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ポンコツAIスイと動物たちと往く、未来都市破壊日記。  作者: 猫の勇者
《1章:果実都市とレモンの魔王 》
3/7

ポンコツAI、出会う Ⅲ

 大雨の中、その男は突然現れました。


「こりゃ大変だ?!」


 そんな白々しい声をあげて。

 きっと、盗人さんでしょう。

 ワタシのコアが目当てなんです。男は、がらくたの中に埋もれているワタシの手を引きました。


 ワタシのコアは、誰も欲しくない。

 中古ジェムショップで、セールで398 ルクで、売ってたジャンク品なのです。


 どうぞ、ご自由に。

 ワタシは盗人さんに身を任せました。


「?」


 盗人さんは中々パーツに手を付けませんでした。

 ワタシは薄っすらと、目を開きました。


 変質者かもしれません。

 乙女のピンチです。濡れた視界の中に、ぼんやりと黒い影が見えました。


「あぁ、そういうことか……っ?!」

「?」


 盗人さんがそんな声をあげました。


「これならすぐに直せそうだ。

 んで……こんなところで寝てるんだ?」


 温厚なワタシも、流石にイラっとしました。

 寝てるわけじゃありません。旅立とうとしているのです。

 ワタシは、ロクデナシの顔を拝んでやりたくなりました。


 重い瞼を開くと、

 目の前で一人の男の人が、ワタシのカラダを触ってました。

 やっぱり、変質者でした。


 ジェムドライバーなんか持って、何をするつもりでしょう。

 そういう特殊な性癖な人が、何人もいるとワタシは知っています。


 人間の成人男子のうち――

 31.423%以上が変質者かお菓子(レモンパイ)泥棒だというデータが、

 ワタシのチップに登録されています。


 ジェムットは、子供は産めません。でも、肌の質感は人間そのものです。

 ワタシたちは、愛玩具ではありません。


(この……変質者(スケベブラック)!)


 私は、心の中で叫びました。

 ワタシのチップが、また勝手に更新されました。



「ひどいなこりゃ。どんだけ食えば、細部にこんな砂糖が詰まるんだ?」

「……」


 黒髪の男は、言い訳を口にしてました。

 本当に、白々しい男です。



≪内部温度、低下……、正常動作確認。省エネモード解除》


 ピピピ……ッ。ウィーン……。


 不思議です。どういうわけか――。


「これで、よし!」


「……?」


 なにか、様子がおかしいです。

 何かしたのでしょうか?


「これで動くはずだ。ほら?どうだ?」


 不思議とワタシのカラダは、少しだけ軽くなっていました。

 雨脚が少し弱くなったから知れません。


「もっと動くだろ?」

「ウゴキマセン」


 ワタシのチップは異常個体(ヘンシツシャ)は受け入れません。

 アンドロイドを、舐めないでください。


「思い込みだって!お菓子の食い過ぎなんだよ。内部にお菓子(レモンパイ)が詰まってただけなんだって」

「……」


 なんて、失礼な人なんでしょう。

 激しい怒りが込み上げました。

 お菓子の食べ過ぎ?まるで私を、食欲だけのごく潰しジェムットみたいに。


「スケベブラック」

「は?」

「ウゴキマセン」


「なんかの呪文か、そりゃ?」

「……」

「あとは一人でなんとかしてくれ。俺はもう帰るぞ」


 男は急に、帰る準備を始めました。


「中央区のオレンジが看板のジャンク屋に、俺の知り合いの店主がいる。」


「――奇人だが、まぁ面倒見の良い人だ。そこで、ロイに紹介されたと言えばいい」


 無責任な言葉を残して、スケベブラックは立ち去ろうとします。

 ワタシは惑星ヒミコのように重い体を起こし、なんとか声を振り絞りました。


「ま、まてっ……!」


「ん?どうした?」


 さきほどのジェムットさんが、ワタシを羨ましそうに見ています。


 ……そうだ、勇気を出せ。スイ!

 負けるな、権利(ショクヨク)を主張しろ!


 ―—明日のレモンは、自分で勝ち取れ!!



「れ、レモンパイ……!」


「は?」


 ワタシの声は、虚しく雨に響きました。

 空がワタシの悲劇に、泣いてます。


「……んて、……い男なのでしょうっ」


 呆れて声が震えます。

 ワタシは、空を見上げました。乙女の告白を、聞き逃すなんて。


 一旦、深呼吸して――。


 最後の願いを、紡ぎます。


「レモ……パイ……る、なら――」


 ワタシは、ほんのすこしだけ視線を伏せました。


 がんばれ、スイ!

 負けるな、スイ!


 ……ちら、と。おスケベさんの顔を見ます。


(——いまなら、言える。……ゴクリ)


「レモンパイ、食べさせてくれるなら――」



  雨音。



「あなたの、ジェムットになってあげてもいいです」


 そう言った瞬間、彼――修理屋ロイは小さく眉をひそめた。


「……は?」


 それが、私と彼の運命の出会いでした。


 今思い出すと、恥ずかしい事も"中には"あります。

 でも、仕方ありません。


 ……それも全部、あの博士の設計ミスなんですから。

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