第十七の運命:弱虫な猫
ヒルダ視点
すべてはあの火事から始まったんだよ……。あたいらを引き裂き、幸せをすべてぶち壊し、この世界がどれだけ腐りきってるか分からせたあの火事からね。あの事故から一ヶ月が経って、他のみんなは平穏を求めてか、それぞれ別の道へ行っちまった。あたいは、ここに残ればまだ何か手に入るもんがあるんじゃないかって期待して、この街に留まったんだ。けどあいにく、そんなもんはただの希望に過ぎなかったよ。この場所の腐敗を目の当たりにした後じゃ、叶うはずもない希望さ。
ある夜、近くのコンビニでお菓子を買って帰る途中だった。一人の警官が突然バイクから降りたかと思うと、なんの理由もなくバイクに乗った高校生を撃ち始めたんだよ。そのライダーはスピードを出してたわけでも、悪いことをしてたわけでもなかった。あたいはそれを見て怖くなって家に逃げ帰り、バカ正直に警察署へ通報しちまったんだ。その結果、次の日にはあたいの家の前に重装備の警官どもが集まってやがった。ニュースを見りゃ、あのクズ警官どもが、昨夜自分たちの仲間が仕でかした射殺事件の容疑者として、あたいを仕立て上げてやがったんだ。だから、好むと好まざるとにかかわらず、あたいはこの腐った国を捨てるしかなかったのさ。
警察から逃げる身になって数週間が経ったけど、幸いなことに、あいつらはまだあたいの顔も本名も知らねぇから、自由に歩き回れてるよ。それでも、日々の暮らしのために他人から盗みを働かなきゃならなくなった。けど安心しな、あたいが盗むのは強欲な金持ちからだけだ。貧乏人の持ち物には指一本触れやしない。地元住民から強欲な奴らの情報を集めて、そいつらの富を全部盗み出した後は、あたいが必要な分だけ残して、そいつらに虐げられてきた連中に分け与えてるんだよ。
今はいつものように、この辺りの汚職役人の家に忍び込んで、宝を盗んでるところだ。絵画やら高価な品々が並ぶ中に、猫の形をしたアミュレットが目に入った。なぜか分からねぇけど、そのアミュレットがあたいを呼んでるような気がしたんだ。必要ないはずなのに、体が勝手に動いて、アミュレットに手を伸ばしてた。それを掴んだ瞬間、かすかな電流が走るような感覚が体中を駆け抜けた。アミュレットを手に取った途端、建物の警報が鳴り響いたから、捕まる前に急いで逃げ出したよ。十分遠くまで逃げ延びた時、突然体が信じられねぇくらいだるくなって、激痛に襲われたんだ。
そのまま意識を失って、暗くて誰もいない路地裏で倒れちまった。意識を取り戻した時、さっきまで真っ暗だった路地が、夜なのに妙に明るく見えたんだ。近くに光源なんて何もないのにさ。そこで気づいたよ、場所が明るくなったんじゃなくて、あたいが暗闇でもはっきり見える能力を手に入れたんだってね。それに、体が今までよりずっと軽く、しなやかで、素早くなってるのも分かった。
一週間ほど経って、手に入れた新しい能力のおかげで、金持ちの家に忍び込んで盗むのがずっと楽になったよ。今はヴァラスっていう、犯罪者や強盗、あらゆる堕落した連中が集まる街で盗みをしてるんだ。だから、あいつらの汚い金を一銭残らず絞り取るのに、ためらいなんてこれっぽっちもねぇ。
盗みを終えて家を出た時、アズイマがこの腐った街に入っていくのが見えた。
ヒルダ:『アズイマ? あんな子がこんな場所で何してんだよ?』
ヒルダ:『あの子は一刻も早くここを離れるべきだ。あんな純粋な子が、こんな汚い街にいちゃいけねぇ』
アズイマが街に入ってすぐ、数人の男にあいつが囲まれて襲われそうになってるのが見えた。あたいはすぐに割って入って、そいつらをぶちのめしてやったよ。近くで見たアズイマの姿には衝撃を受けたね。あいつの目にはまだ悲しみと後悔の色が浮かんでて、あの事故の後のまま、ボロボロに傷ついて絶望した顔をしてやがった。
ヒルダ:『あたい、あんたに一刻も早くこの街から出ていってほしいんだよ』
あたいは倒した男たちの貴重品を奪い取り、わざとアズイマに冷たく当たった。あたいのやってることを見て、あいつがここを去ってくれるように願ってね。
アズイマ:「ヒ、ヒルダ? 何してるの?」
ヒルダ:「見りゃ分かんだろ? 宝を盗んでんだよ、当然だろ」
ヒルダ:「この街じゃ、誰もが互いから盗み合ってんだ。殺しだって珍しくもねぇ」
アズイマ:「えっ? じゃあ、どうしてヒルダはこんな場所にいるの?」
アズイマが優しくあたいの手を握ってきた。
アズイマ:「ヒルダ、ここを出よう。もっといい場所がきっとあるわ」
あいつにそんなことされて、笑みをこらえるのがやっとだったよ。自分だって絶望のどん底にいるくせに、あたいみたいな奴のことまで心配してやがる。アズイマは、本当にこんな場所にいちゃいけない。
ヒルダ:『ごめんよ、アズイマ』
あたいはあいつの手を振り払い、突き飛ばしてやった。
ヒルダ:「ここを出る? お断りだね。あたいはここが最高に居心地いいんだよ」
アズイマ:「どういうこと? 嫌よ、ヒルダが一緒じゃないなら私は行かない」
あたいはアズイマに向かって怒鳴りつけた。そうすることが、あたい自身をも深く傷つけるって分かってたけどね。
ヒルダ:「行けよ、アズイマ! あんたみたいな奴の来る場所じゃねぇんだ、あんたと一緒にいたいなんてこれっぽっちも思わねぇよ!」
アズイマはうつむいて、大粒の涙をこぼした。
アズイマ:「分かった……ごめんなさい……何もかも、私のせいで」
アズイマは肩を落として、そのまま街を出ていったよ。
ヒルダ:『本当にごめん、アズイマ。でもこれがあんたを守るためなんだ。いつかまた会えた時、許してくれることを願ってるよ』
あたいはアズイマが安全に街を出るまで遠くから見守って、それから隠れ家に戻った。
一ヶ月が経って、屋上から盗みに入る予定の家を監視してた時、突然凄まじい地震が起きて、その後に恐ろしいオーラが爆発したんだ。激しい揺れで落ちそうになったけど、幸い無事だった。下の通りの様子を確認すると、そこには目を疑うような光景が広がってた。警官の制服を着た数人の野郎どもが、子供たちを襲おうとしてやがったんだ。それを見た瞬間、あたいは激しい怒りに燃えて、元の計画なんて放り出して、そいつらを片っ端から叩きのめして子供たちを助け出すために飛び降りた。
あたいは子供たちを隠れ家に連れて帰って、落ち着かせようとしたよ。
ヒルダ:「いいかい、落ち着きな。あたいはあんたたちを傷つけたりしないって約束する」
ヒルダ:「ここは安全だよ。ゆっくりしな、分かったかい?」
子供たちは次第に落ち着いて、笑顔を見せ始めた。その時から、あたいはただ金持ちから盗むだけじゃなく、通りで見つけた子供たちを助けて、危険から遠ざけるようになったんだ。あんな純粋な子供たちが、あんなクズどもに酷い目にあわされていいはずがねぇ。他に救う奴がいないなら、あたいが救ってやる。あたいがただの、「弱虫な猫」だったとしてもね。




