まんじゅう大好き
彼はたいがい私のことが嫌いだ。
それは犬猿と仲と言っても決して過言ではなく、むしろ足りないくらいで。それはお互い承知している事実で、今更どうこうなるものではないのだと理解している。だから私はそれを逆に利用してやろうと思う。
「私はね、アンタが嫌い」
「ふーん」
「特に触れられるとね、寒気がするわ」
「……」
「抱きしめられた日には最悪ね。きっと泣くわ」
「……」
そう淡々と言えば単純な彼の口端が吊りあがる。大嫌いな私の弱点を掴んでいい気になってるに違いない。あなたのそういう単純なところ、大嫌い。
ぐいっ、と乱暴に腕を引かれて、気付けば彼に抱きしめられていた。……ほら、単純。
「……やめなさいよ」
「気持ち悪いか?」
「最悪よ」
それは本当。気持ち悪くはないけれど、気分は限りなく最悪。肌が粟立って、寒気を感じるのに全身から汗が噴き出た。
「放しなさい」
彼をけしかけたのは間違いだったと今更気付いた。これは、駄目だ。
「効果抜群みたいだな」
彼は放すどころか更に強く私を抱きしめてくる。そんな彼の腕を見たら鳥肌がたっていた。ああ、無理して私を抱きしめたりするから。そう思う私も決して冷静なわけではなくて、かちかちと歯がぶつかり合う。
……これは、私の予想が間違ってなければ「恐怖」だ。
「ざまあみろ」
「うるさいわ。黙りなさい」
ごめんなさい。本当は好きだなんて嘘。私は本当は、きっと誰よりも何よりもあなたが怖いんだわ。