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切なくなってきたのです


 「で、姫様、話を聞く限り姫様はクロム様の笑顔を見て幸せの絶頂にいたと思われるのですが、どうして落ち込んでいるのですか?」

 ベッドの端っこでひざを抱えて座っている私にそういったのは、城下町から帰ってき私の話を聞いたリンだった。

 「だって、クゥの笑顔はステキでしたけれど、あの笑顔が私に向けられたものではないと思うと、切なくなってきたのです」

 「鈍っ!鈍いです姫様。今頃落ち込んでるんですか?普通、好きな人が元婚約者と逢引している場面を見たら即座に『私と言うものがありながら浮気なんて最低よー!』と叫びながら往復びんたを喰らわせるくらい、するものですよ」

 「それは普通ではないと思います」

 往復びんたは普通ではないと思うけれど、鈍いという所は否定の仕様が無い。

 あの時は、クゥの笑顔しか見えていなかったのよね。

 だって、だって、本当にステキだったのだもの。

 でも……。

 私は大きなため息を一つ付いた。


 「たぶん、結婚したら、毎日こんな感じになるんだと思います」


 クゥの近くで過ごすとそれだけクゥが人に笑顔を向ける場面に出会うだろう。

 その度にこうやって喜んだり落ち込んだりするんだわきっと。


 「姫様は一度クロム様とじっくり話し合った方がいいと思いますよ。ついでに悩殺して自分のものにすればいいと思いますよ」

 「話し合う……」

 真面目な顔をして言ったリンの言葉の後半をわざと聞き流すと私は呟いた。

 クゥと話をする……。

 昔のように楽しく話が出来るだろうか?


 「だいたい、姫様は昔だって嫌われていたわけじゃないんですよ。人は変わるものです。今の姫様だったらクロム様も結婚相手に選んでもいいと思うかもしれないじゃないですか」

 そうだろうか?

 いやいや、そんな都合のいいことが起こっているわけが無いわよ。

 「それに、姫様は昔の事を大変気にしておりますが、当のクロム様は覚えていないかもしれませんよ」

 「え?」

 私はリンの言葉に唖然とした。

 クゥが私のことを覚えてないかもしれない?

 そんな事ありえるの?

 「姫様にとっては初恋の相手でついでに初プロポーズして盛大に振られたという相手ですが、クロム様にとっては8年前の数ヶ月を一緒に遊んだだけの友人ですからね。最後にちょっと告白されましたが、第二王子のクロム様にとって求婚や恋の駆け引きなんてその後たくさんあったでしょうから、姫様の事は大して記憶に残っていませんよ」

 「そんな事はありません!きっとクゥは私のことを覚えています!」

 根拠の無い私の反論にリンはにこりと微笑んで言った。

 「では、姫様は今まで下心を持って近づいてきた男たちを全部覚えていますか?」

 彼女の言葉に私はぐっと声を詰まらせた。

 私は別に箱入りのお姫様ではなかったし、積極的に人脈を広げていたので、今までにさまざまな男性と知り合う機会があった。

 その中で、私の王族という身分につられて、おおっぴらに私に求婚する者やこっそり愛を囁く者、大人の関係を求める者などがいたけれど、そいつらの事なんて、いちいち覚えてなんていない。

 末端の姫の私にでさえ擦り寄ってくるものが多かったのだから、クゥにはもっと沢山の求婚者がいたんじゃないかしら。

 「まあ、昔遊んだ子供の事を覚えていても、その子が姫様だと気がついていないかもしれませんし」

 「……その可能性はあるかもしれませんね」

 あの時私は名前を名乗らなかったから、アルゴン国の姫だったとは気がついてない気がする。

 でも、私だと分からなくても昔遊んだ私のことは覚えていてほしいな。

 だって、あんなに仲良く遊んだんだもの。

 楽しくて幸せだったのは私だけじゃないわよね……。




 「セレン様。サマリ・クリプトン様からお花が届きました」

 ちょっぴり悲しい気分になっていた私にテルーが持ってきたのは薔薇の花束だった。

 薔薇……。

 薔薇の花を見ると、今日の薔薇園での事が思い出されてちょっといやだ。

 気分がずーんと落ち込んできた。


 「それから、クロム様からこちらが……」

 そう言ってテルーは私にリボンの掛かった箱を差し出した。

 え?

 クゥから私に贈り物!?

 先ほどまで沈んでいた私のテンションは一気に上がった。

 どうしよう、クゥから贈り物なんて嬉しすぎる!

 私は箱を受け取り、震えるゆびでそっとリボンを解いてみる。

 箱の中から出てきたのは花の形をかたどった手のひらサイズの飴細工だった。

 花びらの一枚一枚が丁寧に作ってあって、一見本物の花かと見まごうほどだ。

 「うわぁ……綺麗」

 「飴細工ですか。変わった贈り物ですね」

 「姫様、甘いもの好きですものね。良かったじゃないですか。味見してみてはいかがですか?」

 味見?

 リンの言葉に私は首をかしげた。

 食べる?これを?

 

 冗談でしょ?


 食べるなんて言語道断よ!これは永久保存しなくては!

 だって、クゥからはじめてもらった贈り物なんですもの。

 飴細工だから保存場所は日の当たったり、温度が高くなったりする場所じゃない方がいいわよね。

 出来れば飾っておきたいけれど、埃なんかが掛かったら、洗うわけにもいかないし、普段は布でも掛けておいて……いえ、いっそのこと箱に入れて厳重にしまっておいて、観賞するときにだけ外に出す方がいいのかも!

 でも、でもっ!出来る事ならいつもすぐに見える場所においておきたいわ!

 ああ!どうしましょう!!


 「セレン様?……セレン様!セレン様ぁ!」

 「テルー、今は何を話しかけてもダメですよ。姫様は今自分の世界にトリップしていますから、一見、深刻な事を考えて固まっているように見受けられますが、その実はきっと、どうでも良いような事を必死に考えているだけですから。しばらく放っておきましょう。大丈夫です。そのうち戻ってきます」


 飴細工の保存方法を考えるのに一生懸命だった私は侍女二人がこんな会話をしていた事にも気がつかなかった。

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