いつもの・・・ 【短編ハードボイルド】
タバコの煙
淡いダウンライト
そろそろ終電車の時間だ
遠くにランディング体勢に入った黒い鳥が下りて行く
ディスプレイを落とし、セキュリティーをオンにした
わたしは黒い空間に背を向けた
眠らない、いや眠れない街
最終便であろうか
頭上を黒い鳥が飛び立っている
識別灯が悲しく見える
酒臭い電車で鳥小屋へ帰るか、それとも彷徨うか
やりきれない時は、琥珀の液体を流し込む
乾いた寒さを紛らわせるためなのか
「いらっしゃいませ」
アンティチャンバーにコートを掛けた
「いつもの」
言い終わる前に、バーテンダーがショットグラスに
アイスを放り込んだ
ワイルドターキー、オンザロック
喉から胸に容赦なく熱い液体が流れ、わたしの記憶を
呼び覚ます
切ない記憶だ
角の取れたアイスに再び悲しみが注がれた
「こんばんは」
「やあ」
となりにオンナが座った
わたしより長い常連客だ
「あなた、羽田の近くで見かけたわよ」
「会社が近いんだ」
「わたしもそう」
「羽田か・・・・・・」
黒い鳥に乗れば、悲しみは深くなる
「最終便のフライトが終わるとホッとするわ」
バーテンダーは僅かに頷いた
わたしは、テーブルに「いつもの」金額を置き立ち去るだけだ
「いつものか・・・」
暗い夜道で囁いてみた
人生で無くした大切な代償は果てしない大きさだ
胸のうちにある大切ななにか
わたしも「いつもの」疼きを感じながら生きていく
アイツもそうなのか
ご同輩にもあるだろうな
オトコの切なさかね・・・