第九話 私、決めました!
いよいよ国王陛下との謁見。迎えの馬車が来て、乗り込む。付き添い人としてか昨日のウィンストン公爵が一緒に乗り込んだ。
こういうときって何か話した方がいいんだろうか。私は話題を探し、なんとかひねり出したのが──。
「お天気いいですね」
「おおそうだな」
天気の話題だった。たった一ラリーで終わり。終わった。完全に。
私があまりにも感情が表情に出ていたのか、ウィンストン公爵に笑われてしまった。
「あまりわれのことは気にしせずともいい。気楽にしたまえ」
「お気遣い感謝いたします」
どうやらすべて黙っていては気まずいと思っていたことがばればれだったらしい。余計な気を遣うなとのことだった。
さてがたごとと馬車に揺られてしばらくすると貴族街に入り、王城が見えてきた。遠くから見ることしかなかったからこんなに立派なのかと圧倒された。そのまま貴族街を抜けると、王城の門をくぐりしばらくすると、馬車が止まる。どうやら到着したらしい。
私はウィンストン公爵の従者の方に促されるまま、馬車を降りた。
「こちらだ」
借りてきた猫よろしくおとなしく黙ってついていく。どうやらこのまま向かうらしい。どこに案内されるのだろうと思っていたら、ひときわ大きな扉の前にたどり着いた。
ぎいっと大きな音をたてて開いた扉。そこは大きくきらびやかな空間となっており、玉座の間であることがはっきりと分かった。
「入れ」
「ははあ」
私はウィンストン公爵に倣い、頭を下げた。顔をあげるように言われ、視線をあげるとそこには玉座に座る国王陛下がいた。
その姿は姿絵通り威厳あるたたずまいをしていた。たしかアウレリアス殿下とシルヴァリアス殿下が生まれた時の国王陛下のご年齢が三十代と意外に子宝に恵まれたのが遅く、今となっては初老と言えるだろう。
私たちは入室を許され、そのまま玉座にいる国王陛下との対面をすることになった。
「そなたがマリア・テレジアだな」
「はいっ」
「そなたに話があり、呼んだ次第だ。大体のことは把握しているのだろう」
「恐れながら陛下、私の魔力と魔法属性が今回拝謁を賜ることになったことと関係していると存じております」
「そうだ。王子らの言う通り、聡いようだな」
「お褒めのお言葉ありがとうございます」
あー、発言一つ一つにどう返したらよいか頭をフル回転で対応する。謁見する機会なんてないから、この対応で合っているかはわかんない。相手は目上の人だからとりあえず下に下にとへりくだる。
「そなたはこの王国の建国史に聖女が深く関わっているのは知っているな」
「はい。存じております」
国王陛下はそう前置きをして話し始めた。
この国はもともと国土が闇の力に満たされており、作物も育たぬ不毛の土地だった。
闇の力はそもそもすべての元素を吸収する特性をもっており、それが原因だった。
その状況を一変させたのが当時の国王と聖女だった。
聖女は闇に包まれた地を光で満たし、不毛の地は豊かな場所になった。
それが伝説であった。
「──再び闇の力が強まりつつあるのだ。そこで頼み、いや違うな。王命だ。聖女としてこの国を守り導いてほしいのだ」
──つまり拒否権はないとそう言いたいのだろう。
「普通の民として育ったそなたを政などに引っ張り出すことになるのは不本意だが」
国王陛下の言う通り、私が聖女としての務めを受けるということは政局に巻き込まれることと同義だ。そうなれば家族やクロードとも離れ離れになってしまう。いまのきままに過ごすこともできなくなる。
そう言えばこれってもしかして学ロマの公式ルートなのだろうか。そもそもこれって私主人公で話進んでる?
ともかくだ。逃げ場は完全にない。選定の儀で浮かれていた過去の私を恨みたい。
「国王陛下、ひとつよろしいでしょうか」
「なんだ?」
「猶予はないのでしょうか──私はただの平民、この力の扱い方も何もわからないのです。だからせめて学ぶためにもアルカディア王立魔法学園にて学びたいのです。許していただけませんでしょうか?」
「たしかにふむ。そうだな。よし、許そう」
「ありがたき幸せ」
結局猶予をもらい、答えを引き延ばす流れになりかけた。これで何とか活路を見出さなければ。
できるなら逃げたい。でも、もしこのまま闇の力に包まれ、この国が壊滅的なことになってしまえば────。考えるだけで苦しい。やっぱり逃げられない。
大切な人たちを放っておいて逃げるだなんて。
その場は国王陛下に情けをいただき、答えを出すのを先送りにという雰囲気を──そんな流れだったけれど、私は立ち止まり振り返った。
「私、やります。大事な人たちがいるから、守りたいんです」
もし、大切な人と離れ離れになったとしても、守りたい。そう思ったから。
お父さんとお母さん、クロードには止められてしまうかもしれないけれど。
「いい答えだ。その答えを礼賛しよう」
国王陛下は私に拍手を送る。
もう逃げるところはない。私は覚悟を決めた。




