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ポンコツAIスイと動物たちと往く、未来都市破壊日記。  作者: 猫の勇者
《1章:果実都市とレモンの魔王 》
5/7

ジェムットとデスオレンジ

 ジェムット。

 それは、共振水晶アクエテルを動力とするアンドロイドの総称である。


 アクエテルは、特定の波動や感情に“共鳴”し、

 それをエネルギーとして変換・増幅する特殊な結晶体だ。


 あるジェムットは、精神を雷へと変換する。

 またあるものは、知覚を拡張し、思考を研ぎ澄ます。


 その構造や波長は、ジェムットによって大きく異なる。



 ***



 ――そのジェムットの一体が、今ここにいる。


 シトラスレイン中央区。

 スラム街の入り口に、一軒のジャンク屋がある。

 男麗ん地(オレンジ)野郎。


 ジェムットのパーツやコア、旧式家電に食料品。

 雑多な品々が所狭しと並ぶ店内に対し、店頭だけは異様なほど統一感があった。

 オレンジがケース単位で、山のように積まれている。


 一瞬、八百屋と見間違うが――

 この店はれっきとした、ジェムット専門のジャンクショップだ。



「……その嬢ちゃんが、お前さんのジェムットか?」


 店主のカンキツが、値踏みするようにスイを見た。


「いえ。そういうわけじゃないんですが……」


「なんですか?レディに向かって、失礼ですよ」


 スイは、カンキツを睨んだ。


「れ、レディ……?お前さん、ジェムットだろ?」


「はい。ですが、見た目はほとんど人間ですよね?私の方が、カワイイくらいです」


 即答だった。


 カンキツは、言葉を失った。

 これまで無数のジェムットを見てきたが――ここまで偉そうな個体は、初めてだった。


 名のあるジェムットなら、偉ぶるのもわかる。

 だが、目の前のジェムットは無名も無名。小柄も小柄。しかも、非戦闘タイプ。


「ほら。変わってるでしょう?」

 ロイは、カンキツに耳打ちをした。

「だな……」


「流石は"あの博士"案件だったジェムットだぜ。とんでもねえジェムットと

 契約しちまったな、ロイ」

「だから、契約はしてませんってば。ただの居候ですよ」


 スイは徐に、店頭のバスケットからオレンジをひとつ手に取った。

 それを、まじまじと見つめる。


「お。嬢ちゃん、ソイツに興味があるのかい?」

「や、やめとけ……スイ。それは――」


 鼻先を近づけ、匂いを嗅ぐ。

 そして、ぽつりと呟いた。


「……酸味が足りないですね」


 ――ウィィン……カシャ、ぴぴぴっ……。


 何かの起動音が、響く。

 スイのおでこが、ほんのりと青く光った。


「糖度36.72148Brix……、クエン酸含有量0.24821%――」


 ぴぴっ。


「――これはオレンジではなく、柑橘の皮をかぶったシュガーモンスターです」


「おぉっと……?!随分と、手厳しいな。嬢ちゃん!」


「スイは、甘いものにはうるさいですからね。……異常に」


 ロイはそんなことを言った。


「シュガーモンスターは嫌いかい?嬢ちゃん!」


「スイは砂糖は袋ごと食べる派なんです。嫌いではありませんが……、

 それから、嬢ちゃんじゃなくて"スイ"です。

 どうしても呼びたいなら……、"レモンの魔王"とお呼びなさい」


「レモンの魔王?」


 カンキツは、きょとんとした顔を浮かべる。


「気にしないでください。そういう年頃なんです」


 ロイは苦笑した。




「しかし……あの天才、マスター・ロイがまさか、非戦闘型――

 それもタイプDと、なんてなあ。」


「よしてくださいよ、実績は何もないんですから。

 試験だけ強くて、恥ずかしいくらいですよ」



 がぶっ。



「……これ、案外イケますね」


「おぉっ!? 嬢ちゃん、いける口かい!?」


 一気に機嫌が良くなるカンキツ。


「お前、本当かよ。そのオレンジは――」

 そこまで言って、ロイは口を噤む。

 ジャンク屋としてはそれなりに繁盛しているのに、この店が赤字経営なのは、

 広大なオレンジ畑を手放さないからだ。


 そして、カンキツのオレンジを食べて、入院した客は数知れず。

 オービタの一部では有名な、呪われた果実(デスオレンジ)なのだ。


「いやぁ……

 流石はお前さんが選んだジェムットだぜ」


 カンキツは、満足そうに笑った。


「この嬢ちゃんは――大物になるに違いない。

 いずれ、"英雄機体"に。なんてな?」


「……んなわけないでしょう。その言葉の重さ、わかってます?」


「ははっ。相変わらず真面目だな、ロイ。冗談さ!」


 店内に笑い声が響く。


 少女の奥で、何かがそっと、カンキツのオレンジに共鳴していた。

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