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シルバー姫と森の魔女

 「セレお姉ちゃん、あっちでおままごとしよ」

 「セレ姉、この絵本読んで」

 「セレ姉ちゃん、俺、自分の名前書けるようになったんだよ、みてみて」


 私は一歩部屋に入ると小さな子供達に取り囲まれた。

 皆、曇りない瞳をきらきらと輝かせている。

 「はぁ~。癒されるわぁ~」

 私は癒しの中でささくれ立っていた心が穏やかになっていくのを感じていた。


 「セレン様は院長先生とお話がありますから遊ぶのはその後ですよ」

 「はーい先生」

 すみませんと謝られるのを気にしないでくださいと返しながら、私は始終心からの笑顔だった。





 ここは城下町にある孤児院。

 いろいろと縁あって私はここへ定期的に訪れて寄付をしている。


 「――と、いう訳でこちらにはもう来る事はできなくなりました」

 院長さんは私の言葉に目を丸くして驚いた後、目じりに皺を寄せ、満面の笑みも浮かべた。

 「それはそれは、ご結婚おめでとうございます」

 「……ありがとうございます」

 私としてはめでたくもなんとも無いのだが、とりあえずお礼の言葉を述べる。

 ここでこの結婚は望んでないといっても院長さんを心配させるだけだし。

 それは私の望む事ではないから。

 あれからいろいろごねてみたりしたのだけれど、結局私の結婚は決まってしまった。

 もう後はあれを暗殺するくらいしか手が残されていないわけだけど……

 さすがにそれはちょっとねぇ。

 リスクが大きすぎるわ。


 いや、リスクが無かったらやるかって言われたらそりゃ、やらな……リスクなしか……

 絶対に成功してこっちに何も負が無いのなら……

 いやいやいやいや、何を考えているの私!

 絶対に起こらないもしもの事を考えてもしょうがないものね、うん、この考えは忘れよう。

 私は気を取り直して院長さんと向き合った。


 「すみませんが、私からの寄付もこれで最後になります。どうぞお納めください」

 ちらりとリンに目配せをするとリンがお金の詰まった皮の袋を差し出した。

 もうこれで最後の寄付だからいつもより多めに入れておいた。

 この孤児院の訪問は私にとって癒しを提供してくれる貴重なものだった。

 王宮のどろどろした人間関係に触れた後、ここの子供達と遊んだり、勉強を教えたり、一緒に内職したりすると、とてもいい気分転換になるのよ。

 子供達は皆、素直で可愛いし、院長も子供達の世話をしている先生も朗らかでいい人たちだ。

 もう、ここに通う事もできず、子供達にも会えないと思うと切ない。


 「セレン様には本当に良くして頂きました。寄付だけではなく。自活できるようにと子供達でもできるような仕事を紹介していただいたり、裏庭の菜園を整える為に手を貸していただいたり……本当に本当に感謝してもし切れません」

 院長はそう言うと深々と頭を下げた。

 「どうか頭をお上げください。わずかですが、私がこの院で過ごさせていただいた時間は本当に楽しいものでした。子供達との交流は私に安らぎを与えてくれたのです。私のほうこそ、本当に感謝しています。今日は最後に皆とたくさん遊ぶつもりできたんですよ」

 そういって、院長に頭を上げさせた後、私は子供達の元へと足を運んだ。



 「セレおねーたん。これ読んでっ」

 そう言って差し出された絵本は有名な御伽噺の絵本だった。

 その題名を見たとき、私はしばし戸惑ったが、その絵本を受け取ると、読み聞かせをする事にした。


 「シルバー姫と森の魔女」

 わくわくとした気持ちを宿した幼い瞳が私を見つめている。

 そんな様子をほほえましく思いながらも、私は胸の奥がちりりと痛むのを感じた。


 「昔々、ある国にシルバー姫というお姫様がいました。シルバー姫は白い肌に薔薇色の頬、それに蜂蜜色の髪をもったとても美しいお姫様です。シルバー姫は姿が美しいだけでなく、心も美しいお姫様でした」


 身も心も、とても美しいお姫様シルバー姫。

 『僕は将来シルバー姫みたいなかわいい女の子と結婚するんだもん』

 あの日の言葉が生々しく私の中でよみがえった。

 シルバー姫は決して赤毛で体中擦り傷だらけでおてんばな女の子なんかではない。


 「シルバー姫のお城の近くの森には悪い魔女が住んでいました。魔女は姿も心も醜く、いつもシルバー姫の事を妬んでいました」


 シルバー姫とは反対な醜い魔女。

 彼女は自分が持っていない物を持っているシルバー姫を妬み憎んでいるの。

 ……私みたいにシルバー姫のようになりたいと無いものねだりをしていたのだ。


 「ある日、シルバー姫が隣の国の王子と結婚する事になりました」


 シルバー姫と結婚するのはとても賢く勇敢な王子様。

 美しくって性格も良いシルバー姫は皆から好かれている。

 もちろん王子様からも。


 「魔女は魔法を使って姫を森の奥へと隠し、姫に変装して王子様の元へといきました」


 姿を偽り、優しい姫を装って王子の元に行った魔女。

 けれども魔女はこの後王子に姿を見破られてしまう。


 姫に変装しても所詮魔女は魔女。

 変装は次第に解けていき、偽っていた性格もぼろが出てきてしまう。


 最後に王子は魔女を倒し、シルバー姫を森から助けて物語りはめでたしめでたしで終わる。


 絵本を読み終わった私は大きなため息を付いた。

 シルバー姫の話は結婚して「めでたしめでたし」で終わっている。

 けれど、シルバー姫で無い私には結婚で「めでたしめでたし」はやってくるのだろうか……。

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