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第五話 大変なことが発覚しました

 この世界における魔法は、魔力によってあらゆる元素に語り掛けることによって、さまざまな現象を引き起こすことである。


 そう語るのは教壇に立つ魔法基礎学の教授である。

「魔力はこの世界にとって大事な素養であり、皆何かしらの魔力適性を持っている。ただ、受け継がれる魔力量は決まっており、階級がうえになるほど、多いと言われている。だが例外もある。例えば、クロード・ヘンリック君──この箱庭に魔力を分け与えてみなさい」

 前方に座っていた私たちのうち、クロードに声がかかる。

 クロードは立ち上がると教壇に立ち、先生の指示に従う。無機質な物質で作り上げられた箱庭に手を翳した。

 するとどうだろうか、地面が隆起し、そこからいくつもの植物の芽が生えてきたではないか。


 「ヘンリックくん見事だ。さすが平民生まれながら選定の杖に選ばれただけある。土魔法にとても適性があるようだね。詳しい魔力属性の検査は実技の時に行う。楽しみにしておきたまえ」

 先生めっちゃ褒めてる。あたりがざわつく。クロードのすごさがう伺い知れた。

 しかし選定の鏡やらなんやらいろんなものがでてくる。いよいよ魔法っぽくなってきた。この世界に生まれてはじめてのわくわくに心躍る。


「つづいてマリア・テレジア君もやってみなさい」

「は、はいッ」

 席についたクロードに代わり、呼ばれた私が席を立った。緊張で動きがぎこちない私を見て、皆笑い出すが、クロードの一睨みで場が凍り付いた。


「さあ、やってみなさい」

「あのいう感覚でやってみるといいですか?」

「そうだね……こう植物に水を与えるイメージだ」

「な、なるほど」

 伝わるような伝わらないようなイメージに戸惑いながら、私は目を瞑り手を翳した。

 想像したのは水を、魔力を分け与えるイメージだ。

 するとなんと瞼の隙間から光があふれだす。目を閉じていて目がくらみそうなほどの強い光に、あたりが騒然となった。


「マリア・テレジア君、止めたまえ!」

「は、はい!」

 私は栓をしめるイメージを浮かべた。するとその光はまたたくまに消え、あたりは静まり返ったに見えた。

 だが箱庭は──その無機質さは消え失せ、草木が大きく茂っていた。

「光魔法!?な、なんということか」

「え?」

「光魔法を扱うものは我が教壇に立つようになってから初めて見たぞ」

 先生の言葉にさきほどとは違うどよめきが起こる。皆は口々に、「やばくないか」と言い合っている。


「マリア・テレジア君。話がある。教授室まで来てくれるかね」

「は、はい」

 戸惑いながら了承する。私を呼び出した先生は私を連れ出すと、その場の授業はお開きとなった。


─────


 魔法基礎学教授室は整然と片付いており、私を部屋に入れると教授は部屋を固く戸締りした。

 ソファに私に腰掛けるように言うと、教授はお茶を用意してくれた。

 落ち着けるようにと茶菓子まで。なんというホスピタリティ。

 

「マリア・テレジア君──安心してくれたまえ。この部屋には防音のためのまじないが仕掛けておる。包み隠さず、話してくれ」

「えっと、何を?」

「いやいや、謙遜するでない。君はどこの生まれだね」

「西の平民街の服屋の娘ですけど」

「えっ、実は貴族の娘とか、神の言葉を聞いたとか」

「え、ないです」


 教授は「おかしい。光魔法をあつかえるものはそういない、ごにょごにょ」とか独り言を言い出す。ちなみに私は置いてけぼりだ。教授がくれたお菓子おいしい。

 

「その様子では、光魔法の特殊性についてもしらんようじゃな」

「そんなにめずらしいんですか」


 たしかにこういうファンタジーものにおいて光魔法と闇魔法は対になっていて、光魔法ってめずらしいというか悪と戦うみたいな宿命にあることも多いけど。


 ──そういえば、前世学ロマが好きだった友達が「主人公、てか学ロマ内の私はとにかく特別な力を持っているの!」とかなんとか言ってたな。このことなのだろうか。

 私の予想が正解ならば、それって私が主人公ポジションということにならないか?

 じゃあ、私の選択肢次第ではバッドエンドも!?


 私は勢いよくお茶を飲み、そこでむせた。

「大丈夫かね」

「けほッ、大丈夫です。と、ともかく、光魔法ってなんなんですか」

「ああそれについてだが──」

 教授曰く、闇魔法に唯一対抗でき、光魔法は四大属性の炎、水、風、土を助ける力あるらしい。

 なるほど、さきほど箱庭の植物の芽が立派な草木になったのは光魔法のせいかと納得できた。

 使い手は少なく、四大属性を助け、闇を打ち祓う力があるとかなんとか。

 なんかすごいらしい。


「このことは学校だけではない、国王陛下にも報告させてもらう」

「えっと、そうするとどうなりますか?」

「いろいろなことに担ぎ上げられることになるだろう──それこそ政局にも」

 まさしく私がもっとも避けたいルートではないか。いろいろ、とくに政治にも担ぎ上げられるとなると面倒中の面倒じゃないか。


「な、なんとか回避することは」

「できないであろうな──このアルカディア王国建国にもかかわった聖女と同じ光魔法を使い手となると」

「そんな……」

 なかば平穏な生活とはグッバイしそうになっていたとは言え、こうなってはしそうというどころか、もう確定事項だ。

「ともかくこのことは報告させてもらう。折を見て、国王陛下にも謁見することになるだろう。覚悟しておくように」


 私ががくりと肩を落として教授室からでてきたのを見たクロードは心配になったのか私に声をかけてくれた。

 私の中に渦巻いていたのは先の見えないどうしようもない不安。頼れる人がいるなら藁にもすがりたい気持ちだった。

「なにかあったんだな。それはそうか。かつて闇を討ち払った国の建国にもかかわったという聖女と同じ光魔法の使い手となれば……」

「うん……クロードはさ、私に何かあっても、そばにいてくれるよね」

「……当たり前だ」

 やっぱりクロードは頼もしい味方だ。「ありがとう」とクロードに声をかけると、彼は顔をそっぽ向かせて、「当然だ」と言ってくれた。相変わらずそのメガネの奥の表情は読み取れない。

 その時、なぜか頭上の数字がまた上がる。百二十。最近また上がっている気がする。


 次の授業に向かう途中、不意に現れた人影にぶつかる。思わず、転びそうになる私を支えたのはぶつかった相手であった。

 触れられた瞬間、ぞわり、なぜか悪寒がした。

「すみません。大丈夫ですか?お怪我は?」

 私の顔をのぞき込む男性。白髪と、赤い目が印象的だった。まるで魅入られてしまいそうなほど美しい顔立ちに私は目をそらす。

 私はそのひとの腕の中からそっと離れた。

「マリア、大丈夫か」

「あ、あ、うん。この人が助けてくれて」

「あんた、誰だ?」

「僕ですか?僕は魔法薬学教授、ヴィンセント・ブラフォード。そう言えば、まだ顔合わせはできていませんでしたが、生徒会顧問もさせてもらっていますよ。クロード君、マリアさん」

 にやりと不敵な笑みを浮かべるブラフォード教授は「それでは」と言って、去っていく。

 私は見つける。その頭上にあった数字は──もやがかかってかすんだように見えなかった。

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