説明していただけますか?
私は今、王の執務室で王と対面している。
ローレン公から結婚の話を聞かされた後、その足で王の所へと向かったのだ。
王と謁見の約束をしていなかったので、途中で兵士や側近達に止められたが、舌先三寸で丸め込んで突破してきた。
今の私を止めることは誰にも出来ないわよ。
「説明していただけますか?」
部屋に入り挨拶も主語もなしに出した私の言葉に王は戸惑うことなく答えた。
「あれが望んだからだ」
王の言うあれとは私の母の事だ。
「母が?」
私は顔をしかめた。
母がタンタル国との結婚を望んだのかしら?
いや、そうとは考えにくい。
では、母は何を望んだの?
母は私の結婚を望んだのだろうか?
いや、それも、うーん微妙。
「なぜ結婚なのです?しかもタンタル国」
「お前がこの間の交流会でタンタル国の王子に興味を持っている様子をあれがみかけたらしい」
「……」
とても嫌な予感がする。
私は自分のとった行動を後悔した。
ゼノン王子に近づくんじゃなかった!
「好きな人と結婚して幸せになってほしいというのがあれの願いだ」
なんてこと、まったくもって勘違いよ。
私はあんな王子好きじゃないわよ。
彼がクゥの兄じゃなかったら絶対に近づかなかったんだから。
私が好きなのなクゥなの!
……いいえ、違う違う。
好きだったのがクゥなのよ。
そう、昔好きだっただけで今は別に……そうそう、あくまで過去の事なのよ、うん。
別に今のクゥがどうこうって言うわけじゃなくてね……って、ううん、そんな事はどうでもいいの。
私は頭の中の考えを振り払うように頭を振った。
「まったくの勘違いです。私はゼノン王子と結婚したいなどとこれっぽっちも思っていません」
「そうか」
私の言葉に王はそっけない返事を返す。
「なので、今すぐ話を白紙に戻してください」
「そのつもりは無い」
「なぜです?」
「重要なのはわしがあれの願いをかなえてやるということだ。お前の気持ちなど知らぬ」
このくそじじいが……
私は心の中で悪態を付いた。
まるで当然だろうとでも言うその口ぶりに……本当にそれで当然と思っているのだろうこの男にイライラした気持ちが募る。
本当に母意外はどうでもいいのだこの男は。
最重要事項は母であり母が満足すればそれでよし、事実がどうであろうと関係ないのだ。
このまま王と交渉しても無駄なようね。
別な方向から攻めなくっちゃ。
私はターゲットを変えることにした。
それにしても……
「もし、貴方が愚王だったなら今すぐその首をはねてあげたものを」
私は今の気持ちをそのまま言葉に出した。
この男はこれでも王としては優秀で、今死んだら間違いなく国が荒れてしまう。
苦々しく言い放ったのだが、王は私の言葉を聞いて今までと打って変わって楽しそうな顔をした。
「もし、お前が男だったのなら、間違いなくわしのあとを継がせたものを」
何の冗談よ。
私はたとえ男だったとしても王になんてなりたくありませんからね。
「男だったら今の年まで無事に育ったかどうか怪しいですよ。王が一心に愛を注いでいる寵姫の一人息子だなんて、成人する前に周りに事故死か病死をさせられるに違いありません」
もしこの年まで生き延びる事ができても、私を王にしようと画策する派閥とかが出来そうで嫌だ。
ある意味女でよかったわ。
「周りのやつらは分かっていないな。わしはあれの子どもだからといって優遇はせぬのに」
「ええ、まったくもってその通りですね」
淡々と言う王に私も淡々と言葉を返した。
喩え私が男だったとしても本当に優遇しないのだろう。
なにせこの男はあの後宮に私を放っておいた男。
母の子どもだからと優遇された記憶が無い。
この男が私に目をかけだしたのは私が自らこの男との接触を図ってからだ。
「本当にお前はあれに似ておらぬな」
「あなたの血が強すぎるのですよ。でも、本当にここまであなたに似なくてもよかったのに」
私は自分と同じ色の瞳を睨みつけながら言った。
「あれに似ていたのなら少しはかわいがったものを……おしかったな」
この男は、今の言葉を冗談ではなく本気で言っている。
実の娘にこんな言葉をいうなんて!
なにが「おしかったな」よ!
私だって好きでこんな容姿に生まれたわけではないんですからね!
私は腹が立って一瞬、王の暗殺計画を本気で考えた。
「無駄な事を考えるな。どうせ上手くいかないぞ」
私の心を見透かしたように王はいう。
なによ!なによ!なによ!
そのなんでも分かっていますと言う態度が気に入らないわ!
私は、今まで以上に怒りを募らせた瞳で王を睨んだのだった。