俺は今日知らない世界へと入った
「・・・・・・何だい?そのあからさまな廚二病患者を見る目は」
「いや、そんなバカみたいなネーミングセンスが可哀想だな、って思っただけだが?」
「酷いなァ・・・・・あ、そうだ!君のニックネームを考えよう――――えーと、慎二だからシンちゃんでどうだ!」
「いや、勝手に決めるの止めてくれないか?」
「よし!じゃあ、此処の説明を始めよう!」
「人の話を聞けよ」
しかし、Dの耳には一切入らず、慎二の腕を引きずる様に監獄内を歩き始めた。
「まず、この監獄内で一番目立つ物が、あのビル!あれは、左の方から、自動飲食物製造建造物、自動空気循環機、自動断罪裁判機。後は、全部罪人の部屋だよ」
「だから―――――人の話を聞けってのッ!!」
慎二は、思い切り腕を振り、Dの腕を振り払った。
そして、力いっぱいDの目の前から走り去った。
「ありゃりゃー。行っちゃったか。仕方ないなァ―――――――――彼に死なれても困るから、行かなきゃな」
すると、Dの体が青白い炎に包まれると、同時にDの体が燃え尽きた。
「な・・・・・何なんだよ。アイツ!」
その頃、Dから走り去った慎二は、今何処を走っているのかも分からないまま、ある者から逃げていた。
「ギャハハハッハハ!黒い筐(ブラックボックスの使い方が分からねェって事は、お前新入りか!こりゃあ、カモだ!」
2mはあろう巨体の男が、足に装着された巨大なキャタピラで慎二を追いながら、無数の針がついた鉄球を幾つも慎二に投げつけていた。
「俺が・・・・一体何をした、っていうんだよ!アンタ!」
「何もしてねぇよ!けどな・・・・・俺が生き残る為には必要な事なんだよ―――――だから、死ねや!」
男が投げた鉄球は、慎二の体に直撃、という訳では無かったが、1つの針が慎二の右足を貫いた。
今まで味わったことのない激痛が体中に走り、今までした事のない死へのカウントダウンを慎二の頭の中では既に始まっていた。
『駄目だ・・・・・このままじゃ死ぬ・・・・・死ぬ?―――――俺は、死ぬのか』
体中を襲う激痛に耐えながら、慎二はゆっくりと男を睨みながら、立ち上がった。
「あァ?何だその目は!―――――ムカつく餓鬼だな!死ねや!」
そして、男が投げた鉄球は、完全に慎二に当たる軌道を通りながら、どんどん速度を増しながら、慎二に襲いかかった。
しかし、慎二は逃げなかった。逃げる所か左手を鉄球を受け止めるかの様に、突きだした。
「死ぬのは・・・・・お前だッ!!」
すると、左手首から黒色の大きな正方形が6つ、まるでブレスレットの様な形で出現してきた。
6つの正方形は、空気を切る音を発しながら、手首を左回りに高速で回転し始めた。
徐々に速度を上げていく正方形と共に、徐々に左手の掌から黒い球体が生まれ始めた。
黒い球体は、正方形が回転し続ける間、ずっと成長を続けていた。
黒い球体が、掌サイズにまで成長すると、正方形の回転がピタリと治まった。
次の瞬間、黒い球体は、巨大な光線へと変わり、鉄球はおろか男の腹部までも貫いた。
貫かれた鉄球は、飴の様にドロドロに溶け、男も同様にもはや原形が分からなくなるまでドロドロに溶け始めた。
「な・・・・・何なんだよ。これ―――――俺が、やったのか?」
「いいや、止めは俺がやったよ」
青白く光る激しい炎が慎二の目の前に現れたかと思うと、炎の中から逃げ切った筈のDが現れた。
「いやあ、いきなりどっか行っちゃうんだもん。ビックリしたよ―――――でも、まさかもう此処のルールに馴染むなんて・・・・・凄いね」
「何が凄いんだ!俺は命を狙われたんだぞ!俺は何もやってないのに、その男は生きるためだ、とかで俺を殺そうとしたんだぞ!」
「まァ、本当の事だよ。慎二君、此処に入る時、小さな黒い筐貰ったでしょ」
「あ、ああ・・・」
「あれは、ここでの君の命と考えてくれ」
「どういう事だよ」
「此処では、あの黒い筐・・・通称ブラックボックスが生きる為に必要なんだよ。ここで、死なない為にしなければいけない事。それは、殺されない事、黒い筐を壊されない事」
「な・・・でも、それでもあの訳分からない鉄球や俺の手から出た光線の意味は――――」
「それは、黒い筐(ブラックボックスの存在意義。だって、殺されたり、黒い筐を壊す為に戦うんだッたら明らかにさっきみたいな男が勝つでしょ?だから、黒い筐(ブラックボックスがあるんだよ」
「意味が分からねえよ!」
「黒い筐(ブラックボックスは、ある条件を満たす事で、そこに記録されている能力を発動する事が出来るんだよ。ただし、使用するにはデメリットがあるんだよ。例えば、炎を出す能力なら、炎を出す為の火種が条件で、デメリットは様々。そして、最も重要なのが、黒い筐(ブラックボックスに使用者が所持している事を認識させる事」
「つまり・・・・条件を満たしていても、自分に少しでも黒い筐(ブラックボックスが触れていないと、発動は出来ない。その代わり、相手に奪われ、条件を満たしていても使用者ではない為、使えない――――そういう事か」
「飲みこみ早いね。まァ、そういう事。能力によって条件、デメリットは大きく違う。まァ、中には特殊なモノもあるんだよ。でも、共通の条件が使用者が触れている事」
「・・・・・分かった。でも、何なんだよ。此処は」
「それは直に分かるから言わないでおくよ。さて、君の部屋を紹介するから、着いてきて」