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モト?

 私はその少女の靴の先から頭のてっぺんまでなめまわすように見つめた。

 姫としてあるまじきはしたない行為だけれど、今はそんな事を考えている余裕は私には無い。


 その少女は本当に本当に可愛かった。


 蜂蜜のように光沢のある金の髪、雪のように白い肌。

 薔薇色の頬にさくらんぼのような唇に華奢な体。

 私のように背も高く、どちらかと言えば大柄な体型とは違い、女の私が抱きしめても折れてしまいそうな細い体はまるでお人形のようだ。

 フリルやレースをふんだんに使った淡い色のドレスは私なんかが着たらきっと道化師のように見えてしまうのだろうけれど、彼女にはとても似合っていて、まさに御伽噺の中のお姫様のよう。


 そんなとても可愛い少女と私の目がバチリと会った。

 泉の水のように澄んだ瞳が私を見つめる。

 とたん、彼女はびくりと振るえ、大きな瞳を顔から零れ落ちそうなほど見開き、一方後ろへと下がった。

 そのか弱そうな様子は、何というかとても庇護欲を刺激されて、つい守ってあげたくなるような気が……


 って、あれ?もしかして私が怖がらせちゃった?


 睨んだりしたわけじゃないけれど、一心に見つめていたので驚かせてしまったのかしら。


 そんな彼女を私の視線から遮るように、私の視線の先にゼノン王子が割り込んできた。

 まるで、私から彼女を守るように。


 「彼女はサマリ、私の愛する女性です」

 「サマリ……?」

 その名を聞いて私は首をかしげた。

 サマリと言う名は聞き覚えがある。

 でも、まさか……

 「サマリ・クリプトン?」

 少女の方を覗き込むようにして問うと、彼女は頬を引きつらせながらコクリと頷いた。

 その瞬間、私は血が逆流するような錯覚に陥った。


 忘れはしないその名前。


 サマリ・クリプトン


 だって、だって彼女は!


 「あなたは確かク……クロム王子の婚約者のはずでは!?」

 私はクゥと言い掛けてクロム王子と慌てて言い直した。


 四年前クゥに婚約者が出来た。

 その婚約者の名前はサマリ・クリプトン。

 私はその報告を聞いて、本格的にクゥの事をあきらめる事にしたのだ。

 未練たらしくクゥの事を調べるのはやめて、もうクゥは過去の初恋の思い出にする事にしたのだ。


 それがなぜ?どうして?

 彼女がゼノン王子と結婚?


 私はとっさに国王の横に控えているクゥの方を向いた。

 すると、その瞬間、クゥと目が合った。

 彼はずっと私の方を見ていたのかもしれない。


 え?


 クゥは……突き刺さるような視線で私を睨みつけていた。


 どうして?


 なんで私は睨まれているの?


 クゥの瞳には8年前には見た事もなかった鋭さが宿っている。

 私は、背筋に冷たいものを感じ、彼から視線をそらした。

 心臓がバクバクと大きな音を立てて私の動揺を主張している。


 何ナノこの状況は?


 私は……


 「 元 婚約者です」

 力強いゼノン王子の言葉が耳に届いた。

 混乱していた私の頭にその言葉が入ってくるにはしばし時間が掛かる。


 「モト?」

 搾り出すようにしていった私の言葉にゼノン王子は大きく頷く。


 「ええ、今は私のものです」


 ゼノン王子の言葉に、私は呆然として彼を見つめる事しかできなかった。



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