修理屋ロイと動物ジェムット
ジェムットマスター。
それは、ジェムットと共に、道を歩むための最高峰の資格。
戦闘力、知識、人格――あらゆる能力が要求される。
修理屋ロイは、その上級資格を取得した。
だが……、彼はとてつもないお人好しだという噂が、なぜかジェムット界隈で広まっていた。
***
ロイの仕事場は、いつも機械音に満ちている。
ウィィン、カチリ、カリカリ……。
古いジェムドライバーが、規則正しく回転する音。
「……よし」
修理台の上で停止していたジェムットの腕を、ロイは軽く叩いた。
微かな振動のあと、指先が動き出す。
≪動作確認、正常≫
「はい、復旧。次は——」
その時だった。
――ガタッ。
作業場のドアが、勝手に開いた。
「……?」
振り返ったロイの視界に飛び込んできたのは、
二つの影だった。
一匹は、耳の長い兎型ジェムット。
もう一匹は、胴体の丸い猫型。
二体とも、どこか様子がおかしい。
兎は片耳が欠け、
猫は歩くたびに「ピッ……ピッ……」と警告音を鳴らしている。
「マスター、ロイ!」
「ロイしゃん!」
「修理してください」
「修理!」
「お、お前ら……どこから――」
「れもえすタウン!」
「トワイライトアップルからです~」
やや舌足らずな兎の女の子。
行儀の良さそうな猫少年。
対照的な二体だったが、どうやら一緒に来たらしい。
「ず、ずいぶん遠くだな……。で、通貨は?」
「ありましぇん」
「代わりに、オレンジパイを買ってきました!」
ロイは、思わず頭を抱えた。
「くくっ……!ホントお前ってやつは最高だぜ、ロイ」
「修理してやれよ!わざわざ、遠くから来てるんだからよ」
黒いバンダナを頭に巻いた無精ひげの男が、腹を抱えて笑う。
ロイの同僚、ドニーだ。
「他人事だと思って……。
どれだけ仕事が溜まってると思ってるんですか」
「そう言うな。若いうちは、人間関係を大切にするもんだぜ。
まぁ――ジェムットだけどな!文無しの」
ドニーは歯を見せながら、また笑った。
「……ロイさんご迷惑でしたか?
「それとも、オレンジパイはお嫌いでしたか?」
相変わらず礼儀正しい猫少年。
だが、その発言はどこか致命的にズレている。
彼は不安そうに、異常音の鳴る胸元へ、ふわふわの白い手を当てた。
「むぅ~。耳ひとつで我慢しろと?」
兎の女の子は、残った耳をそっと握り、不満そうに目を細める。
「あのな……気持ちはわからんでもない」
「だが、この世界は通貨で回ってる。タダで働いてたら、俺の生活が干上がっちまう」
「……わかるか?」
「……パイを増やせと?」
「チューまでなら、いいれすよ。
あたしの、チャームポイントのためれすから。…… あっ。ほっぺれすよ!」
「お前ら――」
ロイは言葉を探し、くしゃくしゃと髪をかき乱した。
その背後で、ドニーは完全に腹を抱えている。
「今日も残業だな、ロイ。
いやぁ、羨ましいぜ――"動物に好かれる"、マスターはよ」
「ジェムットマスターは、獣医じゃないんですよ……?」
ロイは深くため息をつき、ドライバーを握り直した。
「はぁ……今回だけだぞ?」
「やりました!」
「はいれす!」
二匹は歓声を上げ、ロイにすり寄る。
動物型ジェムットは一部がメカだが、大部分は人工の毛で覆われている。
その触感は、普通の動物とほとんど変わらない。
――その柔らかな毛触りだけが、ロイの心を、少しだけ癒していた。
……と、思いたい。
家には居候。
仕事場には、動物。
ロイの苦難は、まだ始まったばかりだった。




