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嫌なものは嫌なんです

 昔、私の父である現国王は『炎の王子』と呼ばれていたらしい。

 幼い頃から賢く神童と呼ばれていたのを初めとし、他の兄弟達よりずば抜けた政治の手腕に剣や乗馬などの腕前は人々をひきつけ、そのカリスマ性はものすごいものだったそうよ。

 その勢いはまるで燃え上がる炎のよう……うっかり剣を向けようものなら全てを焼き尽くされてしまうと喩えられて、『炎の王子』と呼ばれたのだとか。

 もっとましな呼び名は無かったのかしらね。

 誰よこんなの考えたの。

 本当にセンス悪いわ。



 私の母親は側室の一人なのだけれど、もと正妃の侍女だったのを王が手をつけちゃって、私が出来たから側室に向かえいれられたわけ。

 正妃に使えられるくらいだから一応貴族の身分ではある。

 だから、国王の側室になれない事もないんだけれど、正妃としては自分に仕えていたものに王の寵愛が移るのが面白いはずがない。

 しかも、とりあえず子どもができたから後宮に放り込んでおいてそのままにしてくれればいいものを、王は何をとち狂ったのか、母に惚れ込んでしまって正妃やその他もろもろの側室達をまったく相手にしなくなってしまった。

 私が生まれた直後はまだ生まれたばかりの子どもかわいさに母を寵愛していると思われてて、そのうち正妃や他の側室達の元に戻るかと思われた王は私が生まれて何年経とうとも母一筋だった。

 そんな状態で母が恨まれないわけが無い。

 なんだかんだで後宮が荒れだしたのは私が5歳くらいの頃で一番大荒れに荒れたのが私が10歳前後だろうか。

 母は、よく言えば繊細、悪く言えば精神的に弱い人でそんな後宮の空気に耐えられないような人。

 でも、王は母を愛していたから全力で母の事は守った。

 後宮とは別の場所に母の部屋を移したりして守った。

 母の事は……。

 ええ、母だけね、私の事は乳母に任せてそれっきり。

 王にとって私は母の付属品で守る価値のあるものじゃなかったのよね。

 せめて後宮から隔離してくれればよかったのに、後宮内に放っておかれたものだからこっちはたまったもんじゃなかったわよ。

 幼い身に母に対しての恨みを代わりに受けることになった。


 物心付いた頃から嫌がらせや陰口は酷かったのだけれど、10歳の頃、正妃の息子……私の異母兄に命を狙われた。

 それを機に、私は周りの私の『敵』だと思ったものに徹底的に反撃する事にした。

 遠縁だった、当時宰相に成り立てだったローレン公を半ば無理やり私の後見人にして、王にも母を通じていろいろと権力等を……まあ使えるようにしてもらい……とりあえず一年ほどで後宮それなりに収める事に成功したの。

 それを見て、それまで私を放って置いた王が私に興味を持ったのか、いろいろな事を学ばせてくれたり、国にとって有力な貴族等に会わせてくれる機会をくれた。

 その様子と、王に似た私の容姿を見て、「セレン姫は炎の王子に瓜二つ」「もし、男子であったなら次の国王に間違いなかった」なんて噂が流れたおかげで『炎のセレン姫』なんてありがたくも無い呼び名がいつの間にか付いていたのよ。


 嬉しくない呼び名だけれども、王位継承権からものすごく遠く、身分のそれほど高くない母親から生まれた私にとって、その噂と呼び名はいい威嚇になるというか、「居心地のいい場所を作る」のに役立つから利用させてもらっているんだけどね。

 だから、人前に出るときはなるべく『炎のセレン姫』のイメージを崩さないように振舞っているんだけれど……






 「結婚……ですか」

 ローレン公を前に私は必死に動揺を隠していた。

 私も一応この国の姫、姫の務めとして他国との政略結婚くらいは覚悟していた。

 だから今まで結婚の話が出ていなかったのに、急に結婚の話が出てもそれほど驚く事ではない。

 ましてや『炎のセレン姫が』この程度の事でうろたえるなんて事あるはずが無い。

 ……はずが無いのだが、実際の私は心の中でうろたえていた。

 「それで相手が……」

 私は周りに悟られないように落ち着いた余裕のある声でいう。

 「タンタル国のゼノン王子ですって?」

 自分で言いながら、その単語の意味が信じられない。

 「タンタル国と言えば、我が国とも割りと国交があって温泉が有名なあのタンタル国ですよね」

 私が10歳の頃に過ごしたあの国。

 「ゼノン王子は第一王子であって第一王位継承者でそして……クロム王子という弟君がいるあのゼノン王子ですよね」

 クロム王子……クゥ……。

 ローレン公は当たり前だと言うように頷いた。

 「おことわりします!」

 私は叫ぶように言った。

 ええい、周りなんか気にするか!

 これで落ち着いて居ろっていうほうが無理なのよ。

 急に豹変した私の態度にローレン公は目を丸くして驚いた。

 「なぜ!?どうしてです!?」

 「どうしてもです。嫌なものは嫌なんです」

 「しかし、王がもう返事を出して……」

 「リン、そこに控えていますか?今すぐキセノン伯爵と連絡を取り彼の私軍を出させなさい。「この間の借りを返してもらう」と言えば断られないでしょう」

 「御意」

 私はローレン公の言葉を遮ってリンに命令をした。

 リンもそれに応えるため、動こうとし、私も出来るだけ手を打つため彼の前から去ろうとしたのだが、私たちの動きは次の彼の言葉で封じられる事になる。

 「待ちなさいセレン姫!もう遅いのです。この話は我が国からタンタル国に持ちかけた縁談であって、タンタル国がこれを了承しそれについての返事を出したのです」

 「なんですって!?」

 私は驚きの声を上げた。

 まったくの予想外だ。

 うちの国から私を嫁がせる事によって何の利益が出るというのだろう?

 いや、それよりも……

 「王が私をタンタル国に嫁がせようと計画していたなんて私はまったく知りません。私の情報網にまったく引っ掛かりませんでした」

 自惚れるつもりはないが、こんな大きな計画が私の耳に入らなかったことが不思議だった。

 私はこの国に私独自の情報網を持っている。

 特に城の中での出来事なんて注意して情報を集めている。

 それなのに、王がタンタル国に使者を送ったという事すら知らなかった。

 「姫、貴方がすばらしい目と耳をお持ちであることは知っておりますが、王はその上を行く駒をいくつも持っているのですよ」

 ローレン公は静かに諭すように言う。

 王との実力差など比べ物にならないことはわかっていたはずなのに、私は悔しさが沸いてきた。

 「私にわざわざ秘密にして事を進めるなんて王は何を考えているのですか」

 声が少しとげとげしくなってしまった。


 こんな大事な事は決める前に一言言ってくれれば良いのに。

 所詮私は王の手駒の一人。

 駒の意見なんかは聞く必要ないって事?

 それとも他に何か考えがあるの?


 「本当になぜタンタル国なのですか?あの国から我が国へ政略結婚を申し込むならともかく……目的は何です?あの国の特産物と言えば温泉と……鉱山ですか?しかし、あの国の鉱物は質はまあまあ取れる量もまあまあで、今現在の状況で我が国との鉱物をめぐっての取引はそれなりにうまくいっていたと思うのですが」


 この国にとってタンタル国からの鉱物の輸入はそんなに重要ではないはず。


 「それとも、領土拡大でも考えているのですか?馬鹿馬鹿しい。あれはそんなに愚王ではないと思っていたのですけれど」

 王をあれ呼ばわりしたのだけれど、ローレン公まったく気にせずにこう言った。

 「いいえ、王はセレン姫のための結婚だと申しておりました」

 はぁ?私のための結婚?笑わせないでほしい。

 何が悲しくて失恋相手の兄に嫁がなくちゃいけないのよ。

 クゥが義弟になったら会う機会も増えちゃうだろうし。

 八年前とはいえ、あんな事のあった後で私にどうしろと……。


 私は自分の未来を考え気分が重くなった。

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