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今日は一緒に食事をします

 「なんでサマリ様のフォローをしたんですか?」

 部屋に帰って一息ついてから、サマリ嬢との会食の様子をリンに話すと、こう突っ込まれた。

 「……わかりません」

 本当に分からないのよねー。

 別にあそこまで私がフォローする必要は無かったはずなんだけれどな。

 何というか、成り行き?


 サマリ嬢。

 その存在を知ったのは四年前、クゥの婚約者になったという情報で彼女の存在を知った。

 その時、彼女自身のことは調べなかったのだけれど、私の中ではなんとなく御伽噺の中のシルバー姫様のイメージがぼんやりと浮かんでいた。

 一昨日はじめて会った彼女は外見はまさにシルバー姫だった。

 クゥが結婚したいと言ったシルバー姫……。

 八年前、クゥはすでに彼女と結婚するつもりだったのかもしれない。

 だからあの時、シルバー姫みたいな女の子と結婚すると言ったのかも。


 彼女をどうしたいのか自分でもよく分からないわ。

 昼食を食べるまでは彼女と決戦だとか思っていたはず。


 テーブルマナーや身のこなしとか、服のセンス、最低口先だけでもいい、彼女に何かで勝ったと思いたかった。


 四年間、私の望む場所にいた彼女。

 私は、あの子に私の方がクゥの隣にふさわしいのだという事を認めさせたかった。


 クゥにふさわしい……。


 ここまで考えて、私は自嘲的な笑いがこみ上げてきた。

 クゥにはふさわしいって何よ。

 私は自分が王妃にはふさわしいと自信を持っていえる。

 けれど、クゥの隣にはふさわしくないかもしれない。

 クゥの隣にふさわしいのは、薔薇園で見たような笑顔をクゥに浮かばせる事のできる人よ。


 薔薇……。


 あれ?何かを忘れているような……


 「ああ!!」

 「どうしました?」

 急に上げた私の叫び声にリンは静かな声で聞き返した。

 「薔薇のお礼を言うのを忘れてました」

 私としたことが、サマリ嬢自身に気を取られすぎて、薔薇をもらったお礼をいってなかったわ。

 次にあったとき……は、もう、タイミング的に遅いわよね。

 どうしようかしら……まあ、なにか機会があったらお礼をしましょう。


 「ところで、姫様、今晩も王族の方から会食の申し込みがありますがどうしますか?」

 「今日は一緒に食事をします」

 「了解しました」


 夜のドレスはどうしようかしら。






 目の前には豪華な食事と近々家族となる人たち。

 メンバーは、国王に王妃様、ゼノン王子、そうしてクゥ。


 食事中の会話は王妃様が中心となって話題を提供して、一応表面上はそれなりに盛り上がりを見せてはいるのだけど……


 なんか気まずいのよね。

 だいたい、私としては、元婚約者……あれ?婚約もしてなかったんだっけ?まあ、いいわ、元結婚予定者のゼノン王子と現結婚予定者のクゥのこの二人と一緒に席についているっていうのが何だか気まずい。

 ゼノン王子とは今更何を話していいのか分からないし、そもそも話したいことがないというか、王子自身にあまり興味がない。

 反対にクゥはいろいろと話したいことがあるけれど、何から話していいのか分からないし、できれば二人っきりで話せるようなところで話したい。


 なので、この場で話す事と言えば、本当に当たり障りのないありきたりの話ばかり。


 出来ればこの後、クゥと二人で話がしたいわ。

 どこかで二人きりで。


 私は食事の途中から、ほとんどこの後どうやってクゥに話しかけようかと、そればかりを考えていた。


 



 さて、食事も終わり、それぞれが部屋へと引き上げていく。

 この時を待っていたわ。

 今こそクゥに話しかけるチャンス!


 「ク……」

 「セレン姫」

 クゥに話しかけようとした、まさにその時。

 私はゼノン王子に話しかけられた。


 ちょっと!邪魔しないでよー!


 「何でしょうか?ゼノン王子」

 早くどっか行ってよ。

 と、思いつつも、そんな事おくびにも出さず私はゼノン王子に向き合う。

 ここで本心を出してしまうほど私は非常識な人間じゃないのよ。


 そこには、王子として完璧な笑顔をたたえたゼノン王子がいた。

 そう言えば、うちの国の交流会でもこんな笑顔をしていたわね。


 笑顔の下で何を考えているんだか。


 「今日は月が綺麗です。もしよろしければ、我が王宮自慢の薔薇園にでも散歩に……」


 薔薇園って、あの王妃様に連れて行ってもらった薔薇園かしら?


 って、ちょっと、何で隣に並んでるのよ。

 しかも、さりげなく人の腰に手を回してエスコートしようとしてるし。


 私はわざと相手にわかるように腰に回された手を払い落とした。


 冗談じゃないわ。

 誰があなたなんかと夜の散歩なんてするものですか!

 そういうのはサマリ嬢でもさそってください。

 私は間に合ってますー。

 だいたい、弟の結婚相手を夜の散歩に誘うなんて非常識すぎるわよ。


 と、まあ、心の中ではごちゃごちゃ思っているのだけれど、これを実際に声に出して言う分けにも行かず、私は軽く笑みを浮かべながら、嫌味なほど、とても丁寧に散歩をお断りした。


 そんなこんなをしているうちに、ああ、クゥが行っちゃった。

 ばかばかばかっゼノン王子のばかぁ!

 せっかくのチャンスがぁ。


 まったく、一昨日きやがれってものよ。


 「ではせめて、お部屋まで送らせてください」


 何よそれ。

 ついてくるなーばかー。

 心の中でさらに悪態をつきつつも、やはりそんな事をいう事もできず、私はとりあえずそれを了承した。


 ああ、心が荒むわ。




 廊下を二人でとぼとぼと歩きながらゼノン王子が話しかけてくる。


 「セレン姫、あなたとは一度じっくりとお話したかったのですよ」

 「そう……ですか」


 私は別に話したくはない。

 話すこともない。

 そりゃあ、もしも結婚するんだったら話したいこともいっぱいあったのだけれどね。

 「まずはもう一度、この度の事で謝罪を」

 「……」

 歩きながらだけれど頭を下げられて、私はそれを冷い視線で見つめた。

 「せめて……この国に来る前に……」

 もう少し早くゼノン王子が私と結婚できないと意思表示をしてくれたなら、私はこの国にこなくて済んだのかもしれない。

 どうして今更。

 私は、彼に対して罵詈雑言を吐きそうになったがそれを飲み込んだ。

 「姫?」

 私の様子を不審に思ったのか顔を覗き込むようにゼノン王子が私の肩に手を触れてきたのだけれど、私はその手から逃れると軽く頭を横に振った。

 「いえ、何でもありません」


 ゼノン王子と話しながら、部屋に送ってもらっているとふと気がついた。

 あれ?会食に向かうときにこんな廊下は通らなかったはず。

 この国に来てほとんど部屋に篭りっきりだったから城内の道なんて分からないし、覚えていないのだけれど、先ほど会食の会場に向かう時の廊下はこんな感じじゃなかった。


 「あの、お部屋への道はこちらではないのでは?」

 もしかして、この道が近道なのかな?

 なんて思いつつも私は尋ねてみた。

 「大丈夫、ちゃんと無事に送り届けますから」

 ゼノン王子は胡散臭いさわやかな笑顔でそう答えた。


 部屋への道じゃないと言う事を否定しないんだ。

 へー

 ふーん

 何考えてるのこの王子様。


 「ところでセレン姫。我が国は大国のアルゴン国と比べてだいぶ違って驚かれたのではないですか?」

 ??どういう意味?

 

 「大国と呼ばれるほどのものではありませんわ」

 言葉の意図がいまいち分からなかったので、とりあえず、私は「大国」と言うところを否定しておいた。

 うちの国はそんなに大きくないわよ。


 「ご謙遜を……確かに、大国であるキイナ国やカント国比べればたいていの国は小国ですが我が国から見ればアルゴン国は比べようもないほどの大国ですよ」

 私の言葉にゼノン王子は少しおどけたような大きなしぐさで答えた。


 まあ、この国から比べたらうちの国は大きいかもしれない。

 国土も経済面でも確実にうちの方が上だし。


 「そんな小国にアルゴン国から姫との結婚の申し出があったときは驚きました」

 うん、まあ、そりゃ驚くわよね。

 私もいろんな意味で驚いたし。

 「……国王が決めた事ですので」

 「では、国王はなぜこのような国に?」

 「さあ?王の考えは私には分かりかねます」

 まさか、私の母の願いをかなえるためです。しかも、全ては母の勘違いなんです。と、答えるわけにもいかず、適当に言葉を濁すと、私はついとゼノン王子から視線をそらした。


 「では、あなたは何を思ってこの国へ嫁いでくるのでしょうか?炎のセレン姫」

 "炎のセレン姫"と言う言葉に、思わず彼の方に振り向くと、そこにはやけに真剣な目をしたゼノン王子がいた。



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