ごきげんいかがです?
結婚式の日取りが決まったらしい。
後六日後には式らしい。
当初の予定よりいささかズレはあるものの、ほぼ予定通りに事を進めるらしい。
まあ、式を挙げるのなら参列客なんかを他国から呼んじゃっているわけだからあんまり大きく変えることはできないのよね。
私とゼノン王子の式に出る予定で御呼ばれした近隣諸国の皆々様は、もうこの国へきちゃっているだろうし。
客人としてこの王宮に滞在している人とかもいるはず。
で、今現在私は王妃様主催のお花見に出席している。
このお花見、御呼ばれしたのは私の式に呼ばれている女性のお客様とこの国の貴族の淑女やお嬢様方。
これってあれよね、早めに現地入りしたお客様を退屈させず息抜きをさせ、なおかつ人々の交 流の場をもって有意義な時間を過ごせるようにというホスト国としての御もてなし。
将来私もこういうことをしなくちゃいけないんだろうなぁ。
王妃様の様子を今のうちにしっかり見て勉強しておこう。
会場は王宮の中庭の一角で庭には庭師の方々が丹精こめて世話をしているのだろう花々が見事 に咲き誇っていて、いくつかの椅子やお菓子や飲み物なんかがまとめられたテーブルが用意され て入るけれど、基本立食パーティーのようになっている。
お花を愛でながらお茶をして女同士の親交を深めましょうと言うわけなのよね。
あっちこっちでグループが出来ていて、わいわいオホホホホと話に花を咲かせている。
私はそんな様子の会場を一通り見渡した。
私が気になるのか何人かがちらちらと視線を送ってくる。
ついさっきまでお話していた王妃様が所要で席を外されたので一人になってしまったのだけれど、積極的に話しかけてくる人はまだいない。
さて、どうしようかしら。
実は私、この中に知り合いは一人としていない。
ここに居るのが殆どはこの国の貴族の女性とこの近隣の国の使節の人々。
私も自国の近隣国の重鎮とかだったら顔見知りや知り合いが居るのだけれど、さすがにこっちの方の人にはあまり面識がない。
せっかくだからいろいろな人と知り合いになっておこうかしらと、私はいろいろなグループを渡り歩いてみる事にした。
私はそれから有意義な時間を過ごしていた。
なるべくいろいろな人と話すようにしたから、今まで名前しか知らなかったような人たちとも知り合いになれたし、久々に言葉遊びが出来て楽しかったわ。
それにしても皆、私の結婚相手が急に変わった事に興味津々で話題は殆どがその事ばかり。
いろいろ探りを入れられるけれど、あまり話せることはないのよねー。
次は誰と話してみようかしらとうろうろしていると、サマリ嬢の姿を見つけた。
今まで気がつかなかったけれど、彼女もこの会に来ていたのね。
彼女は庭の端っこの方で私たちと同じ年頃の5,6人の女性たちと話をしているようだ。
でも、気のせいか彼女の顔色はこの間の食事会のときのように悪く、硬くこわばっているよう に見える。
お友達と仲良く歓談しているわけではなさそうね。
私はそっと彼女たちに近づいていてみることにした。
「ほほえましいですわねその格好。子どもが精一杯大人のふりをしているようで」
「本当ですわ。サマリ様はいつも、かわいらし~くしていらっしゃったから、今日の格好は……ふふふ」
「もう少し体のラインが大人っぽくあれば……失礼、おうとつの少ない体もサマリ様らしくて可愛いですわよ。ホホホホホ」
おお、これはあれね、よくある女同士の嫌味の応戦合戦ね。
いや、ちょっと違うかな。
私だったらこんなことを言われたら嫌味の一つや二つや三つや四つ返すんだけれどサマリ嬢は口を固く結んだまま俯いている。
あえて何も言い返さず相手を無視すると言う応戦方法もあるけれど、彼女の場合、ただ単に言い返せないだけみたい。
ぜんぜん合戦になっていないわ。
今日のサマリ嬢の格好は、フリルやレースのたくさんついたドレスではなく、首周りが開いていて、胸や腰周りのラインが綺麗に見えるシンプルなデザインのものだ。
前に会った時よりも彼女を大人っぽく見せている。
決して似合っていないわけじゃないし、このドレスを誰が選んだかは知らないけれど、センスは悪くない。
貶されるようなものじゃないんだから、堂々と胸をはっていればいいのに。
「ご自身の体のことをもっとお知りになったほうがよろしいんではなくて?」
サマリ嬢を取り囲んで彼女たちはくすくすと笑っている。
「まあ、サマリ様が身の程知らずなのは昔からですものね」
「そうそう、特にゼノン様との事など……」
「セレン姫様ならまだしも、あなたなんかがゼノン様と釣り合うとお思いになって?」
「あなたにはクロム殿下で我慢していらしていればよかったのに」
この言葉に私はぴくりと眉を引きつらせた。
は?
クゥで我慢ですって?
クゥは我慢して結婚するような相手だって言うの!
ちょっと!この女、クゥを侮辱したわね。
許すまじ!
私の心に怒りの炎がボッと燃えた。
別にサマリ嬢に嫌味を言ったり突っかかったりするのはどうでも良いわ。
止めないし、喧嘩でも何でも好きにやってちょうだい。
でもね、クゥを侮辱する事は許さないんだから!
「サマリ様ごきげんいかがです?」
私は優雅に愚者たちの輪の中に突入した。