェ!」
誠也の言葉が無ければ、慎二の体は縦に真っ二つだったろう。ギリギリのところで右へと飛びこみ、縦に振られる何かが通り過ぎた。
「ほう・・・今のもかわすか」
「やられっぱなしは性に合わねえ!!誠也、どうする」
「任せな。いい案があるさかい