第十話 閑話休題。何か不穏です!
王城から帰ってきて真っ先に出迎えてくれたのはお父さんとお母さん、それに幼馴染のクロードであった。
「マリア。お帰り。話とは、なんだったんだ?」
「それについては家の中で話してもいいかな。クロードも聞いて」
「わかった」
両親は店を一旦閉め、家族だけではなく心配してくれているクロードを伴って居間で話すことになった。
私は包み隠さず、まずは聖女の役割を与えられたこと、それでも王立魔法学園を卒業するまではなんとか猶予をもらえたことについて話した。
お父さんとお母さん、それにクロードは反対すると思っていた。けれど、みんなは私の話を始終、相槌を打ちながら、うなずいてきくだけで否定はしなかった。
「怒らないんだね。勝手に決めたこと」
「理由があるんだろう。それを頭ごなしに怒るのは違うからな」
「そうよ。あなただってもう成人まであと少しなんだから、あなたの意見を尊重しなくちゃ」
優しい両親だとは思っていたけれど、それ以上に理解のあることが誇らしかった。
「クロードはびっくりした?」
「いいや、なんとなくこうなると思っていたよ。僕としては否定することはないけど、少し心配かな。マリアは意外におっちょこちょいだし。何かに巻き込まれそうだし」
「えへへ」
私の信頼できる幼馴染はいつも通りの表情で笑う。
「いろいろと心配してくれてありがとね」
「……うん」
するとまた上昇するクロードの頭上の数字。私、なんか変なこと言ったかな。
ともかく、私が聖女としてのお役目を授かったことは今はまだ時期尚早にして公表されないになった。聖女が立てられたのはまだ経験のない話だ。逆に聖女という存在が立てられたならば国になにかあったのだろうと余計な不安をあおることになりかねないという判断だった。
正式な公示はまだと言えど、学内のうわさ好きの間では私が聖女としてえらばれるのではないかといううわさは広がっていた。
廊下を歩いているだけでもひそひそと何か言われる始末だが、なにもとくにいびりやいじめがないのは私にクロードという目ざといしっかり者の幼馴染がいるためか、それとも生徒会という後ろ盾があるからかわからない。
しかしクロードという存在と生徒会という居場所に助けられていることには間違いなかった。
「国王陛下の進言を引き受けたそうではないか」
「はい……」
「まあ、断るという選択肢は用意されていなかったみたいだが」
冗談めかして私に突っかかってきたように見えたけれど、アウレリアス先輩の視線の色が一瞬で変わる。
「とにかくだ。不安なことがあれば相談に乗るぞ。あまり気負うな。これは王族としての言葉ではない。同じ学び舎の先輩としての言葉だ」
「ありがとうございます。心にとどめておきます」
やっぱりこの人は尊大にふるまいつつもよく回りを見てくれているし、私にまで優しい。いい人だ。なんだか泣けてくる。
「まあ俺に惚れられても困るが」
豪快に笑う先輩。相変わらず冗談が笑えない。
そう言えば、頭上の数字はなぜかいつのまにか上がっている。四十という数字はどういう意味なのか。
そこにシルヴァリアス先輩もやってくる。
「アウレリアスにからかわれていたのか」
「シルヴァリアス先輩!まあ、そんなところです」
「君が自ら二つ返事をしたというのには驚かされたよ。君はこのような面倒な事態は避けたがっているように見えてたからね」
「あはは」
図星をつかれてたらしい。さすが人を見る目があるのだろう。どいう評価かいつのまにかシルヴァリアス先輩の頭上の数字も四十に上がっている。本当にこの数字、相変わらず謎だ。
「まあでも今回は国王陛下の進言を断った方が面倒なことになるよね、はは。ね、聖女ちゃん」
逆に数字が上がらないどころか下がりまくっているのがリアム先輩だ。茶化す態度でつかみどころがないのはいつもどおりだけれど、どこか私のことを冷笑しているような気がしているのは気のせいじゃないだろう。
それに突っかかるクロードはむっと眉を吊り上げる。
「面倒とかどうとかじゃなく、マリアは自分で決めた。それに大切な人のためだし……何か文句あるんですかリアム先輩は」
「落ち着いてクロード」
「そうだ。リアム。ちゃん付け呼びとは不敬であるぞ」
私がなだめようとすると、なぜかアウレリアス先輩が横やりを入れる。完全に火に油を注いでいる。シルヴァリアス先輩はため息をついている。
「すまない。マリア。リアムはこんなだが、いろいろあってだな……」
「別に庇わなくてもいいですよ。シルヴァリアス陛下。俺が嫌味なのは今に始まったことじゃないですよね。じゃあ俺は忙しいんで」
そう言って生徒会室から去っていくリアム先輩。シルヴァリアス先輩はさらに深くため息をつく。
「はあ。これだからリアムは……」
「放っておけ。いろいろと重なって見えていやなのだろう」
意味深げな二人のやり取りに気になることがあったが、聞くのも藪蛇になりそうで怖かったからやめておいた。必要があればまた先輩方二人が話してくれるだろうし、リアム先輩の口からではないところから聞くのも嫌だった。
そのあと私とクロードは事務仕事に戻った。もやもやは残ったけれど、それ以上尋ねる気にはなれなかった。
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「まさか、マリアさんがね」
手を止めたせいで、羽ペンにつけたインクが紙に黒くにじんだ。そのインクだまりは広がり、黒が覆っていく。
その表情は笑っているようにも意外そうにしているようにもインク瓶に映った。




