ポンコツAI、出会う Ⅲ
大雨の中、その男は突然現れました。
「こりゃ大変だ?!」
そんな白々しい声をあげて。
きっと、盗人さんでしょう。
ワタシのコアが目当てなんです。男は、がらくたの中に埋もれているワタシの手を引きました。
ワタシのコアは、誰も欲しくない。
中古ジェムショップで、セールで398 ルクで、売ってたジャンク品なのです。
どうぞ、ご自由に。
ワタシは盗人さんに身を任せました。
「?」
盗人さんは中々パーツに手を付けませんでした。
ワタシは薄っすらと、目を開きました。
変質者かもしれません。
乙女のピンチです。濡れた視界の中に、ぼんやりと黒い影が見えました。
「あぁ、そういうことか……っ?!」
「?」
盗人さんがそんな声をあげました。
「これならすぐに直せそうだ。
んで……こんなところで寝てるんだ?」
温厚なワタシも、流石にイラっとしました。
寝てるわけじゃありません。旅立とうとしているのです。
ワタシは、ロクデナシの顔を拝んでやりたくなりました。
重い瞼を開くと、
目の前で一人の男の人が、ワタシのカラダを触ってました。
やっぱり、変質者でした。
ジェムドライバーなんか持って、何をするつもりでしょう。
そういう特殊な性癖な人が、何人もいるとワタシは知っています。
人間の成人男子のうち――
31.423%以上が変質者かお菓子泥棒だというデータが、
ワタシのチップに登録されています。
ジェムットは、子供は産めません。でも、肌の質感は人間そのものです。
ワタシたちは、愛玩具ではありません。
(この……変質者!)
私は、心の中で叫びました。
ワタシのチップが、また勝手に更新されました。
「ひどいなこりゃ。どんだけ食えば、細部にこんな砂糖が詰まるんだ?」
「……」
黒髪の男は、言い訳を口にしてました。
本当に、白々しい男です。
≪内部温度、低下……、正常動作確認。省エネモード解除》
ピピピ……ッ。ウィーン……。
不思議です。どういうわけか――。
「これで、よし!」
「……?」
なにか、様子がおかしいです。
何かしたのでしょうか?
「これで動くはずだ。ほら?どうだ?」
不思議とワタシのカラダは、少しだけ軽くなっていました。
雨脚が少し弱くなったから知れません。
「もっと動くだろ?」
「ウゴキマセン」
ワタシのチップは異常個体は受け入れません。
アンドロイドを、舐めないでください。
「思い込みだって!お菓子の食い過ぎなんだよ。内部にお菓子が詰まってただけなんだって」
「……」
なんて、失礼な人なんでしょう。
激しい怒りが込み上げました。
お菓子の食べ過ぎ?まるで私を、食欲だけのごく潰しジェムットみたいに。
「スケベブラック」
「は?」
「ウゴキマセン」
「なんかの呪文か、そりゃ?」
「……」
「あとは一人でなんとかしてくれ。俺はもう帰るぞ」
男は急に、帰る準備を始めました。
「中央区のオレンジが看板のジャンク屋に、俺の知り合いの店主がいる。」
「――奇人だが、まぁ面倒見の良い人だ。そこで、ロイに紹介されたと言えばいい」
無責任な言葉を残して、スケベブラックは立ち去ろうとします。
ワタシは惑星ヒミコのように重い体を起こし、なんとか声を振り絞りました。
「ま、まてっ……!」
「ん?どうした?」
さきほどのジェムットさんが、ワタシを羨ましそうに見ています。
……そうだ、勇気を出せ。スイ!
負けるな、権利を主張しろ!
―—明日のレモンは、自分で勝ち取れ!!
「れ、レモンパイ……!」
「は?」
ワタシの声は、虚しく雨に響きました。
空がワタシの悲劇に、泣いてます。
「……んて、……い男なのでしょうっ」
呆れて声が震えます。
ワタシは、空を見上げました。乙女の告白を、聞き逃すなんて。
一旦、深呼吸して――。
最後の願いを、紡ぎます。
「レモ……パイ……る、なら――」
ワタシは、ほんのすこしだけ視線を伏せました。
がんばれ、スイ!
負けるな、スイ!
……ちら、と。おスケベさんの顔を見ます。
(——いまなら、言える。……ゴクリ)
「レモンパイ、食べさせてくれるなら――」
雨音。
「あなたの、ジェムットになってあげてもいいです」
そう言った瞬間、彼――修理屋ロイは小さく眉をひそめた。
「……は?」
それが、私と彼の運命の出会いでした。
今思い出すと、恥ずかしい事も"中には"あります。
でも、仕方ありません。
……それも全部、あの博士の設計ミスなんですから。




