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梅雨入り前

作者: 網笠せい
掲載日:2026/05/21

 ぱたぱたと窓ガラスに雨粒が当たる音で目覚めた。サッシの隙間をぬうような風の音がして、窓がほんの少し揺れた。


 外は薄暗い。大雨だからなのか、まだ日が上っていないのか、どちらだろう。私はスマホを探して時刻を確かめた。まだ朝の四時だ。ほんのり肌寒さを覚えて、カーディガンを羽織る。


 梅雨入りも間近になると、大雨が降ることがある。春の嵐というけれど、季節は初夏に近い。このまま梅雨入りかなとベランダに出ると、水びたしのサンダルがあっという間に靴下をぐっしょりと濡らして、コンクリートの上に雨水が広がった。コンクリートの色は変わらない。すでに雨で濡れている。


 ベンチに置いていた電子タバコのカートリッジがしんなりして、雨の強さを物語っている。私はカートリッジから一本取り出して、電子タバコにセットした。乾いた唇にくわえる前に、吸い口がぐにゃりと折れて曲がった。


 観葉植物は雨を受けて、みずみずしい葉っぱを輝かせている。今日は水をあげなくてもいいなと、葉からしたたる雫を見ながらタバコの煙を吐き出した。メンソールのすっとした香りと、雨の匂いが混ざっている。


 昨夜取り込み忘れたタオルが、風に揺れてほんの少しめくれた。すっかり雨を含んでいる。私はタバコを吸い終わるとタオルを取り入れて、水滴の滴り落ちる靴下を脱いだ。


 床に滴が落ちないように気をつけながら、脱衣所の洗濯物置き場に濡れた靴下とタオルを置く。最近切ったばかりの髪に寝癖がついているのが、洗面台の鏡に映った。布団に戻る。まだ起きるには早い。二度寝を決め込んで、目を閉じた。


 ゆっくりと眠ったあと、再びベランダに出る。サンダルをまたいで、ベンチの上に立った。まだサンダルには水たまりができている。


「晴れてる」


 早朝の天気が嘘のように、空がところどころ晴れていた。まるで台風が過ぎ去ったあとのようだった。大きな水たまりを跳ね上げながら、子供たちが走って行く。傘は差していない。


「今日は暑くなりそうだなぁ」


 洗濯物が、きっとよく乾くだろう。びゅうと風の音がして、頭をよぎった考えを打ち消した。この強風では、きっと洗濯物もすぐに飛んでしまうだろう。


 木々が大きくしなって葉をざわつかせるのをながめながら、私は眼下の景色を見渡した。


 じきに、梅雨が来る。スマホで見たSNSに、南の地方が梅雨入りしはじめたことを知らせるニュースが流れてきた。


<おわり>

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