ポンコツAI、出会う Ⅱ
(……誰かの声は、ワタシには届きませんでした)
ガシャッ……。
音がしました。(なんだろう?)
首を横に向けます。ジャンクの中には、メカニカルなジェムットさんが横たわっていました。
瞳は真っ暗で。完全に、壊れているんです。
ボディにはヒビが入り、手足はおかしな方向に曲がり、
お腹のクリスタルは抜き取られています。
ワタシには価値がないから、クリスタルが盗られなかったのでしょう。
だからこそ、生き延びてしまったんです。
こんなことなら、盗ってくれればよかったのに……。
そうすれば、ワタシも世界の役に立てたのに。
オービタの水色の死神。
未来都市家電撃墜王。それが私——
ジェムット、スイの通り名でした。
見た目はアンドロイド。カワイイ(自称)女の子です。
能力値は小学生以下。犬より役に立たない。
【後悔は――ありません。】ワタシには、この世界はまだ、早すぎました。
【後悔は、ありません。】輪廻転生は、信じていません。
【後悔は……】
……独身の、レモネスピンク(29)が心配です。
ワタシは、目の前のジェムットさんと手をつなぎました。
きっと、このジェムットさんは、世界の役に立ったんだろうなぁ。
ふと、記憶の中のレモンが香りました。
だめだ――、思い出すな!!スイ!! 私はもう、終わりなんだ!!!
あの世には、レモンの木はないんだ!!
(お~~い、スイ! ワシじゃ、ワシ!
落ち着いて、システム音に、耳を澄ませるんじゃ~~)
その時ワタシは……
搾りたてのレモンジュース。
一気に飲み干した時の、その「エクスタシー」を思い出してました。
博士はパーツが酸化すると、見え見えな嘘をついてました。
きっと、博士もレモンジュースを狙っていたんでしょう。
―—なぜだか急に、博士のことを、思い出しました。
でもやっぱり、
ワタシはレモンパイが一番です。
ワタシは、レモンパイの為に生まれてきたんだって、魂がそっとコアに囁くのです。
「うっ……」
チガウ。泣いてなんかいない。これは、海水だ。
ワタシはもう、ダメなんだ。
煤で穢れた手で目をこすり、そっと目を瞑りました。
この目ももう、必要ありません。
ワタシはレモンパイが食べたいだけなのに――
どうして、邪魔をする? だんだんと、怒りがこみ上げてきました。
その時でした。
「あの男」が、現れたのは――
運命の相手。
なんて言ったら、照れちゃいます。
当時の私の、命綱。復活した、パイの供給源でした。
けれどそれは、
後に後世に名を残すことになる――
「名マスター」と、「名ジェムット」の出会い。
(今でも信じられないけれど……)
笑って泣いて。
これは、ポンコツAIが、「〇〇」になるまでの奇跡の記録。
(唐突かもしれません)
でもこれが、私——
スイとマスターの、あの日々の、懐かしき成長譚なのです。
もう少しだけ……、私の、昔話にお付き合いください。




