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いえっ、その、違うんです

 いけない、つい本音が出てしまった。

 私は青ざめたが、言ってしまった言葉はなかったことにもできず、部屋中にシーンと重い沈黙が広がった。


 手のひらに嫌な汗がじわりとわいてくる。

 どうしよう!?


 だってだって、昔振られた相手に嫁ぐのって嫌じゃない?

 しかも、完璧な政略結婚でよ。

 相手は私のことが好きじゃないけれど、私はクゥのことが好きなわけで……いえ、好きだった……ああ、もうっ!好きだったの過去形じゃなくて今も好きなのよ。

 認めるわ、認めればいいんでしょう!


 そう、認めた瞬間、私はなぜか脳裏に長い付き合いの侍女の笑った顔を見た気がした。


 私はたぶん今もクゥの事が好きなんだわ。

 だから私はクゥと結婚したくないのよ。

 嫌なのよ。


 私は後宮で国王のたくさんの妃を見て育った。

 彼女達はほとんどが政略結婚で後宮に迎え入れられた人々だった。

 結婚と言う枷をはめられ後宮という籠にとらわれた彼女達は国王中心の世界でしか生きる事を許されない。

 彼の寵愛を求める彼女達の中には彼の心をも求める者も居た。

 でも、国王の愛したのは私の母だけだったから……

 彼の心を……彼からの愛を求めた彼女達はその事に悲しみ、 心を歪ませて しまった。


 私は彼女達のようになりたくない。


 だから政略結婚をするなら 私が好きな人 以外としたかったのだ。

 喩え私のほかに好きな人が出来ても私が悲しまなくてすむ人。

 愛してくれなくても私が傷つかなくてすむ人。


 でも、もしもクゥと結婚したら私は望んでしまう。

 彼に愛される事を。

 彼が私だけを見てくれる事を。


 でも、それは無理な話。

 だって、クゥが好きなのは私なんかみたいなモノじゃないもの……



 長い沈黙を破ったのはクゥだった。

 「私が結婚相手では不満ですか?私ではあなたに釣り合わないとでも?」

 固まって動けなくなってしまっていた私に、クゥが鋭い視線で睨みながら私に詰め寄った。

 「いえっ、その、違うんです」

 急に至近距離に来たクゥに私は慌てた。


 ちょっ! 近い!近い!!近い!!!


 大広間で8年ぶりにクゥを見たときも手の届く近くにいると思ったけれど、今度は物理的に、本当に手の届く場所にクゥがいる。


 本当にクゥだ……夢にまで見たクゥだ。

 私は広間であったようにまたしても鼓動が早くなり、自分の体温が上昇したのを感じた。


 やだ、私顔赤くなってないわよね?


 8年ぶりにあう初恋の人を目の前にして私は自分でも信じられないくらい胸が高鳴る。

 けれど、彼の突き刺すような視線と目が合って私は再び青ざめた。


 「あ、あのですね、クロム王子に不満があるとかでは無くてでしてね……私の気持ちの問題と言いますか、あの…その……」


 うう、動揺して何だか変な事を口走ってない?

 このままじゃいけないわ!

 落ち着かなくっちゃ!

 そうよ、炎のセレン姫はこんなことくらいで動揺しちゃいけないのよ。


 私は心の中で自分に活を入れた。


 「すみません。突然の事で少し動揺しているようです」

 乱れた呼吸を整えつつ、とりあえず、必殺お姫様スマイルで誤魔化しておこう。


 お姫様スマイルとは、自分の本心を隠しつつ、敵意は無いのですよという感情を前面に表した微笑のことである。これはどろどろの人間関係が横行する王宮でとても役立つ技だ。

 しかし、これは一歩間違えば胡散臭い微笑みになってしまう。

 ちなみに命名したのはリンだったりする。


 私のお姫様スマイルはこの国でも通用するだろうか?

 どうか通用しますように!

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