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ポンコツAIスイと動物たちと往く、未来都市破壊日記。  作者: 猫の勇者
《1章:果実都市とレモンの魔王 》
6/7

修理屋ロイと動物ジェムット

 ジェムットマスター。

 それは、ジェムットと共に、道を歩むための最高峰の資格。

  戦闘力、知識、人格――あらゆる能力が要求される。


  修理屋ロイは、その上級資格を取得した。

  だが……、彼はとてつもないお人好しだという噂が、なぜかジェムット界隈で広まっていた。



  ***



 ロイの仕事場は、いつも機械音に満ちている。


 ウィィン、カチリ、カリカリ……。

 古いジェムドライバーが、規則正しく回転する音。


「……よし」


 修理台の上で停止していたジェムットの腕を、ロイは軽く叩いた。

 微かな振動のあと、指先が動き出す。


≪動作確認、正常≫


「はい、復旧。次は——」


 その時だった。


 ――ガタッ。


 作業場のドアが、勝手に開いた。


「……?」


 振り返ったロイの視界に飛び込んできたのは、

 二つの影だった。


 一匹は、耳の長い兎型ジェムット。

 もう一匹は、胴体の丸い猫型。


 二体とも、どこか様子がおかしい。


 兎は片耳が欠け、

 猫は歩くたびに「ピッ……ピッ……」と警告音を鳴らしている。


「マスター、ロイ!」

「ロイしゃん!」


「修理してください」

「修理!」


「お、お前ら……どこから――」


「れもえすタウン!」

「トワイライトアップルからです~」


  やや舌足らずな兎の女の子。

  行儀の良さそうな猫少年。

 対照的な二体だったが、どうやら一緒に来たらしい。


「ず、ずいぶん遠くだな……。で、通貨は?」


「ありましぇん」

「代わりに、オレンジパイを買ってきました!」


 ロイは、思わず頭を抱えた。


「くくっ……!ホントお前ってやつは最高だぜ、ロイ」

「修理してやれよ!わざわざ、遠くから来てるんだからよ」


 黒いバンダナを頭に巻いた無精ひげの男が、腹を抱えて笑う。

 ロイの同僚、ドニーだ。


「他人事だと思って……。

 どれだけ仕事が溜まってると思ってるんですか」


「そう言うな。若いうちは、人間関係を大切にするもんだぜ。

 まぁ――ジェムットだけどな!文無しの」


  ドニーは歯を見せながら、また笑った。


「……ロイさんご迷惑でしたか?

「それとも、オレンジパイはお嫌いでしたか?」


 相変わらず礼儀正しい猫少年。

 だが、その発言はどこか致命的にズレている。

 彼は不安そうに、異常音の鳴る胸元へ、ふわふわの白い手を当てた。


「むぅ~。耳ひとつで我慢しろと?」

 兎の女の子は、残った耳をそっと握り、不満そうに目を細める。


「あのな……気持ちはわからんでもない」

「だが、この世界は通貨で回ってる。タダで働いてたら、俺の生活が干上がっちまう」

「……わかるか?」


「……パイを増やせと?」

「チューまでなら、いいれすよ。

 あたしの、チャームポイントのためれすから。…… あっ。ほっぺれすよ!」


「お前ら――」


 ロイは言葉を探し、くしゃくしゃと髪をかき乱した。

 その背後で、ドニーは完全に腹を抱えている。


「今日も残業だな、ロイ。

 いやぁ、羨ましいぜ――"動物に好かれる"、マスターはよ」


「ジェムットマスターは、獣医じゃないんですよ……?」


 ロイは深くため息をつき、ドライバーを握り直した。


「はぁ……今回だけだぞ?」


「やりました!」

「はいれす!」


 二匹は歓声を上げ、ロイにすり寄る。

 動物型ジェムットは一部がメカだが、大部分は人工の毛で覆われている。

 その触感は、普通の動物とほとんど変わらない。


 ――その柔らかな毛触りだけが、ロイの心を、少しだけ癒していた。

 ……と、思いたい。


 家には居候。

 仕事場には、動物。


 ロイの苦難は、まだ始まったばかりだった。


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